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異世界で最強の剣士だった俺は、魔術師が支配する元の世界でも最強のようです  作者: 八又ナガト
第一部 最弱魔術師から最強剣士への成り上がり
11/55

11 転入試験開始

「さあ、とうとう本番だな」

「そうだね、ルーク」


 学園長室での会話から三日後。

 俺たちは転入試験を受けるべく第一闘技場に向かっていた。

 通常ならば試験は訓練場で行われるが、今回に限ってはこちらで行うと通知があったのだ。

 その理由はすぐに分かることになる。


「……ねえ、ルーク。人、多くない?」

「そうだな」


 第一闘技場の周囲には、何故か大量の学生がいた。

 純白の制服も黒色の制服も入り混じっている。

 試験後のこの期間は自分の領地に戻るのが慣習のはずだが、それを覆すぐらいの注目を浴びていたのだろうか。


 さすがにこれは想定外だ。

 俺はともかくユナが心配だ。


「大丈夫か、ユナ?」

「だ、だだだ、大丈夫だよ! わわわ、私に任せてね!」


 全然大丈夫そうではなかった。

 とはいえ、なんだかんだ言ってユナに度胸があることはもう分かっている。

 一度戦いが始まれば問題なく動けるだろう。


 そんなことを考えていると、こちらに近づいている複数人の影に気付く。

 合計で八人。その中心にいる赤髪の男は、俺たちに微笑みかける。


「初めまして、今回貴方達の相手を務めさせていただくパーティ炎黙の顎(えんもくのあぎと)のリーダー、ミカオー・フレンジェと申します。本日はよろしくお願いします」

「は、はい。ユナ・ミアレルトです。よろしくお願いいたします」

「ルーク・アートアルドです。よろしくお願いいたします」


 挨拶を終えるも、ミカオーは視線を俺たちから外さない。

 というよりはむしろ、俺からか。


「君がルークくんだね。弟から話は聞いているよ」

「弟?」

「ああ、ヌーイのことだよ」


 ここでようやく思い出した。

 フレンジェというのは確かヌーイの姓だ。

 アイツから何か話を聞いているのだろうか?


「ヌーイは君たちの試験結果が不正だと強く主張していてね。弟の頼みを受けてこうして相手を名乗り出たんだ。八対二なんて卑怯な形になってしまってすまない。僕たちは全員そろってようやくAランクとして認められる程度の実力だからね」


 気のせいだろうか。

 ミカオーの微笑みの質が変わる。


「だけど、安心してくれていい。仮に君たちがBランク程度の実力があることさえわかれば、結果に関わらず第一学園には推薦させてもらうからね。もっとも、それができればの話だけど」

「…………」


 これは言外に告げられているんだろう。

 俺たちにはAランクの実力などなく、それどころかBランクにすら達していない。

 それをこれから証明してやると。

 おもしろい。


「では、こちらからも一つだけ」

「なんだい?」

「これは私たちの実力を示す意図も含まれた試験です。例え圧勝できたとしてもAランクだと認められなければ意味はないので、そちらもそのくらいには頑張ってくださいね」

「ッ……言うね、君」


 むしろそっちがAランクにふさわしい戦いをしろよ、という意味合いの言葉に、ミカオーは表情をこわばらせていた。

 そんなミカオーの後ろから、新しく茶髪の男が前に出てくる。


「よお、ミアレルト、久しぶりだな」

「っ、あ、貴方は……」

「まさかお前が転入試験を受けると聞いた時は驚いたぜ。どんな卑怯な手を使ったのかは知らねえが安心しな。今回も俺が倒してやるからよ」

「…………」

「何にも言い返してこねぇのかよ。まあいいや、行こうぜミカオー。こんな奴ら、すぐに倒せるって」

「……ああ、そうだね。それじゃまた後で」


 去っていく八人の背中を見届けた後、ユナに問う。


「ユナ、あいつはいったい?」

「えっとね、学園に入学するとき、実力を図るための模擬戦があったでしょ? その時にボロ負けした相手なんだ。だから少し苦手意識があって……」

「そういうことか」


 それはまた勝たなければならない理由が増えたな。

 俺とユナは控室に向かい、試験開始に向けて準備を進めていった。



 闘技場に出ると、観客席に座る大量の学生が視界に入る。

 俺とユナに向けられるのは、懐疑や嘲笑といった視線だ。


「あの二人が突然変異種のロックドラゴンを倒したんだって?」

「ありえないって言いたいところだけど、男の方はティナ様の兄らしいからな。嘘か本当か分からないぞ」

「けど、どうせこれまで第二学園にいたような奴だろ? 無理に決まってるさ」


 聞こえてくる言葉から察するに、やはり否定的なものの方が多いか。

 仕方ない。その全てを覆してみせよう。


 突然、わあっと会場が沸く。

 どうやら向かいから炎黙の顎の八人が出てきたみたいだ。

 ミカオーをはじめとし、黄色い声が上がる。


「ミカオー様! 頑張ってください!」

「ヴェレ! そいつらの不正を暴けよー!」


 どうやら先ほどユナに声をかけてきた男の名はヴェレというらしい。

 彼らは慣れた様子で観客に手を振りながら位置につく。

 俺たちとの距離はおよそ100メートル。

 魔術師同士の戦いが基準とされているため、開始位置が離れているのだ。

 接近戦を得意とする俺たちにとっては不利な条件だと言えるだろう。

 しかし――


「やっと、お披露目だな」

「そうだね、ルーク」


 皆の注目が炎黙の顎に向けられる中で、俺は腰からその武器を抜く。

 透き通るような美しい刀身に、漆黒の鍔と鞘。

 俺がずっと待ち望み、ようやく手にすることができたその武器の名は――剣。

 ロックドラゴンと戦った時のような、その場限りの紛い物ではない。

 この三日間のうちにロックドラゴンの鱗と、とある素材を利用し作り上げた、高水準の強度と切れ味を誇る剣だ。

 会場からの注目が、一気にこちらに集まる。


「なんだあれ……武器なのか?」

「文献で見たことがある。剣じゃないか? 昔に使用されてたっていう接近戦用の刃物だ」

「魔術師相手に接近戦を挑むつもりなのか!? それもこの人数相手に? 無茶苦茶すぎる、始まる前から勝負がついたみたいなもんじゃないか」


 随分な言われようだ。

 けれど仕方がない。それがこちらの世界の常識なのだから。

 その常識を、これから壊してみせる。


 そんな俺の決意に水を差すように、ミカオーがはぁとため息をつく。


「呆れたね。魔術も使えない落ちこぼれだとは聞いていたが、まさかそんなおもちゃに頼るような輩だったなんて」

「おもちゃかどうかは、すぐに分かりますよ」

「そうだろうね、君たちの惨敗という結果が教えてくれるはずさ」


 それ以上、お互いに言葉を発することはなかった。

 開始に向け、集中力を高めていく。

 そして――


『それではただいまより、ルーク・アートアルドおよび、ユナ・ミアレルトの転入試験を始めます。双方、準備はよろしいですか? それでは――始め!』


 ――ゴンッ、と、鈍重な音が会場全体に広がった。


「……え?」


 会場の中でもいち早く、ミカオーは呆気にとられながらも音がした方に視線を向ける。

 半円状に広がっていた味方のうちの一人がうつ伏せに倒れているのに気付いたようだ。

 そして、倒れているその男のすぐ横には――


「まず、一人目だ」


 ――剣先を地面につけながら、次の目標を見定める俺の姿があった。

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