デブ声
19
小さな頃から、欲しいものは何でも、何としても手にいれてきた。
どうしても、なんてものは少なかったけど…………それでも努力すればそれなりに得られた。
努力すれば…………
それでも、努力してもどうにもならない事もある。
例えば、自動販売機のジュースとか?
何なの!?私の好きなじゅわぷる葡萄ゼリージュースが売り切れ……。
自動販売機でジュースを買っていると、三人組の女子が飲み物を買いに来た。その三人のうちの1人に、沙紀がいた。
この前の事があってから、気まずい……。
「お先にどうぞ。」
私は自動販売機の前から下がって、三人に先を譲って近くにあったベンチに座った。ここでゆっくり待っていよう。
「二人は先に教室に行ってて。」
そんな声が聞こえたかと思えば、隣に沙紀が座った。
「あのさ、梨理が言った事、ずっと考えてたんだけど、理由が全然わからないんだよね。理由、教えてくれない?」
「…………。」
そんなの、なんでわざわざ教えなきゃいけないの?
「このまま理由がわからないと、ストレスでじゅわぷる葡萄ゼリーがやめられない!!」
沙紀のせい?沙紀のせいなの!?売り切れは!!私のじゅわぷる返せ~!!
「このままだとごっつぁんデブになっちゃう!!ただでさえ、部活辞めて太っちゃったのに…………どうしてくれるの!?」
ごっつぁんデブって……完全に自分せいじゃん。自分のせいなのに、他人のせいなの?
私だってわかってる。他人のせいにしてるってわかってる。ただ単に、私に魅力が無いから。だから隼人に振り向いてもらえない。それなのに、里梨先生のせいにしてる。
だって…………そうすれば自分のプライドを守れる。
「フー!どふこい~なんか疲れたでふ~!」
「疲れた?それより、そのデブ声何?」
沙紀はわざと太った人の声真似をして話した。
「ほうじゃないよ~。私、バカだから、あんまり長い時間考えられないんだ~。」
「どうでもいいけど、その声やめてくれる?」
じゃあ、疲れるほど考えてないじゃん。
「あ、もういい?お腹いっぱい?デブ声出すのマスターするの結構時間かかったのに~」
アホか!!デブ声マスターしてる場合じゃないでしょ!?そんな時間があったら、もっと別の事に時間使いなよ!!
そんなの、理由なんてわかるわけない。沙紀は私じゃないし、私は沙紀じゃない。
「疲れの原因はわかってるんだ。多分、気疲れ。」
沙紀が気疲れしてるようには全然見えないんだけど。沙紀は買ったジュースを開けながら話し始めた。
「私、ずっと部活ばっかりでさ、自分にはバレーがあるから、友達とちゃんと付き合わなくてもいいやって思ってたんだよね~!」
それは、私にも何となくわかる。めんどくさい友達づきあいより、私は隼人の事で頭がいっぱいだった。隼人でいっぱいでいれば、友達は必要無かった。
「友達よりバレーの方が興味あったし。でも、部活辞めたら時間ができて、逆に友達と向き合う時間ができちゃった。最近は友達疲れ。女子疲れ?」
「私も一応女子なんだけど?」
「あ、そっか!梨理もか!あはははははは~!」
笑ってごまかされてる?沙紀は笑いながら、飲みかけの缶ジュースをベンチに置こうとした。
「友達より興味あった部活、なんで辞めたの?」
沙紀のその手が、一瞬止まった。辞めたのは、多分足のせいじゃない。何となくそう思ってた。
「それは…………疲れたから。」
疲れた…………?それ、さっき言ってた女子疲れ?
「辞めたら、余計疲れない?」
「わかんない。でも……辞めて辛いより、今は正直楽になった方が大きい。多分、辛いのだって…………すぐに慣れるよ。」
私も隼人の事、諦めたら楽になれるかな?
「辛いなら……梨理も辞めれば?私だって怪我の事なんて関係ないんだから、別に梨理が気にして……」
「そうじゃないよ。私がバレー部を辞めないのは沙紀とは関係ない。」
「でも、練習しないのは関係あるんでしょ?」
理由、ちゃんと考えてるんじゃん……。
「それは悔しいから言わない。」
沙紀には、絶対に言ってやらない。こいつには絶対勝てないって思ったから。なんて、絶対言ってやらない。
「悔しい?悔しいって事は対等?もしくは梨理のが下?」
「うるさいな!デブって言うよ?」
それを聞いた沙紀は、すぐに手で耳を塞いだ。
塞いだまま、ベンチから見えるグラウンドを見て言った。
「私は友達だと思ってるよ。だって、梨理は楽なんだよね~女子特有のベタつき感とかないし!」
「まあ、私も沙紀は楽だけど……。」
「じゃあ、これからもよろしく!」
沙紀は缶ジュースを持って立ち上がった。
「良かった~!色々考えて、デブ声練習したかいがあったよ。」
「はぁ?」
だから、もっと別の事考えなって!
「じゃ、また放課後、書道部でね!」
そう言って、沙紀は帰って行った。沙紀が先に行った後……沙紀がデブ声を出す練習をしてる姿を想像して、少し笑った。
私も、練習しようかなぁ……。




