32 第一学園生活 初日
「ルーク・アートアルドです。どうぞこれからよろしくお願いします」
俺が所属することになったCクラスの者たちの前で挨拶を行う。
30名程の学生たちからは、疑うような視線が向けられていた。
「あれが炎黙の顎を倒したっていう奴か?」
「本当か? あまり強そうには見えないけど。転入試験を見てたやつはいないのか?」
「わたし、見てたよ。でも正直何が起きてるかよく分からなかったんだ。魔術を使っていなかったみたいで、変な武器で戦ってたんだ」
「魔術を使わない? なんだそれ、そんな奴が強いわけないだろ」
ざわざわと、俺に対する評価をおのおのが口にする。
転入試験を見ていた者はこの場に半数もいないようで、さらに見ていた者も剣士の戦いを見るのが初めてだったせいか、俺の実力を測ることができていないみたいだった。
噂によるとCクラスにはBランク下位~Cランク上位の者が集められているようだから、仕方のない話だが。
騒ぎが大きくなるかと思われた瞬間、担任がパンっと手を叩く。
「さあ、無駄話はここまでです。今日はこれから訓練所に移動し、三年時に学習した魔術をどれだけ使用できるかの確認を行います。各自移動してください」
学生たちはおずおずと立ち上がり、面倒そうに歩き始める。
この光景からは、あまり第二学園と違いが見えない。
第一学園では最下層のCクラスだからだろうか。
やる気を失っているのかもしれない。
俺は彼らに付いていくようにして、足を踏み出した。
訓練所に移動後、さっそく魔術演習が行われる。
ここでは俺にとって少し面倒なことが起きた。
担任が皆の前で告げる。
「では、まずは火魔術です。十分に距離を取り、それぞれが得意な魔術を私に見せてください」
「む、火魔術か……」
困った。
これまでのように、ただ魔物を倒したり対象物を破壊すればいいのではなく、魔術の発動そのものを求められてしまえば手がない。
ギルドの時と同じだ。
各自が中級魔術や上級魔術を発動していく中、何もしていない俺に気付いた担任が近づいている。
「何をしているんですかアートアルドさん。火魔術を使ってください」
「いや、それが実は……」
「ああ、そういえばアートアルドさんは第二学園出身ですから、周りが当たり前のように中級魔術や上級魔術を使用していることに驚いているんですね」
「いや、そうではなくて……」
「心配いりません。第一学園の学生と言えど、特定の系統の魔術が苦手という人もいますから。とにかく評価しなくてはいけないので、初級魔術でもいいので使用してください」
どんどん話が進んでいく。
この状況では本当のことを告げにくいが、仕方ない。
「俺は火魔術を使えないんです」
「……えっ? 初級魔術ですら?」
「はい」
「…………」
あまりにも衝撃的な発言だったのか、担任はぽかんとした表情を浮かべる。
驚いたのは担任だけではなく、周りの学生たちもだ。
「初級魔術すら使えないってどういうことだ?」
「なんでそんな奴が第一学園に? ってか第二学園にすらそんな奴いねぇだろ。平民じゃないんだから」
「やっぱ、なんか間違いがあったんじゃないか? 転入試験は二人で受けてたみたいだし、もう片方の奴の活躍に乗っかったみたいな」
「関わるのは止めといた方がいいみたいだな。強そうなら明日の外部演習に誘おうと思ってたけど、足手まといはいらないしな」
随分な言われようだ。
まあ、当然のことか。
魔術が使えないという事実のみを聞けばそういう評価になってしまうのだろう。
それからも魔術演習は続いたが、実戦形式のものはなく俺はただぼうっと突っ立っていることしかできなかった。
第一学園での一日目は、何もできないまま終わりを告げるのだった。