妹
2
僕には、年の離れた妹がいる。11歳年下のマリ5歳。
ある日、学校から帰宅すると、母さんにお願いされた。そのお願いというのは…………
「マリちゃんがゲームやってみたいんだって。隼人、一緒にやってあげて。」
「何で僕!?隆人の方が暇だろ?」
弟の隆人は小学2生で、僕よりマリと年が近い。
「隆人とはすぐ喧嘩になるから。どうせ勉強なんかしないんでしょ?可愛い妹のためじゃない。」
そう言って母さんはマリを呼んだ。
「マリ~!」
すると、パタパタと軽い足音を響かせてマリがやって来た。
「隼人が一緒にやってくれるって~!」
マリは僕の制服の袖を握って引っ張った。
「隼人~!一緒にやろう?」
「マリちゃん、いつもパパにお願いするみたいにやってごらん。」
母さんに促されて、マリは僕にしがみついて、必殺うる目上目遣いを繰り出して来た。父さんは百発百中、これでイチコロだ。
「お兄ちゃん、お・ね・がい!」
うーん。仕方がない…………こうゆう時だけお兄ちゃん扱いかよ!
まったく、僕がロリコンになったらどうするつもりだよ。ただでさえ、廉や水野さんにはシスコンだのブラコンだのって言われてるのに……。
でも、可愛い妹の為だ。仕方がない。少し付き合ってあげるか……。
「どれやりたいの?」
ゲームソフトの入った引き出しを開けると、マリはすぐに一本のゲームソフトを取り出した。
「これ!これ、やる!」
「マリンヌよ、これはRPGだよ。」
それは、二人でやるようなゲームじゃない。
「これがいいの!!」
「いいじゃない、隼人、それやってあげれば?」
「これは、一人でやるゲームだって!」
それでも妹は納得しなかった。
「あー多分それ、隆人に貸してもらえなかったやつだと思う。だからやりたいって言い出したのよ。隆人もちょっと貸してあげればいいのに。」
それは……RPGをちょっと貸すの意味がよくわからない。
「マリちゃんと相談して、お兄ちゃんが操作してあげればいいんじゃない?」
「それでいいの?」
マリは大きく頷いた。
それって、やってる事になる?本人がそれで納得してるなら、まぁいいか。どうせ、きっとすぐに飽きるはず。マリは何事も飽きるのが早い。
オープニングが始まると、マリはウキウキし始め、音楽に合わせてオリジナルの振り付けで踊っていた。
うーん…………天才!!
とか思う僕はバカだ……兄バカだ!!
「主人公の名前は…………マリ。でいいよな?」
「うん。」
「仲間の名前は?どうする?」
さて、妹のネーミングセンスはどうだろう?
「おにいちゃん。」
「いや、だから名前だって……。」
「おにいちゃんがいいの!」
僕が納得いかずにいると、母さんに言われた。
「別にいいじゃない。マリちゃんのゲームなんだから、好きに名前つけさせなさいよ。」
これ以上、どうでもいい事にモメるのも面倒だ。言われるままに入力した。
でもこれ、ヒロインだから。おにいちゃんさんとか、おにいちゃんちゃんって呼ばれる事になるから。
「それより隼人、マリは字が読めないから、全部隼人が読んであげてね。」
「え、これ全部!?」
「話がわからなきゃ楽しくないでしょ?」
確かにそれもそうだ。僕はオープニングストーリーを全部音読した。『なんと美しい姫なんだ!おにいちゃん姫……!』ってセリフが……違和感ありすぎる。そりゃそうだ!
その違和感に、マリは納得いかないらしい。
「お姫様がおにいちゃんじゃヤダ!!」
いや、だから言ったじゃん!これ、マリがつけた名前だから!僕だって読んでて納得いかないよ。
「これ、後から変えられないの?」
母さんがマリの様子を見兼ねて言った。
「そう設定したから無理。最初からやり直すしかない。」
さも当然かのように、母さんはさらっと言った。
「じゃ、やり直せばいいじゃない。」
「は…………?」
今までの時間は…………何!?何だった!?
「だって……隼人がちゃんと女の子だって説明しないから。」
えぇええええ!落ち度は僕にあるの!?理不尽!!
オープニングストーリーで、早速やり直しになった。
二度目のオープニングは、マリのテンションは上がらず……
「飛ばしていい?」
「とばすって?鳥さん?」
スキップが通じないのか……。
「あ、このオープニング早送りしていい?」
「いいよ?」
マリの許可を得て、オープニングを飛ばしたら…………
「消えちゃった!ダメ~!」
「え?さっき、いいって言ったよね?」
「早送りって言ったのに!消えちゃった!」
あ…………
すみません。正確には早送りではなかったです。
マリ神がご立腹のため、今度はオープニングムービーでまたやり直しになった。
「早く、お兄ちゃん早送りして。」
それは…………できません!!
「もう一回だけ見ようか?」
「ヤダヤダ!早送り~!」
「無理だよ!早送りなんてできないよ~!!」
いや、できるって言ったのは僕だけども……できないものはできないんだよ!!
だから嫌だったんだ……妹とゲームなんて!!