神様は糖尿病
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あれから私は、猛烈に練習をし始めた。太った人の声真似…………デブ声を。
そんなの嘘、本当はバレーボール。
今さら真面目に練習した所で、経験者に追い付けるとは思ってない。それでも、隼人を気にする余地が無ければ、忘れられる。近くにいても、気にならなくなる。そう思った。
「顔色悪いけど大丈夫?」
自動販売機の近くのベンチに座っていると、佐藤さんに話しかけられた。
「ちょっと今、忙しくて……」
「ええっ!じゃあ、書道部はなるべく……」
「いいの。自分でわざと忙しくしてるの。だから、忙しくしたいからもっと仕事ちょうだい!!」
このまま、忙しくしていれば、忘れられる気がする!!
と、思ったら目が回って、倒れた。
「水野さん!?」
気がついた時には、保健室で寝ていた。
「梨理、大丈夫?」
え?ええっ!!隣には……隼人がいた。何!?このボーナスステージ!!
「もしかして……隼人が運んでくれたの?」
これは……これはもしかして、憧れのお姫様抱っことか!?なんでそんなにオイシイシュチレーションに記憶がないの~!?も~!!
「僕じゃないよ。ゴリ田先生が運んでくれたよ。」
体育教師のゴリラか!!いい!!記憶無くていい!!無くて正解!!
つくづく…………人生甘くない。神様の意地悪!!しょっぱいよ!しょっぱ過ぎ!!少しくらい甘い物欲しくならない?糖尿病なの?
「大丈夫?梨理が倒れるなんて珍しいね。体だけは丈夫なのに。」
「あ、うん……。」
隼人、女子に体だけは丈夫って、褒め言葉じゃないからね?
「最近忙しそうにしてるけど、もっと僕に頼っていいんだよ?僕はいつも梨理に頼ってばっかりなんだから。」
「隼人…………」
何だか、隼人への想いが溢れて来て、思わず伝えていた。
「あのね…………好き。」
「あ、うん、僕も好きだよ~!」
「ええっ!?本当に!?」
いや、ちょっと待って?その軽い返事…………
「梨理は昔からお姉ちゃんみたいだから好きだよ。」
「え…………。」
「え?」
あ、甘くねぇえええええええ~!!ですよねぇ~!!
「じゃあ…………里梨先生は?里梨先生の事…………好き?」
「…………わからない。かな?好きって何なのかな?僕、よくわからないんだ。里梨先生は……お母さんって年じゃないし、お姉さんみたいじゃないし、妹みたいでもない。」
「そこ、身内に置き換えるのやめようようか?」
隼人は、多分、恋人という概念がない。だから、ずっと側にいれば恋人というカテゴリーが出来て、その座に君臨できると思ってたのに……。
「身内じゃないなら…………梨理みたいに友達でもないし…………」
「そ、そうだね……。」
何とか…………かろうじて、隼人の中に友達というカテゴリーはできた。そこには入れてるかな?いや、そこに入ってしまったがために、告白が無駄に……!!
振られた方がマシだよ……。振られたら、諦められる。友達だねって笑顔でいられたら…………諦められないよ!!
「神様は糖尿病。」
そう言って私は、もう一度布団に入った。
「とにかく、これからはあんまり無理しちゃダメだよ。僕もできるだけ協力するから。」
ズルいよ!!隼人は…………ズルい。
だから…………私もズルい事した。
だから嫌だった……あの時の事を思い出すと、自分が醜く感じる。




