プロローグ
こちらは続き物になります。第一話は以下から!
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祖父の工房は、埃と油のにおいがした。
アリサは工房の中を見回した。祖父は見当たらない。朝ご飯に起きてこない祖父を母に頼まれて呼びに来たのに。工房には朝日が筋となってなだれ込んでいる。いつも足の踏み場もないほど汚いこの工房を母は嫌っているが、小さなアリサにとっては宝の山だった。国一番の竜骨技師と謳われる祖父の工房には、素材となる竜骨や設計図の他に、国からもらったトロフィーなども容赦なく床に転がっている。
奥へ進むと祖父の作業机がある。つけっぱなしの照明に照らされて、祖父が寝ていた。
壁のコルクボードに、祖父の発明品であるモービルの設計図が無造作に張られている。昨日も遅くまで作業に没頭していたのだろう。
「お爺ちゃん」
アリサがそっと声をかけると、祖父は少し身じろぎをした。と、バッと体を起こす。
「しまった!もう朝か!」
昨日の作業の残骸であろうか?祖父の周囲に散らばった紙をアリサは拾い集めた。まだ幼いアリサには意味は分からないが、祖父の製図はとても美しい。
「お爺ちゃん、ベッドで寝ないと体を壊すよ?いい発明はいい睡眠からっていつも言ってるくせに」
「ああ、アリサか、いつもすまんなあ」
祖父は大きく伸びをした。
「時間がたつのは早いよ。儂の発明も、死ぬまでに完成できるといいのだがなあ」
「お爺ちゃん、モービルはもう完成させたって言ってたじゃない?」
アリサは祖父の書いた製図を見て首をかしげた。久々にみたその図には、以前より何か書き込まれているように、アリサには見えた。
「ああ、そうじゃな」
「じゃあ、今は何をしてるの?これ、モービルの設計図でしょ?」
アリサがそういうと、祖父は驚いたようにアリサを見つめた。
「まだ皆には内緒だぞ?」
祖父は、子供がとっておきの秘密を打ち明けるようにいたずらっぽく笑うと、目をキラキラさせるアリサに小声でこう言った。
「儂はな、漕がずに飛べるモービルを作りたいんじゃよ」
初投稿です。評価等頂けたら嬉しいです。