理由
5
朝、改札から降りる階段で、うちの学校の女子が座り込んでいた。
「いつまで座ってんだよ。邪魔。」
「廉、そんな事言うなよ。大丈夫?」
そう隼人が声をかけると、女子は何も言わず、走って逃げて行った。
「なんでいつも廉はそうなんだよ?」
「なんで?理由なんかあるかよ。」
理由…………この高校を選んだ理由は3つ。
1つは、サッカー部があるから。もう1つは、地元の中学から行く奴が少ない。もう1つは…………こいつ。大森隼人。
小学校の時、些細な喧嘩をしてから何故か友達になった。それからは、一緒にいじめられそうになったり、その後戦ったり、親友というよりは戦友だ。
今は同じクラスで、毎日階段の踊場で昼飯を一緒に食べている。踊場は大きな窓があって、校庭が見渡せた。田辺は今日も昼休みにサッカーをやっているんだな……。
「妹とゲームやったんだけど、それがまためんどくさいんだよ……。」
隼人は弁当の蓋を開けながらそう言った。
「やっぱり隼人、何気に妹好きだよな~」
「好きじゃないよ!廉こそ、お母さん好きだよね。」
いやいや、隼人はわかってない。親が高校にいるという地獄!!
「いや、もしだぞ?もし、好きな女子が現れても、バレたら即、親に筒抜けってどうよ?俺、絶対彼女できないだろ?!」
「廉も彼女とか考えてたんだ。」
「考えるだろ!?高校生になったんだから!一年間何もなく過ごして、もう2年になったんだぞ?」
高校生になったから彼女という思考もおかしいかもしれないけど…………いや、おかしくはない!!
周りはみんな、新しい年度に、春の出会いに、浮かれまくっていた!それは、年上に年下に同学年、選び放題だ!!選ぶ権利は女の方にもある事はわかってるけど……今年こそはリア充高校生活に近づきたいんだよ!!
それが…………
「今年は書道部だよね?」
「いや、書道部は入らない!」
「いいの?」
ババアの言いなりになんかなるか!!人数合わせで地味な部活に入部はもうたくさんだ!!
「書道部とか絶対彼女できないだろ?」
「それ関係ないって。」
「母親が顧問って……ないわ!お前は俺の母さんの意地の悪さを知らないんだよ。あのババアがいたら恋愛なんて一生不可能だ!」
俺を見て隼人が笑った。
「やっぱり好きだね。」
「好きじゃねーっつの!」
しばらく弁当を食べ進めると、隼人はため息をついて呟いた。
「廉はまだいいよ。母親だし、年上だからキレられる。10以上も年下にキレられる?まぁ、結構キレてるけど。」
「結局キレてんじゃん。」
隼人はシスコンだ。しかも無自覚。俺には兄弟がいないから、少し羨ましい。
「親が甘過ぎるんだよ。あれじゃ、ワガママすぎて入学したら絶対いじめられちゃうよ。」
「お前本当にシスコンだな~!」
「あれ?バカにしてる?」
しかも、好きな人までいる。それも羨ましい。
「してるよ。嫉妬だ!嫉妬!今度の土曜、また行くんだろ?」
「うん…………。」
隼人はポケットからベーゴマを出した。
「いいよなぁ~!」
隼人には想い人がいる。小学生の時に家出した時に出会った年上の女。ICカードを借りた代わりに、デートに誘うという約束があると言っていた。
中1の時に偶然1度だけ会ったきりで、今でも連絡先は知らないらしい。その想い人を探す為に、週末に巣鴨に行っている。
「廉~!箸貸して!!」
そんな話をしていると、母親がやって来た。
「はぁ?」
「大西先生、箸忘れたんですか?」
「そうなの~!廉のは入れたんだけど、自分の入れ忘れちゃって。」
だからって何で俺の所来るかな?
すると、ババアはいつものように俺を注意してきた。
「ほら、廉ちゃんと座りなさい。ご飯こぼしてる。」
「うるさいな~!箸持ってさっさと行けよ!」
そう言って俺は箸を差し出した。
「悪態つくんじゃないよ!このバカ息子!」
そう捨て台詞をはいて、ババアは去って行った。
最悪だ。ババアのせいで俺の心休まる時間がない!!
「隼人、お前何でここの高校にしたんだよ!?俺への嫌がらせか?」
「その質問、今年もする?」
「するよ!あと2年、俺はババア地獄だよ!どこへ行ってもババア、ババア、ババア!」
隼人は弁当箱を片付けながら言った。
「ババアババア言いすぎだよ。リンがここの制服着てたからだって何度も言わせないでよ……。」
隼人は想い人の情報目当てに、この高校へ入った。それでも、ここ一年間でわかったのは、年と名前と所属部活だけ。
「でも、知ってて言わなかったんだろ?」
「言わなくても知ってるのかと思ってたよ。」
「普通そうゆう話題になるもんだろ?」
今思えば、どうせ隼人は想い人の事で頭がいっぱいだったんだろうな。
「その、里梨 凜?部活の後輩とかは?4つ上ならギリギリ接点あっただろ?」
「今年卒業した女子バレー部の先輩に訊いたけど……」
「よく、女バレの先輩に訊く勇気があったな……。」
隼人は想い人、里梨 凜に関して何の迷いもない。それも羨ましい。
「梨理に手伝ってもらったんだ。」
「梨理が手伝ったのか?」
梨理に手伝わせるとか…………お前は鬼畜か?
梨理は明らかに隼人が好きだ。それは中学の時からずっと。
「梨理が先輩に話を聞いて来てくれたんだけど、先輩はその先輩の事よく知らないって……。」
そんなの嘘に決まってるだろ?少し梨理を疑えばわかる事だろ?バカなのか?
隼人、お前バカだよ……。
本当は…………この高校に決めた理由はもう1つある。
その、あからさまに隼人を狙った、水野 梨理がいるから。
梨理の事が別に好きとかじゃない。ただ…………梨理が隼人を好きが故に、隼人が想い人へ近づくのを阻止されている事に、隼人は全く気づいていない。俺も弱味を握られていなければ、もっと詳しく説明してやれるのに……。
「前にも言ったけど、少しは疑えよ。」
「梨理の事?うーん。でも、協力してくれるって言ってるし。」
「このお人好し!」
この頭の中お花畑!!
梨理も隼人も、片想い。一方通行。この二人がどうなるのか気になって、二人について来た。
親の職場とは知らずに!!
バカは俺だ~!!
だから嫌だったんだよ!このお人好しに付き合うのは!!