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48 レオノーラVSカテーナ 1

 私――レオノーラ・フォルティスの前には、一人の女魔族がいた。

 茶髪のツインテールと純白の角が特徴的な彼女は戦場に見合わない余裕な笑みを浮かべ、構えを取る素振りすら見せない。

 私はそんな彼女から、言葉に表しようがない程の威圧感を感じ取っていた。


 女魔族は困ったような声色で告げる。


「あ~、ついてないなーアタシ。貴女ってあれでしょ? 人間界で最強だって有名なレオノーラちゃんだよね? アタシに勝ち目なんてないんじゃないかな?」

「冗談は大概にしろ。負けるなどとは一切考えていないくせに、この化物が」

「……ひどいなあ、さっきから化物化物って。アタシにはカテーナって名前があるんだよ? ぜひそう呼んでくれないかな?」

「――墓標には、その名を刻んでやる」


 御託はここまでだ。

 ルーク師匠はともかく、ユナやティナは魔族相手に苦戦している可能性が高い。

 早くこの敵を片付けて彼女たちに合流しなければならない。


 ――そもそも、この敵に勝てたらの話だが。


 ギリッと歯を食いしばりながら、カテーナの様子を窺う。

 これまでに感じたことのない気配。

 しかし、それでも強者であるということだけは肌で感じる。


 迷っていても状況は打開されない。

 全身全霊を持って、叩きのめす!


七色線(ライン)!」


 火、水、風、地、雷、光、闇の七属性によって生み出された光線がカテーナ目掛けて放たれる。

 一本一本が最上級魔術に等しい威力を持つ、私の十八番魔術だ。


「あはは、すごい威力だね」


 しかしカテーナは身軽に体を動かし、ツインテールを靡かせながら優雅に攻撃を躱していく。

 威力は高くても、直撃しなければ問題ないと考えているようだ。

 ――甘い。


「曲がれ!」

「ッ!?」


 私の魔術は追尾性だ。

 一度はカテーナを通り過ぎな七つの光線は、ぐるりと反転し彼女の背中を狙う。

 カテーナは咄嗟に振り返るが、躱せるタイミングではない。


「もう、仕方ないなぁ!」


 カテーナが何かを叫んだ直後、彼女と魔術が衝突した。

 盛大な衝撃音と共に、周囲には砂塵が舞う。

 通常ならば勝利を確信する場面だが、私が安堵することはなかった。


 この程度では彼女を倒すことはできない。

 いや、むしろそれどころか……

 

 頭に浮かぶ最悪な想定。

 それを証明するかのように砂塵は晴れる。


「もう、やられちゃうかと思ったよ」

「……まさか、無傷とはな」


 カテーナの体には傷一つついていなかった。

 どうやって防いだのかは分からないが、私はこちらの不利を突きつけられたかのような気分になる。

 この敵にどうやったら勝てる?


「……ん? なんだ?」


 私の視線はカテーナの二本の角に止まる。

 先ほどまでは純白だったはずなのに、色がついている。

 赤、青、黄……他にも幾つか。これは一体?


「じゃあ、次はこっちの番だね!」


 思考に費やせる時間がなかった。

 カテーナは魔族特有の身体能力を存分に活用し、瞬時に迫ってくる。

 まずい! 接近戦では、魔族相手に勝ち目はない!

 ここは一旦退いて――


「逃がさないよ――お返し!」

「なっ!?」


 下がろうとする私に目掛けてカテーナから放たれたのは、七色の光線――私が先ほど使用したばかりの魔術だった。

 上下左右から、逃げ場をなくすように襲い掛かってくる。


「自分の魔術でやり返される気分はどう!?」


 一度見ただけで、私の魔術がコピーされたというのか!?

 いや、それよりも先にこの状況をなんとかしなくては!


「くっ!」


 咄嗟に魔力を体に纏い、衝撃に備える。

 多少の傷は負ったとしても、致命傷にはならないはずだ。


 その予想は確かに正しかった。

 相手の攻撃が、魔術だけだったのなら。


「隙ができたね」

「――――ッ」


 魔術の猛攻を耐えきり、安堵しかけたその瞬間。

 眼前には、カテーナの姿があった。


 ドスン、と。

 重みのある拳が私の魔力防壁を貫き、内部までめり込んでいく。

 反射的に身体強化を使用するが威力を殺すことはできず、私の体は遥か後方まで吹き飛ばされる。


「がっ、は」


 血反吐を吐き、よろけるようになりながらも、何とか着地に成功する。

 非常に強力な一撃だったが、ルーク師匠には遠く及ばない。

 彼と戦った経験があったからこそ、今回は何とか耐えることができた。

 カテーナは追撃してくることもなく、私の様子を楽しそうに眺めていた。


「ふふっ、思ってたより私が優勢だね。このままだと貴女は無様に負けちゃうことになるけど、それでいいの? もっと抵抗してくれてもいいんだよ?」

「……ふざけたことを。敵に情けをかけたつもりか?」


 まるで私を煽るような物言いに、劣勢を自覚しながらも言い返さずにはいられなかった。

 先ほど後方に吹き飛んでいく私に対して、距離が空いていたため接近戦はできずとも、再度魔術を放っていれば私は為す術もなくやられただろう。

 そうしなかった理由など、私が舐められているからとしか考えられない。


 ひどく滑稽な話だ。

 人族最強とさえ言われたこの私でさえ、魔族の前には児戯も同然。

 井の中の蛙であったことを突きつけられる。


 ――だけどきっと、それでいいのだ。


 私はずっと、私を超える存在を待っていた。

 そんな私の前に現れたのは、魔術を一切使うことのできないルーク師匠だった。

 彼は魔術を扱えない自分を諦めたりせず、必死にできることを極めてあの領域に辿り着いた。


 私もそうなりたいのだ。

 万能の魔術師と言われようが、私にはできないことがあって。

 それを乗り越えることで、私はまた一つ強くなれる。


 だから今こうして、私が一切敵うことのない強敵が目の前にいること。

 これを喜ばずにいられるものか!


「ふふ、ふはははは!」

「なに? 頭がおかしくなったの?」


 突然笑い出した私を見て、カテーナが首を傾げる。

 けれど、そんなことはもうどうだっていい。


 私は間違えていた。

 ユナやティナが心配だからとか、早く敵を片付けて合流しなければならないだとか。

 そうじゃなかった。私が本当に求めているのはそんなことではない。


 魔術は通じず、それどころか模倣され。

 身体能力でさえ圧倒されてしまう。

 そんな強敵との戦いを楽しむこと。

 それこそが私の真の願い!


 そう覚悟が決まれば、視界に映る光景も別物のように見える。


「さあ、ここからが本番だ」


 さあ、いこう。

 最強のその先へ。


 瞬間、世界はスローモーションに変わった。

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