声援
12、
放課後、今日も1人で書道部活動教室で外を眺めていたら、稲葉さんが入って来た。
「あれ?今日って活動日だっけ?」
しまった!また間違えた?何も準備してない!!
慌てて道具を出し始めると、稲葉さんは慌てて言った。
「あ、待って、違う違う!今日は活動日じゃないよ。ごめんね、勘違いさせちゃって。ほら、誰も集まってないし。まぁ、あの二人はまた来るかどうかはわからないけど……。」
結局、あの日は散々モメて、男子二人が入部する事になった。これで4人。それでも、部を存続させるには、1人足りない。
「稲葉さんは、どうして書道部に入ってくれたの?」
出してしまった書道の道具を片付けながら稲葉さんにそう訊いた。
「えっと……大西先生から聞いてない?私、膝やっちゃって、運動できないから……あと、ほら、書道部足りないって聞いたから!」
そう言って稲葉さんは、道具を片付けるのを手伝ってくれた。
「佐藤さんってさ、サッカー部の田辺君の事、好きなの?」
「え!?えええっ!!」
「あ、ごめん。聞いたらまずかった?」
私は動揺しすぎて、持っていた筆を床に落としてしまった。その筆を稲葉さんが拾ってくれた。
「あの、もしだけど、もしそうなら私、同じ中学だから何か協力できるかもって思ったんだけど……」
「本当!?」
思わず大きな声が出てしまった。うわ~!これじゃバレバレじゃん……!!
「あの、この事は誰にも……」
「言わないよ。言わないけど…………」
…………けど?
「その代わり、サッカー部一緒に見に行ってくれない?」
どうやら稲葉さんにも、サッカー部にお目当ての人がいるようだった。誰…………?まさか自分と同じ人?…………じゃないよね?
そんな心配をしながら、稲葉さんと校庭に出ると、暖かい陽気が気持ち良かった。私達と同じように、外に出ている人達が沢山いた。それは、すっかり花が落ちた葉桜を見るためでも、ゆったり浮かぶひつじ雲を見るためでもない。
おそらく私達とお目当ても同じ。お目当ては…………サッカー部。
「きゃああああ!!」
声援がぱねぇえええええ!!ゴールが入る度に、女子の声援の声があがった。
私が引いていると、稲葉さんが何か言った。
「…………え?」
声援の声で、稲葉さんの声がちゃんと聞こえなかった。
「あ、うんん。なかなか、ライバルが多そうだねぇ~!」
サッカー部にはイケメンが多いという噂で…………うわぁ~!どうして田辺君という選択をした?!いや、これは不可抗力で…………田辺君が反則と言うか…………うわぁ~!どうしたらいいの!?
多分…………この大勢の女子の中から、田辺君に選ばれるのはきっと1人だけ。その1人は、きっと私じゃない。そんなのわかってる。
わかってるけど…………今度の選択ミスは、ミスだってわかってても修正できない。
……だから……恋愛なんて嫌だったのに。
選ぶのも、選ばれるのも嫌なのに。




