文字を書くだけ
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だから、文字書くだけの部活なんて嫌だったんだよ!
「好きな文字って言っただろーがよ?」
嫌々入部させられ、最初の書道部の活動日がやって来た。しぶしぶ活動教室に来て見れば、すぐに書ける準備がしてあった。俺達はすぐに座らされて、すぐに好きな文字を書いていいと言われた。
言われたのに…………ババアに指摘された。
「好きな文字じゃなくて、好きな漢字。これ、片仮名!you understand?」
「良く見ろ!漢字だ!ハとムで『公』の字だろーが!」
その出来上がった俺の文字を見て隼人が笑った。
「あはははははは!そういえば廉、ハムが好きだったよね~!」
「ハ~ム~!ハムが好きって、人面魚か?まだまだお子様だねぇ……。」
「お前こそ…………って、お前はなんて面して『呪』とか書いてんだよ!こえーよ!」
俺達二人が入っても部員が足りず、結局梨理がバレー部とかけもちで、入部する事になった。梨理は、これでまたバレー部サボれる~と言って喜んで入った。本当は隼人と一緒なら何でもいいんだろ?
「隼人は何て書いたの?」
梨理が隼人に訊いた。すると、隼人は筆を置いて、出来上がった文字を梨理に見せた。
「できた。『凜』だよ?」
隼人…………それは…………
すると、ババアが俺達三人に言った。
「文字の乱れは心の乱れ。しっかり練習して美文字になりなさいよ?」
「いやいや!隣!隣!心乱れまくってて。スゲー文字書いてる奴いるから!」
隼人の凜の文字を見た瞬間、隣で梨理が『殺』の文字を何枚も何枚も書いていた。
「ギャ~!水野さん、ガサガサの筆でそんな文字書かないで~!!」
ババアが梨理を止めようと奮闘していると、女子二人の会話が聞こえて来た。
「さすが、佐藤さん上手いね~すごい!」
「そんな事ないよ。子供の頃から習っててこれだよ?別に凄くないよ。」
確かに、佐藤の文字は細くすっきりした字が綺麗だった。
この中で唯一、普通に書道ができていた。
稲葉はボロボロに穴の空いた文字を見せて言った。
「私なんか、こんなに穴が空いちゃった……。」
「途中で迷って止まっちゃうと、どんどん墨が入っていっちゃうから、そこが弱くなって空いちゃうんだね。」
それを見て、俺はふと、何も考えずただ思った事を口にしていた。
「佐藤って…………いつも迷ってんのに、文字書く時は迷わないんだな。」
ミス選択ミス。誰がつけたか知らないが、それが佐藤のあだ名で有名だった。
確かに佐藤は優柔不断だ。でも、選択ミスする奴が、こんなに綺麗な文字が書けるのか?筆を置く場所や角度、線を引く方向や圧力、無限の選択肢があるのに…………
「え?迷う?…………迷う……。」
佐藤はそう言って固まってしまった。その瞬間、なんとなく…………俺は佐藤にとって、いらない一言を言ってしまった事に気がついた。
それから、佐藤は筆を持っては置き、持っては置くという繰り返しをしていた。
だから嫌だったんだよ。たかが文字書くだけの部活。たかが…………文字書くだけなのに……。




