地雷
21
あれから、隼人には何も言えずにいた。里梨先生が家に来た事も、本人知らぬ間に振られた事も。
ごめん隼人、俺には言えない……。俺からは何も言えない!!
放課後、書道部に向かう途中、里梨先生とすれ違った。俺は動揺を隠すために、努めて普通に挨拶した。
「里梨先生、さようなら。」
「はい、さようなら~!気をつけて帰ってね~!」
「…………。」
里梨先生が通りすぎるまで、隼人はずっと下を向いて黙っていた。
「なぁ、今チャンスじゃね?追いかけて話かけて来たらどうだ?」
せめて、前から知ってたって事ぐらい、伝えてもいいんじゃないか?
「もういいんだ。僕、リンの事は諦める事にしたんだ。」
「はぁ?何で!?梨理か?梨理のせいか?」
隼人は少し迷ってうなずいた。
「うん……梨理のせいって言うより、梨理のためかな?」
うわぁ~!!とうとうあの女やりやがった!
「里梨先生に、恋人がいるってわかって、泣いて電話かけて来た。何度も何度も謝って。もしかしたら、梨理に使命感みたいなものを植え付けてたのかもしれない。」
そんな訳ねーだろ?!あいつは隼人の邪魔してんだよ!
「梨理にもういいって言ってやりたくて…………諦める事にしたんだ。」
「それ、梨理を理由に、自分が辛いから諦めるんじゃないのか?」
「…………そうかも。」
じゃあ、だったらどうして帰りの挨拶もできないんだよ。諦めたなら、以前会った事ありますよね~?ぐらいの世間話できるはずだろ?
なんで今でも、そんな辛そうな顔してるんだよ。辛いから諦めたんじゃないのか?
俺は、立ち尽くす隼人を置いて、先に書道部の活動教室に入った。
書道部は学園祭に向けて、書道パフォーマンスをやる事になった。その話し合いを女子達が先にしていた。
「うちのクラスに生徒会役員がいるから相談してみるよ!」
稲葉がそう言っていた。
稲葉の意見に佐藤が言った。
「それより、実行委員会かな?体育館貸してもらえるかな?今からじゃキツいかな?」
「じゃあ実行委員長直談判しかないか?確か実行委員長、田辺。」
俺が田辺と……と、そう言おうとすると、先に稲葉が言った。
「じゃ、実行委員会に直談判は栞がやってよ。ね?」
「ええっ!」
栞って…………佐藤の名前?何で佐藤が?あ、部長だからか。
更に稲葉は思い出したかのようにとんでもない事を言い出した。
「栞が中学1年の時って事は、四年前?里梨先生まだいたよね?里梨先生に聞いてみたらどうかな?」
え…………それ、誰が?誰が訊くの?
稲葉のその意見を聞いた二人は、隼人少し下を向いて、梨理は外の方を向いた。
里梨先生に…………?おいおい、稲葉…………そこは踏んでくれるな!!そこは恐ろしい地雷だ!!
「私に直談判なんて無理だよ!どう話せばいいかわからないし!」
「じゃあ、俺が…………」
「大丈夫だよ!栞ならできるよ!」
「俺が…………」
稲葉にすげー睨まれた。般若か?その目で伝わって来る。空気を読め!!…………と。
「大西、ちょっとこっち来て。」
そう言って稲葉に教室の隅に連れて行かれた。
「大西、栞はサッカー部のプリンスとお近づきになりたいの。くれぐれも邪魔してくれるなよ。」
「えぇっ!!佐藤、田辺狙い?!」
「声がデカイ!!あんたライオンなの!?大西ライオンか!?」
それ、ここで持ち出すか?
「とにかく、一緒に行くなら栞をアシストしてやって!!」
俺にyesを求めて、稲葉は俺に迫って来た。近い!近い!近い!
「あ、あー、わかった、わかったから……。」
稲原に半ば強制的に、佐藤と一緒に行く事になった。
アシストって…………どうすりゃいいの?え?1人で行っちゃダメ?
「1人で行こうとか考えてる?それならこっちも考えがあるからね?」
え…………何?怖いんですけど。
「大西先生と大西君って似てるよね~?親子みたいだから、親子共演~!とかにしちゃうのどうかな~?」
「それい~ね~!」
いや、それリアルに親子共演になっちゃうからヤメテ……ヤメテクダサイ。
「あはははははは、みんな、嘘は良くないよ!嘘は!」
「廉、それあんたが言う?」
「え?大西君嘘ついてるの?」
「そんな訳ねーだろ?あは、あはははは!アシスト、頑張りマングース!」
だから嫌だったんだ。女子のいる部活って……。
いや、嫌じゃない!!全然嫌じゃない!!恋とか愛とかはかけ離れている気がするけど……何もないよりマシだ!




