02 第一学園を目指す
実力者達と出会うにあたって、すぐに第二学園を出て行動することも考えた。
だが、実家のことなどを考えると少々面倒なことになるため、それは止めた。
親に迷惑をかけるのは全く問題ないが、第一学園にいる妹だけはずっと俺の味方をしてくれていたため、その恩には報いたい。
「となると、正攻法しかないか」
年に一度ある、進級試験。
第二学園の場合、ほとんど形だけで全員が進級できる。
大切なのは成績上位者に与えられる、第一学園への転入試験資格だ。
その資格を手に入れ、第一学園に入る。
そしてそこにいる強者たちと戦い、自分の実力を試す。
けど、そのためには一つだけ大きな問題があった。
「はあ? お前が成績上位者は無理だろ、実技の点数が0点じゃな」
現役のBランク冒険者であり、俺のクラスの教師であるリームがそう言った。
彼はヌーイとの模擬戦の場にはいなかったため、俺の今の実力を知らない。
だからこその言葉だと一蹴できれば簡単だが、一概にそうとも言えなかった。
進級試験の順位は学科と実技の二つから決まる。
割合は3:7。
学科は問題ないが、俺は実技の点数が低い。
というか0だ。
実技は定められた中から自分の得意な魔術をいくつか使用し、その完成度で点数がつけられる。
魔術が使えない俺は、そもそも最低基準に達していない。
それは今も同じだ。
成績上位者になるためには、九割の点数を取らなくてはいけない。
この問題を解決しないことには先に進めない。
そのための手段があることはもう知っている。
「いや、一つだけあるはずです。国立ギルドから学園に提供される依頼を達成するという方法が。それを利用する」
「ぷっ、ははは! それこそ不可能だろ! お前程度の実力じゃ、Dランクでも達成できねえよ! 死ぬだけだ! わりぃことは言わねえから素直に学科の点数だけで進級しとけよ、まあそれでも他の奴らから批判されるかもしれねぇけどな」
「…………」
この人に対する敬意は初めからない。
俺に力がなく周囲から嘲笑われている時、一緒になって笑っていた。
どのような評価を下されようと俺の決意は変わらない。
進級試験には加点方式が存在する。
国立ギルドから提供される依頼を達成すると、その難易度に応じた点数が加算される。
Dランクは10点、Cランクは40点、Bランクは80点、そしてAランクは200点。
学科と実技の合計点が100点なため、Bランク以上の依頼を達成すればその時点で主席は確定する。
今の俺の実力ならば、問題なくBランクは達成できるはずだ。
「表明はしましたので」
「ああそうかよ、死にてぇなら勝手に死ねばいいさ。俺には関係ねぇ」
「そうですか」
会話を終え、職員室を後にする。
リームだけではなく、他の教師たちからの視線も背中に突き刺さる。
お前なら無理だとそう言われているような。
もっとも、そんなことはどうでもいいが。
「っ」
「? ……ああ」
別の視線を感じたため見ると、取り巻きと一緒にいるヌーイが驚いたようにこちらを見ていた。
あの模擬戦以降、俺を避けているようだったが、偶然だろうか。
言葉を投げかける価値もないと隣を通り過ぎようとすると、ヌーイは小さく呟く。
「覚えてやがれ、後悔させてやる」
今この場でどういうつもりか問いただした方がいいかとも考えたが、彼の実力ではそう大したことはできない。そう考え、俺はその場を後にした。
学科試験と実技試験が終わった。
予想としては学科は満点、実技は0点だろう。
以前の模擬戦で少しはマシになったかと思った俺の評価も、再び低下した。
まあそれについてはいい。問題は次だ。
これから発表までの一週間のうちに、依頼を達成した分が加算される。
既にめぼしいBランク依頼は見つけていた、後はそれ達成するだけだ。
そう、考えていたのだが……
「依頼が、ない?」
「え、ええ、DランクからBランクまで全て既に受けられていて。こんなことこれまでなかったのですが」
受付所に行くと、職員からそう告げられた。
何かを知っているかのように目を泳がせている。
通常ではない事態が発生しているのだろう。
当然だ、例年ならこの制度を使うやつは一人もいないくらいだ。
何もしなくても進級は約束され、成績上位者を目指すような奴は学科と実技だけで十分なのだから。数十の依頼が全て受けられるなどありえない。
ふと、複数の視線を感じた。
ヌーイたちが意地の悪い表情でこちらを見ている。
――そういうことかと、理解した。
ヌーイは俺が成績上位者を目指そうとしていることを知り、それを阻むべく仲間を使い依頼を全て受けてしまったのだ。
この依頼は失敗したとしても加点される予定だった半分の点数が減点されるだけ。
そのくらいは全く問題ないと彼らは考えているのだろう。
それ以上に俺の邪魔をする方が大切だと。
……少し評価を改めなければならないかもしれない。
実力はないが、悪知恵は働くみたいだな。
「……どうしよ」
隣の受付では、俺と同じ説明を受け困った様子の少女がいた。
綺麗な銀髪を肩まで伸ばし、青色の瞳をきょろきょろと動かしている。
落ち着きがないが、大丈夫だろうか。
「どうかしましたか?」
そう尋ねずにはいられなかった。
彼女は俺の言葉にはっと顔を上げた後、苦笑いをしながら言う。
「え、えっとね、Bランクの依頼を受けようかなって思ってたんだけど、もう全部受けられちゃってたみたいでね。どうしようかなって、途方にくれちゃってて」
「第一学園狙いですか?」
「うん、そうなの。もう四年生だからこれがラストチャンスで、頑張ろうと思ってたんだけど……これは誤算だったかな、えへへ」
四年生ということは俺より学年が一つ上か。
しかし疑問が生じる。
「けど、Bランクを受けるくらいの実力なら、何もしなくても上位者くらいなれるんじゃ」
「えっとね、私、実技が苦手で。いつも点数が低いの。だから自分の得意な依頼があったらそっちの方が可能性があるかなって思ったんだけど、駄目だったみたい。仕方ないよね、みんな頑張ってるんだから、出遅れちゃった私が悪いんだし」
それは違う。依頼がないのはただの俺に対する嫌がらせのためだ。
……そんな理由で、必死に努力する人が不幸になっていい訳がない。
加点方式の決まりを思い出す。
依頼は一人ではなく複数人で受けることができるが、その場合は点数が人数で割られ加算される。
……元の点数が高ければ、二人で割ったとしても問題ない。
ヌーイは詰めが甘い。この依頼も潰しておけば本当に手はなかったというのに。
「あの、よかったら俺と一緒に依頼を受けませんか?」
「え? でも、もう依頼はないって……」
「残されているものもありますよ。これです」
ぴらっと、一枚の紙を見せると、彼女は目を大きく見開く。
「グレイド鉱山にあるマタシウト鉱石の採掘……Aランク依頼!?」
「ええ、これなら二人で受けても100点ずつ加算。成績上位者になるには十分です」
「そ、それは十分だけど、Aランクなんて危険なんだよ? そんなの……」
途中で彼女の言葉が止まる。
俺の眼を見て、何かを感じ取ってくれたのだろう。
覚悟のできた表情で頷く。
「そう、だよね。もうそれしか方法が残ってないんだったら、私も頑張るよ」
その決意に応えるべく、俺も全力を尽くすことを心に誓う。
「必ず達成しましょう」
「うん! あっそうだ、名前をまだ言ってなかったね。私はユナ・ミアレルト、よろしくね」
「俺はルーク・アートアルドです。よろしくお願いします」
こうして、俺とユナは共にAランク依頼を受けることになった。