運命?
9
妹とゲームとか、隼人にとっては愚痴でも、俺にとっては何だか羨ましい話だ。
「楽しそうだな。つくづく羨ましいわ。」
「どこが!?」
「そこ!お喋りしてないで話聞きなさいよ!」
ババアに注意されて、授業に引き戻された。去年までは関わりが無かった。でも今年はババアの授業がある。
「じゃ、班に別れてみんなで協力してこの英文の訳を話し合ってみてね~!」
机を移動させていると、生徒の1人が手をあげた。梨理?
「先生~!」
「はーい!何?」
「先生は彼氏いますか~!」
はぁ?梨理の奴何を質問してるんだよ!!梨理は意地の悪い顔でこっちを見た。
「いませーん!彼氏募集中でーす!」
いい歳こいて何言ってんだよ!!
「でも、好きな人はいま~す!」
こっちを見るんじゃねぇ!ババア!!
「おお~!マジで?誰?どんな人?」
「つい最近まで蒙古斑があったくせに、一丁前に反抗期って奴~!」
教室は少し笑いが起こった。一番梨理の笑い声が大きかった。
「何だよそれ~!子供かよ~!」
「え~!先生子供いるの~?」
「いるよ~!」
みんなは口々にババアに質問した。
「年は?いくつ?」
「みんなと同じくらいだよ~?」
同じどころか、ジャストだよ!!
「え、ニッシーってヤンママなの?」
「それ、ヤンキーの方?ヤングの方?」
「どっちもじゃない?」
ババアはため息をつくと言った。お、ここは一喝か?いつものあれか?
「みんな、悪い事は言わない。絶対避妊しなさいね。」
えぇえええええ!!そっちか!!いやいやいや、みんな引いてる!引いてるから!!
「先生って、でき婚なの~?」
「そうだよ~!学生結婚。別に相手は働いてたし、後悔はしてないけどね~!」
いや、それ教室で聞かされるこっちの身にもなれよ!!この複雑な気持ちどうしてくれんの?
「先生~!結婚して~!」
バカやめろ!梨理は俺の顔を見て、不敵な笑みを浮かべていた。俺が何も言えないからって腹立つな~!
「え?水野さん!?水野さんは女じゃん!」
ババアがそう突っ込むと、男子生徒が言った。
「男ならアリ~?」
「あ~ハイハイ!そうゆうのは稼いでから言ってね~!先生は先生より稼ぎのある人としか結婚しません!」
自分より稼ぎがあったらすんのかい!そもそも既婚者だろうが!!
「お金は大事だよ?いい?みんな、先生みたいな可愛くて有能なお嫁さんと結婚したかったら…………」
それ、自分で言う?言っちゃう?痛いよ!痛すぎるよ!
「高額納税者になろうか?」
そこ真顔で言うな!!
「そのためには…………勉強しよう!!じゃ、英文の訳発表して~!」
隣を見ると、梨理が笑いをこらえるのに必死だった。
「何だよ?笑いたきゃ笑えよ。」
「廉のその、笑えない顔がウケる……く……くくく……。」
こいつ、絶対俺が何も言えないと知っていての仕業だ。くっそ!いっその事こいつの本性を全部、隼人やここにいる全員にバラしてやりたい!!
だから嫌だったんだよ!この性悪女と同じ高校なんて!!
でも、このイライラは思いの外、早急に解消される事になった。
次の日のホームルーム、あの勝ち誇った意地の悪い梨理の顔から、笑顔が消えた。
奇跡なんて、そうあるもんじゃない。だけど…………偶然が重なれば、それは偶然ではなく奇跡になる。
「先週に言っておいた通り、今日から教育実習生の受け入れを初めます。」
偶然が奇跡になって、もしその相手が、会いたいと願っていた人なら…………運命?そう思っても仕方がない。
隼人は里梨 凜が挨拶している姿を、まるでツチノコでも見たような顔で、呆然としていた。呆然とした後、自分の顔を何度も叩いていた。夢じゃねーよ。あれ、多分本物。
「今日からお世話になります。里梨 凜です。短い間ですが、よろしくお願いいたします。」
梨理は里梨 凜が現れた瞬間、前の席の隼人を呼ぼうとしていた手を……途中で力なく下げた。そして、その手を握りしめて下を向いた。
さすがの肉食女も、運命には逆らえないか…………?
多分、黒板の前のあの里梨 凜を見て、梨理はこう思ったはず。
だから嫌だった……この高校に来るのは。
それでも、この高校に来なければ、隼人の側にはいられない。そりゃ、そうだ。そんなに人生甘くはないって事だよな。こう言う時、ざまあ!とか言うんだろうけど…………
あまりに梨理が凹んでいて、言えなかった。