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51 レオノーラ&ティナVSクレアス

「ユナ様!」

「ユナ!」


 私の力が敵に奪われ絶望に打ちひしがれていたころ、ティナとレオノーラが同時に現れる。

 二人とも傷だらけの姿をしているが、体は十分に動くみたいだ。

 きっとそれぞれに充てられた敵を倒し、ここにまで来てくれたのだろう。


 無事で、よかった……


「いったい何が起きたんだ!?」

「それが……私の力が奪われて、たしか魔王の器にするって」

「魔王の器、ですか?」


 私自身、完全には状況を把握できていないため要領を得ない説明になったが、それでも危機的状況だとは伝わったらしい。

 二人は顔色を変えて魔族に向き合う。


「ほう、驚いたな。マギサとカテーナが敗北したのか。どんな策を使ったのかは分からないが、仕方ないな。アルマ、魔王様の復活はお前に任せる」

「了解」


 クレアスは敵が増えたことにも焦った様子はなく、堂々と立ちはだかる。


「ほう、一人で私たちを相手にするつもりか?」

「随分と余裕なのですね」


 レオノーラとティナもまた、自信に満ちた様子だった。

 けど、それはクレアスの能力を知らないからだ。


「聞いて、二人とも! その魔族には魔術は通じない。触れたそばから消滅させられるの?」

「消滅だと? どういう理屈でだ?」

「理屈なんてないよ。触れた魔力を消滅させるのが僕の体に刻まれた特異能力。ただそれだけの話さ」

「それは眉唾物ですね。実際に試してみましょうか」


 ティナは血に濡れた長髪を靡かせながら、冷たい視線をクレアスに送る。


氷磔(クルシフィクション)


 が、何も起こらない。

 ティナは目を細める。


「おや、何かしようとしたのかい? 無駄だったようだけど」

「内部からならばどうかと思ったのですが、通用しませんか。存外に厄介ですね」

「ならば次は私が行こう」


 変わるようにして前に出たのはレオノーラだ。

 けれど、彼女もまた魔術を扱い戦う者のはず。

 果たして勝ち目なんてあるのだろうか。


千色砲キャノン


 放たれたのは、千の色によって彩られた巨大な光の砲撃だった。

 Sランク魔物さえ優に消滅させてしまうであろう一撃だと肌で感じる。

 しかしそれが魔力によって生み出された魔術である以上、きっと――


「無駄だって、何度言えば分かるのかな?」


 クレアスは手を翳し、衝突に備える。

 彼の手が光に触れると、瞬く間に消え去っていく。

 しかし、それはレオノーラの用意していた罠だった。


「いや、それは囮だよ」

「――――なっ」


 光の砲撃に追随するように駆けていたレオノーラの拳が、攻撃を防ぎ切ったと思い込んでいたクレアスの頬にのめり込む。

 人族による物理攻撃は想定していなかったのか、クレアスの体は軽々と吹き飛んでいった。


「まだだ」


 レオノーラの攻撃は止まらない。

 もはやルークにも匹敵するのではないかと思う練度の身体強化を用い、続けざまに殴打や蹴りを浴びせていく。


 このままなら、いける――!

 そう確信を抱きかけたその時だった。


「ああ、ムカつくなぁ」


 重く、冷たく、苛立ったような声がクレアスの口から洩れる。

 これまでの余裕に満ちたそれとは違う。

 確かに敵意が感じられるものだった。


 ガシッと、クレアスのこめかみ目掛けて放たれたレオノーラの蹴りを、足首を掴むことで止める。

 レオノーラは驚愕に目を見開いていた。


「調子に乗るのも、いい加減にしなよ」

「くっ、貴様!」


 レオノーラの体が宙を舞う。

 クレアスを起点として振り回されたレオノーラは、そのまま力強く地面に叩きつけられる。

 体中の骨が粉々になったのではないか。そう思ってしまう程の激しい音が響き渡る。


「どいつもこいつもさ、僕が魔術を消滅させられることを知ったら、バカの一つ覚えみたいに物理攻撃ってさ。対策していないとでも思っていたのか? それなら通用すると考えていたのか? 残念だったね、その程度じゃ僕の敵にすらならないよ」 


 クレアスは歪んだ笑みを浮かべながら続けていく。


「ああそうさ、僕に敵う存在はこの世で二人だけさ。そのうちの一人が全ての魔を司る魔王様。例え僕の力を以てしても魔王様の魔力を全て掻き消すことはできない、そんな確信があるんだよ、あはは、ようやく会えるんだ! こんな幸せなことはない!」


 もはや自分一人の世界に入ってしまったようだ。

 彼自身、魔界で耐えがたい経験をしてきたのだろう。

 だとしても、そんなこと私たちには関係ない。

 魔王の復活を食い止めなければならない。


 そう決意を新たに立ち上がろうとした瞬間だった。

 地面が――否、遺跡全体が激しく揺れ始める。


 それに真っ先に反応したのはクレアスだった。


「ああ、ようやく終わったのかな」

「終わったって、何のこと……?」

「ブラッソが君たちの仲間を殺した音だろう。彼は馬鹿だけど実力は本物だ。僕を上回る二人のうちのもう一人さ。魔族随一の身体能力と、無限にも等しい再生能力の前には残念だがどんな搦め手も通用しなくてね。勝てるとしたら物理戦で圧倒的な力を見せつけるしかないが……レオノーラだったかな? 人間界最強とも言われる君の実力がこの程度じゃ、それが可能な者は魔王様を除いてこの世にはいないだろうね」


 それは、普通なら現実を突きつけられるような絶望の言葉。

 だけど、私たち三人がそう思うことはなかった。

 ――だって。


「残念だけど、その見込みは間違ってるよ」

「ええ、最強はお兄様ですから」

「そうだな。やはり貴様はルーク師匠とは違う。あの高みに、私を含めて辿り着いてはいない」

「……何を、言っている?」


 知っているから。

 誰よりも強い、その存在を。


 遺跡の揺れる音に続けて、何かが破壊される音が頭上から聞こえる。

 その音は大きくなるとともに徐々に近づいてきて。

 そして――――


「悪い、待たせた」


 最後の一枚を打ち破り、どうどうと私たちの前に降り立った。


「ルーク!」


 思わず、歓喜のままにその名を叫ぶ。

 ティナとレオノーラもまた、続けて彼の名を呼ぶ。


 クレアスだけが、理解できないとばかりに眉をひそめていた。


「なんだ、お前は……まさか、ブラッソを倒したとでもいうのか?」

「ん? ああ、確かそんな名前だったな。そうだ、この剣で倒してきた」

「……嘘だ、あり得ない! あのブラッソが人族ごときに負けるなど! それもこんな短時間で! アイツは無限に等しい再生能力を持っている! 一度や二度、いや、何十回倒したところですぐに復活するはずだ!」

「……無限、か。随分と安い言葉だな」

「なん……だと?」


 ルークは剣を構えながら、クレアスに向けて堂々と告げる。


「ああ、だってたった一万回くらい殺しただけだ。無限には程遠いだろう?」

「いち、まんかい……? この、たった十分足らずで……?」


 最早クレアスは言葉を失っていた。

 場を支配したルークは一度私たちの方を向いて、小さく微笑んだ。


「さあ、行こう」


 それだけで、限りない力が沸き上がる気がした。

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