気づいた
30
学園祭まで、残り4日になった。結局、今の時点で当日の予報は雨だ。
雨の日の為に、渡り廊下に展示スペースを設ける事になった。廉と稲葉さんが、活動教室で梶原君の対応している間、僕と佐藤さんで展示物を貼る事にした。
「佐藤さん、次に貼るやつ…………佐藤さん?」
佐藤さんは展示物を持ったまま、ボーッとしていた。
「え?あ、ごめんなさい。」
「やっぱり、廉達が気になる?梶原君、また稲葉さんに死ねって言われてるのかな?」
僕がそう言うと、佐藤さんはため息をついた。
「何であんな事言っちゃったんだろう……。また選択ミスだぁ~!」
「あ、それ、ぐしゃぐしゃにしないで!」
「ああっ!ごめんなさい!!」
佐藤さん、誰に何を言ったんだろう?
「あ、そういえば、里梨先生が思い出したって言ってた。」
「思い出した?」
今、誰がって言った……?
「里梨先生が私達と同じ高校2年生の時、中学生の定期券拾ったんだって、それが大森君だったかもって。大森君、覚えてる?」
覚えてる……?
それを聞いて僕は、思わず叫んでしまった。
「覚えてるよ!!一度も忘れた事なんかない!!」
「え…………!?一度も?忘れた事……ない?」
佐藤さんがそう言って驚いていた。
「そっか…………今度の再会は、偶然じゃないんだ。」
どうして、佐藤さんががっかりするんだろう……?佐藤さんは何か迷った様子で言った。
「そっか……奇跡って、なかなか起きないんだね。」
「そんな事ないよ。僕、里梨先生に会いたくてこの高校に来たんだ。教育実習に来るなんて知らなかったんだ。先生が初めて教室で挨拶した時、奇跡だと思った。」
「え…………じゃあ、どうしてその奇跡を喜ばないの?」
いや、普通に喜んだけど…………
「大森君は、どうしてその奇跡に飛びつかないの?私なんか単純で…………奇跡1つで、人を好きになったつもりになっちゃった。」
「十分じゃないかな?奇跡1つあれば、十分だと思う。」
それが1つ、2つとなれば、運命を感じてしまう。
佐藤さんは僕を見て、そう思うなら告白すればいいのに……。という空気を出していた。
それはお互い様だよ……佐藤さん。
なかなか起きない奇跡が起きたなら、それが人を想う理由でも…………僕はいいと思う。
「大森君は告白イベント、ちゃんと、見てくださいって伝えた?」
「え?それは…………」
「結果がどうあれ、ちゃんと想いを伝えた方がいいよ!」
里梨先生に…………リンに、想いを伝える…………?
「私、当たって砕けてみる!告白イベント、ちゃんと見てもらう!」
「佐藤さんは勇気があるんだね。」
「別に、勇気がある訳じゃないよ。自分の選択が、あってるか確かめるだけ。だって、せっかく起きた奇跡を、無駄にはしたくないから。」
僕は…………奇跡を無駄にしてる?
だから、嫌だったんだ。
自分には武器がないとか、レベルが低いとか言い訳にして、逃げている事に気づかされた。
そして、大きな事に気がついた。今まで何度もコンテニューしてきたのに、今さら臆病になる事なんかない。




