本気で
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あっという間に、学園祭前日になった。準備は万全だけど…………前日の時点でどしゃ降りの雨だった。
それなのに…………隼人が職員室へ行くと言って、教室を出て行った。
「ちょっと待って!待ってよ隼人!!」
どうして?どうしてこうなったの?
「今、里梨先生の所に行くって言ったよね?何しに?」
「何しにって…………ただ、里梨先生に、書道パフォーマンス見に来てくださいってお願いしに行くだけだよ?」
それは、告白するって事じゃないの?どうして?急にどうしたの?
「待って!!」
私は隼人の手を掴んで隼人を止めた。
あの時、里梨凜に引き止められた時みたいに。今度は私が…………
「待って!水野さん、ちょっと待って!」
里梨凜は練習試合の後、私を探しに来た。私はちょうど帰ろうとしていて、その捕まれた腕を振り切って言った。
「あなたのせいだって言ったのは、深い意味は無いです。忘れてください。」
「そんな事ないよね?水野さん、私の事前から知ってたんだよね?」
私は迷った。だけど、ハッキリ本当の事を言った。
「知ってました。私の好きな人が、あなたにずっと会いたがってて…………正直、あなたとは出会いたくはなかったです。」
ハッキリ、言ってやろうと思った。
「そうなんだ……。じゃあ、その子に伝えて。私には順調にお付き合いしている彼氏がいるって。」
「隼人の事…………覚えてないの?」
「覚えていたとしても、4歳も年下、恋愛対象としては見られないから安心して。」
里梨凜は、そう笑顔で言った。
これは…………きっと、ずるい事だと思う。
私が…………そう言わせた。だって里梨凜は、先生だから…………そう言うしかない。
「だったら、これから先ずっと、私達とは一切関わらないで!」
「それは無理でしょ。今は生徒と教師なんだから。」
それは……そうだけど……。
「私、本気で教師になるつもりだから。あ、因みにさっきの誤解したかもしれないからちゃんと説明しとくね。一年間何をしてたんですか?の意味は、水野さんが練習しないで何してたの?の意味じゃなくて、先生は顧問として何をしてたんですか?って意味ね。」
そんなの…………どっちだっていいよ。どっちだって変わらない。私が6年間あなたに怯えて来た事は、何も変わりはしない。
「水野さん、運動できるのに勿体ないよ。」
それなのに…………あなたが悪い人じゃないなら、私は誰を恨めばいいの?誰を憎めばいいの?誰を…………嫌いになればいいの?
あなた以外に…………誰を?
「梨理?どうしたの?」
隼人に呼ばれて、我に返った。
隼人の腕にしがみつく私に、隼人が言った。
「梨理、本当に僕の事を考えてるなら、手を離してよ。」
そんな事言われたら…………この手を離さないわけにいかない……。
でも、この手を離せば…………隼人はあの人の所へ行ってしまう。離さなければ、隼人の心は離れてしまう。
どっちにしても、隼人を失うなら…………
「隼人、私、本気で隼人の事が好きなの。」
「え?それはこの前聞いたよ?」
「違う!!友達としてじゃなくて、男として!恋愛対象として好きって事!!」
私の告白を聞いて…………隼人は黙ったまま、固まってしまった。書道部の活動教室の前の廊下は…………恐ろしく静かだった。雨の音だけが、廊下に響き渡っていた。
だから嫌だった。…………本気で、告白なんかしたくなかったのに……。




