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失恋


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マジかよ……信じられん。田辺が…………ずっと佐藤を想ってたとか……。マジか!!


え?いや、田辺モテるだろ?何故佐藤!?正直、田辺が佐藤を選ぶとは思わなかった。意外だ……。いや、よりによってなんで佐藤?


俺はどこかで、佐藤は田辺にフラレると楽観視していた。それが…………


まさかこの口で、佐藤に安っぽい祝福の言葉を言うとは思わなかった。


俺は…………上手く笑えていたんだろうか?


隼人が落ち込んで、空き教室の掃除用具入れに入ったまま出て来ない。無理もない。書道パフォーマンスは結果的に、隼人の公開告白になってしまった。


「おーい!隼人~!こっち、片付け終わったぞ~?出て来いよ!」


ガタンと音を立てて、隼人が出て来た。

「大丈夫か?なんか……ババアが転んだせいで、悪かったな……。」

「違うよ。大西先生のせいじゃない。僕のせいだよ。なんであんな時に、あんな事言ったんだろう!!リンには本気にされなかったし!!告白ってもっと、人気のない所で誰にもバレずにやるものだったなのに!!」

いやいや、それ暗殺。完全犯罪じゃねーんだから。


隼人は用具入れから出た後も、教室の隅で頭を抱えて、小さくなっていた。

「まあ、中にはみんなの前で告白する奴もいるだろ。相手が周りの目を気にしてOKする奴もいるだろうし。」

里梨先生の場合は確実に逆効果だ。OKだったとしても、周りの目を気にして軽く流すだろうな。


「隼人、お前里梨先生の事、マジだったんだな。てっきり、もう一度会えただけで満足なのかと思ってた。」

隼人も梨理も、本気じゃないんだと思ってた。


正直、自分も……。佐藤の事なんか、本気じゃないと思ってた。本気かどうかというより…………ただ、何となくいい感じになって、ただ、何となく一緒にいた。


それが、好きなのかどうかなんて…………考えた事が無かった。


佐藤が田辺に告られて、佐藤と田辺が付き合う事になって、初めて現実を突きつけられた。笑える。自分の気持ちに今さら気がつくなんて……。


「あのさ、廉、さっきから笑顔が妙に気持ち悪いんだけど、何かあった?」

「気持ち悪いって!」

「廉は落ち込むと、普段見せない笑顔になるよね。何?笑える~とか自嘲しちゃってる?」

おいおい!普段見せない笑顔って、俺が普段笑わねーみたいじゃねーか!笑うよ!全然笑うから!


「俺も失恋…………したんだと思う。」

「え?ええっ!?廉が!?廉がぁ!?」

「それは驚き過ぎだろ!」

そんな、天変地異みたいな扱いするな!そんな大事じゃない。


「あ、絶対ババアに言うなよ?いや、待て?フリじゃねーからな!?」

隼人はポケットから出していた携帯を、がっかりしてポケットに戻した。


絶対言うつもりだったよな?みんなに親子だとバレていた事を知った隼人は、堂々と俺の母親とやり取りするようになった。


「バレたからって、俺の事安く売り渡すんじゃねーよ!」

「だって、さっちゃん喜ぶから!」

「ババアの事をさっちゃん言うな!お前はババアの彼氏か!不倫相手か!」

そう突っ込んだ所で、気がついた……。


「僕には好きな人がいるのに~!酷いよ廉~!」

気がついた時には既に遅かった……。隼人はまた掃除用具入れに入って行った。うわ……めんどくせ~!

「どうせ僕はめんどくさいし、女々しいし、見世物だよ!」

掃除用具入れから、そう声が聞こえて来た。


うわっ全部事実!!いつものテンションなら、さすが!勇者お兄ちゃん!とか言ってた。でも今は…………告白すらせずに失恋した俺が、隼人の本気を茶化す気にはなれなかった。


「もういいから、学祭に行こうぜ~!梨理も探してたぞ?」

あ、やべ…………梨理は禁句だった。

フってフラれて…………今年の学祭は色々波乱続きだな……。


だから嫌だったんだよ…………。


この失恋は…………誰のせいにもできない。


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