入部希望
8
あれから、田辺君の事が気になって仕方がない。教室でつい、田辺君の事を目で追ってしまう。放課後になっても、書道部の活動教室から、田辺君がみえないかな~?と窓から外を眺めていた。
どうせ私以外に部員なんていないし、ここでのんびり田辺君の姿を探していても何の問題も無いよね。
と、思っていたら…………
「佐藤さん、佐藤さん?」
「え?あ、すみません。」
大西先生が、私を呼んでいる事にやっと気がついて、慌てて目線を窓の方から入り口の方に向けた。
そこには、大西先生と女子生徒が1人立っていた。勝ち気そうな顔立ちに、髪は男の子みたいに短いショートヘア。いかにも運動部に入ってます!という感じの子だった。
「どうしたの?外なんか眺めて。小さいおじさんでもいた?」
小さいおじさん?校長の事?大西先生、校長の事ディスってる?
「いえ……」
すると、大西先生は女子生徒の紹介を始めた。
「こちら、入部希望の子。B組の稲葉さん。」
「はじめまして。稲葉沙紀です。C組の佐藤さんだよね?」
この子、私の事知ってるんだ。知ってるって事は、私がミス選択ミスって事を知ってる。
「あの、じゃあ、稲葉さんが部長やってもらえない?」
「え?どうして?元々の書道部は佐藤さんじゃない。」
私の提案に、大西先生も稲葉さんも驚いていた。
「だって……私…………選択ミス……」
「ああ、ミス選択ミス?そんなのくだらない男子につけられたあだ名でしょ?関係無いよ!」
そう言って、笑ってくれた。
ハキハキした、しっかりした子。迷いがなくて羨ましい。
そんな事を思っていたら、廊下かは話声が聞こえて来た。
「なんだかんだ言って、書道部に入るんだね。」
「違うって!何が楽しくて文字書くだけの部活に入らなきゃなんねーんだよ!」
「コラー!!廉!!」
二人の男子生徒が入って来た瞬間、大西先生は声を張り上げた。
「げ!ババアに聞かれた!」
「ババアだと?この絶世の美女に向かってババアだと?」
「痛い痛い痛い!」
大西先生は男子生徒の耳を掴んで引っ張って怒っていた。何だかまるで、お母さんが子供を叱ってるみたい。
「あれ?今朝の……」
もう1人の男子が私に気がついた。今朝の…………?
「あー!!今朝の二人組!!」
「あー!!今朝の座り込み女~!」
男子二人と、お互いに指を指し合った。
「座り込み女?!ちょうど良かった!佐藤さん、こちら入部希望の大西廉太郎。」
この人、入部希望!?
「やだよ!!」
「やだって言ってますけど?」
「じゃ、何でここにいるのよ?」
大西先生と男子は何やらモメていた。なんか…………気ままな部活ライフが脅かされてる気がした。
こんな事なら、廃部に決めれば良かった……。だから嫌だったのに……。新しく入部希望者探すなんて……。