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竜と一緒に東方見聞録!  作者: 三津谷 葵
風竜の国
6/11

そして旅立ちへ

こちらで第一章風竜編完結となります。第一話はこちらから!

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風神様のところにつく頃には日が傾きだしていた。

サカモトは、無事風神に書簡を渡している。何事か大事な話をするというサカモトをアリサは待ちぼうけていた。カイは落ち着かないようで、彼にしては珍しくじっと下を向いていた。



「アリサ君、おいで。君に聞いてほしい話をするんだ」

サカモトに呼ばれ、アリサは風神の前に立った。風神の手には、例の指輪が光っている。この国と風竜の友好の印だ。風神とこうして直接話すのはアリサも初めてだ。カイも後ろから恐る恐るついてきている。

アリサがきたのを確認すると、サカモトが口火を切った。


「さて、風神様。実は個人的にお尋ねしたいことがあるのです」

「ふむ。承知しておる。申せ」

「なぜ、この村の者は風竜が天候を操っていることを知らないのでしょう?」

アリサは風神をまっすぐに見上げた。竜種としてはそれほど大きいわけではないが、さすがに人類とは比ぶべくもない。

「ふうむ、その件か」

風神はゆっくりそう言い、アリサをまっすぐに見返した。風神のきれいな青い瞳に出会い、アリサは少し尻込みした。しかし、そこから出たのは、とてもやさしい声だった。

「すまないな、人の子よ。儂らのエゴに付き合わせてしまった」


言葉が出ないアリサに風神は続ける。

「昔は、そう伝えたのだ。儂らは天気を操り、人の生活を守る。そして人はそれに感謝に、我らに余った食べ物を与える。お互いに感謝して生活をしようと。ただ、儂らの効用は目に見えないものであろう?少しずつ言い伝えは風化する。しかしな、それでも変わりなく人と風竜は共生できた。その程度には十分にこの国は豊かになっていた。変わらず風竜はこの国の国民とともにあり、国民は儂らに食べ物をくださった」

「まあ、国の者の生活を見ていれば想像はつきます。災害もないので食べ物に困っていない。果物なら山に余るほどなる」

サカモトは相槌を打った。確かにこの国は豊かだ。そこまで人口が密集していないこともあるだろう。災害さえ起こらなければ、湖があり水に困らないこの土地は当たり前に果物が育った。魚も取れる。羊も育つ。湖から吹く風から風車が、湖に流れ込む川により水車が、羊の毛から糸を紡ぎ、小麦を曳く。

「それに、君の御爺様のおかげでその関係は更に加速した」

更にモービルの発明があった。モービルは風竜の素材で作る。素材をくれる風竜に人は感謝し、人にとって風竜はそれこそ必要不可欠な存在になっていった。

「そして、そのまま随分と長く豊かなこの国で生活してきたが、その時気づいてしまったのだ。他国に比べ、この国の技術が、目に見えて進まないことに」

 

 

 

つまり、この国は豊かすぎたのだ。

災害も起こらず、豊かで安定している。その安定のおかげで、人間は自分たちで何かを開発しなくても、十分な生活ができるようになってしまった。風竜の国は、技術開発の必然性が完璧に無くなった。

つまり、風竜が、人間の進歩の機会を奪ってしまったことになる。



勿論、喜ばしいことと言えるかもしれない。人間も風竜も幸せに楽しく暮らしましたとさ。

それは一般的な物語のハッピーエンドだろう。あの言い伝えは、そういった意味で完璧なお伽話だ。


しかし、現実は違う。この国は、大陸の一つの小さな国でしかないのだ。もし、外交上のトラブルで、もし、この豊かな資源を巡り、他国と戦争になったら……。

遠い未来の話かもしれない。しかし、このままで本当にいいのか……。他国の目覚ましい進歩を見ながら、風竜達は危機感を募らせた。

 

そのための、せめてもの、嘘だった。

せめて、備えてくれ。これからも、生き残ってくれ。そういった願いを込めて、風竜たちは少しずつ、お伽話の意味を変えたのだ。風化させたい部分を無くし、残したいものを残していった。

糾弾される話でないだろう。それでも風神は、アリサに謝ってくれた。そして、どうか内密にするようにと頼んだ。

 

 

「父にだけは、話してもいいですか?」

アリサは悩んだ末に、風竜にそう伝えた。

「君のお父上も技師であったな。これからも、この国に変わらぬ整備をしてくれるというならば、構わんが……」

「お約束しましょう。そして……」

もう、アリサに迷う余地はなかった。ずっと、憧れていたことだったのだ。少し意外な展開ではあったが、この機会を逃したら、こんなに好条件の旅はもう望めまい。

 

 

「私は、他国に修行に参りたく存じます」

「それは、火竜の国に向かうということか?」

「はい」

風竜は難しい顔をした。

「必ず、帰ってきます。そして、この国の技術を変えて見せましょう」

「……どのみち、誰かがやらねばならん事か」

風神は嘆息した。そして、アリサをしかと見据え、告げた。

「アリサよ、技術を学び、必ずこの国に帰って参れ。また、そなたの旅はこの国だけでなく、世界を変えられるやもしれん。そなたは、この国一番の技師だ。いつでも誇りを持って学に励むとよい」

「それでは?」

アリサが恐る恐る言うと、風神はあの優しい目で、アリサに言った。

「応援している。アリサ君、サカモト君、支度があるだろう。行っておいで」

「……お話いただき、ありがとうございました」

サカモトが深く、お辞儀をした。そして、風神様は今度はカイを見る。

「カイよ。すまんが、頼みがある」

「そうなると思ってたよ、風神様。アリサと一緒に旅に出ればいいんだろ?」

「お前は昔から話が早い」

風神の誉め言葉にカイは首をすくめた。

「他にも話したいことがあるから、これから少し儂と話そう」

 

 

また後で合流すると話すカイを置いて、アリサは思うままに走り出した。走らずにはいられなかった。サカモトが後ろから笑って制止するのが聞こえる。

 

――ついに、ついに行くのだ!

あの火竜の国に!技術大国火竜の国に!そして、動力の研究をするという!

 

 

見上げると空は赤く染まっている。もう夕方だ。湖が赤く煌めいている。これから旅立つこの国を、アリサは改めて見回した。

 

美しい国だ。そして、本当に優しい国だった。こんなに優しい国は他にないだろう。風竜も、人も、それぞれが支え合ってできている国だ。

 

「置いていかないでくれよ、アリサ君」

サカモトが追い付いて苦笑いをしている。

「サカモトさん、あの、私」

半泣きのアリサにサカモトは優しく微笑んで言った。

「というわけで、これからよろしくね、アリサ君。共に旅ができて、私もうれしい」

「よろしくお願いします!サカモトさん!」

 

 

 

出発の日は思ったよりもすぐにやってきた。

朝だった。サカモトは、市場に来る水竜の国の船に乗せてもらい、ひとまず流通の要所、水竜の国に向かうという。

アリサが旅立つと聞いて多くの友人が見送りに来てくれた。

アリサは皆に手を振った。皆、笑顔で送り返してくれた。少し遅れてカイもやってきた。

「何よその荷物」

「僕だって旅の支度ぐらいあるさ!ほら、果物だろ?あとアリサのために筆記用具。他にも……」

「……もういい、大体わかった」

アリサは変わらないこの風竜を頼もしく思った。アリサの代わりにいつもアリサの心配をしてくれるこの風竜と一緒なら、どんなところも怖くないと思えた。サカモトさんは変わってはいるが頭がよく、頼りになる。この仲間と一緒なら、本当に世界すら変えられそうな気がした。

 

 

こうして、アリサの冒険は始まったのだ。



挿絵(By みてみん)

ついに、アリサの冒険が始まりました!

これから三人は様々な国を越えて、火竜の国を目指します。次の目的地は水竜の国!風竜の国中でも商人の船が来ていましたね。さて、どのような国なんでしょう?

ここから書きためていないので、更新が少し遅くなります。申し訳ありません。これからもよろしくお願いします。

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