35 Aクラスへ
「ルークさん、お荷物お持ちいたしましょうか!」
「いや、いい」
セルパンの申し出を俺は一蹴する。
というか、なぜいきなりこんな態度になったんだろうか?
俺はこれまでに至る経緯を思い出す。
昨日俺は突如として現れたヒュドラを討伐した。
その後、Sランク魔物が現れる緊急事態により実践演習は急遽中止になった。
学生たちは解散となり寮に戻ることになった。
そして翌日、こうしてクラスに顔を出した途端、セルパンの態度が急変していたという訳だ。
……うん、よく分からん。
何でも話を聞くと、ヒュドラを圧倒する俺の戦いぶりを見て尊敬の念を抱いたのだとか。
そう悪く感じる訳でもないが、特にうれしくもなかった。
わざわざ言葉には出さないが。
「アートアルドさん、少しよろしいですか?」
セルパンの対応に困っていると、担任から呼び出される。
「実はですね、昨日アートアルドさんがSランク魔物を倒したことにより、規定として大量に加点されることになりました。よって期末試験を待つことなく、Aクラスへの転入資格を手に入れる運びとなりました」
「また試験があるんですか?」
「いえ、希望を出していただければ本日にでも異動が叶いますがいかがいたしますか?」
これは嬉しい誤算だ。
答えはもちろん。
「はい、行きます」
俺は迷うことなく頷いた。
そんなこんなで数十分後。
俺はAクラスの者たちの前に立っていた。
「ルーク・アートアルドです。よろしくお願いします」
次の瞬間、クラスの一番後ろに座っていたティナが勢いよく立ち上がる。
「とうとう、とうとうこの時が来ましたわ! お待ちしておりました、お兄様!」
「落ち着け、ティナ」
「はい、お兄様」
ティナはにこにこ笑顔のまま席に着く。
その様子を見て、教室の者たちがざわざわと騒ぎ始める。
「おい、ティナ様が笑ったぞ」
「ティナ様があんなに感情を表に出すのなんて初めて見た」
「ああ、なんてお美しい……私はこの光景を見るためだけにAクラスに所属しているのですわ!」
何だか怪しい人も混じっているような気がしたが、ほとんどの者はティナが笑うところを見たことがなかったらしい。
俺と一緒にいる時は常に満面の笑みだから不思議な感じだ。
と、誰もが転入生の俺ではなくティナを見る中、最前列に座る茶髪の優男が立ち上がり、俺に微笑みかけてくる。
「やあ、君が噂のルーク・アートアルド君だね。あのティナさんが尊敬するほどの実力を持つという」
「そういう貴方は?」
「ああ、申し訳ない。言い忘れていたね。僕はゼーエン・ランプロン。この通り、ティナさんと同じ絢爛学生会の一員さ」
そう言いながら、ゼーエンは胸元にかけられる金色のブローチを見せつけてくる。
なるほど、絢爛学生会だというならばその実力は確かだろう。
今後のためにも親交を深めておくのはいいかもしれない。
「そうか。これからよろしく頼む、ゼーエン」
「こちらこそさ」
言って、俺とゼーエンは握手を交わした。
挨拶に一区切りがついたタイミングを見計らってか、Aクラスの担任であるオルドが声を上げる。
「んじゃ、ルークの自己紹介も済んだところで移動だ。各自訓練場に移れ」
その言葉に従うように、学生たちが移動し始める。
そんな中、ティナは嬉しそうに俺のもとに駆け寄り、腕を抱きしめる。
「それでは行きましょう、お兄様」
「ああ」
それは俺からすれば見慣れた光景だが、周りにとってはそうではないらしい。
「なっ、あのティナ様に抱きしめてもらえるだなんて! 兄妹とはいえ羨ましすぎる!」
「許せねぇ……模擬戦でボコボコにしてやらあ」
「ふふ、ふふふ、つまりあの男の腕にはティナ様のエキスが染みついているという訳ですね。どのようにして入手してみせましょうか? ふふ、ふふふふふ」
やっぱりちょっと危ない人がいると思うんだけど。
防衛策とか考えておいた方がいいのかな?
「ところで、訓練場に移動して何をするんだ?」
「あら、そう言えばお兄様は初めてでしたわね。本日は四年生と五年生のAクラスによる共同訓練です。お互いに刺激を受けることが目的なんです」
「なるほど、そういう講義もあるのか」
第二学園ではなかった形式だ。
まああちらでは本当の意味で強くなろうと考えている者はいなかったため、それに合わせた講義内容になっていたからだろう。
期待感を抱きながら訓練場に辿り着くと、そこには見慣れた人物がいた。
「あっ、ルーク、ティナ!」
「……ユナ」
そこにいたのは綺麗な銀髪を肩まで伸ばす少女、ユナだった。