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第6講 中心都市オリジン

電車に揺られて2時間。景観はすっかり都会に染まり、オリジンに到着。最初に案内されたのは巨大な学園だった。連れていかれた先は学園長室。通信越しに見ていたその人がこの扉の先にいる。ノックをして桐無君が扉を開ける。

「失礼します。切無セツハ、任務を完遂し帰投しました」

スーツ姿の赤い目をした男性。ブレッド・アリステイルさん。

雰囲気からして彼は桐無君の上司なのだろう。

「まずは、三人とも長旅ご苦労様。そこのソファに掛け給え」

促されてから私たちは部屋の真ん中にあるソファに腰掛ける。そこに給仕の女性が香りのいいお茶を出してくれた。ブレッドさんは給仕の女性にお茶菓子を頼んだ。

「セツハの任務報告は既に受け取っている。今はまず君たち二人のことから聞きたい。クライス・レーバル君、君は入学の申し出を受けてくれたね。凡その事情は聞いているから君はこのあと寮へ行きなさい。オリジンを含めた五大国は学生支援のための法律も多い。もろもろの申請は出しておいたから部屋にある資料をよく読んで三日後のランク分け試験を受けなさい」

クライス君は恐縮と困惑を混ぜ合わせたような表情で、遠慮しようと声を出すが、ブレッドさんは優しい声音でせっかくの権利だから受け取れと。クライス君は開きかけた口を閉じる。それ以上は何も言わないで。ただ小さく頷く。

「さて、次に藤嶋彩さん。君に関してはあまり情報がないんだが、話してくれるかな?」

やっぱりそう来たかぁ。いや、当然ではある。今まで桐無君に聞かれなかった方がおかしかったくらいだ。出会った時はぐらかして以来切無君はそのことは聞いてこなかったし、ここまでゆっくり考える時間もあったんだ。答えは出てる。

「私は……、ここではない場所。いえ、多分もっと厳密に言うと別の世界から来ました」

「報告にあった“トウキョウ”という場所だね。そのトウキョウから来たのが事実だとして君はどうやってこの世界に?」

「それが、こちらに来る直前の記憶がなくて……。方法に関しては私も解らないんです」

ブレッドさんは小さく唸って軽く握った手を顎に当てる。実際突飛な話なのだ。別世界からの来訪者など扱いに困るだろう。

「世界を飛ぶ方法なんて聞いたことがない。そもそもそんな研究を一体誰が……」

結局のところ、そのあたりの情報などはほぼ皆無に等しいらしい。各国の過去の研究資料の中から調べてくれるらしいが、すぐに見つかる可能性は高くないだろうとのこと。流石にそこまで都合よくはいかないのだ。

「有力な情報が出てくるまではこの学園にいるといい。折角なら授業でも受けてこの世界の知識を身に着けるのもいいだろう。君もこの学園の生徒になるかい?」

え……この学園って高校だよね?あれ?どういう扱いになるんだろう。

「この学園は年齢に制限なく入学できる。君よりも年上の同級生もいるから問題はない。入学や制服などにかかる費用に関しても補償があるから気にしないで通うといい」

一瞬で見抜かれた。費用云々は状況から、年齢云々は多分今の表情から読み取られた。お金のことは仕方ないけど、本当に私が入学してよいのだろうか。が、しかしこのまま迷って支援だけ受けるのも先に進まない気がするし、ここは多少年齢差があろうともこの世界のことを知っていった方が有益ではなかろうか。というかそうに違いない。なら、恥など捨てて貪欲に勉強すべし。まあ、そもそもこの世界の常識すら私は知らないし。

「わかりました。私も入学させてください」

「うん。じゃあ二人に入学手続きを渡すね。君の部屋にも既に受けられる支援についての詳細が書かれた申請書があるから参考にしてね」

そう言いながらブレッドさんは細長い棒のような何かを取り出し、机に二つ置いた。私たちはそれぞれ目の前に置かれたそれを手に取り、クライス君がポケットにしまうのを見てから私も同様にした。

「さ、難しい話はこれでお終い。6時に寮に行けば寮長が部屋に案内してくれるだろう。後のことは任せてくれていい。それまでは街の探索でも学園の施設見学でも好きにしなさい」

これで晴れて居場所ができるわけだが、多少実感が薄い。いや、今更か。

学園長室を出た三人。これからどうしよいかという場面で、一人が少し先に口を開く。

「報告も終わりましたし、僕は寄る場所があるのでこれで」

切無君だった。この流れはまずい。何がまずいって、これからお昼になりそうだっていうのに相も変わらず私は“文字”が読めないのである。

文字が!読めないのである!

都市部に到着すれば何となく理解できる文字があるとは思ってたけどやっぱり認識が甘かった。話せるだけでも実際不思議!

「寄る場所って何の用事だ?どうせなら三人で昼までいようと思ってたんだが」

クライス君ナイス!なんなら乗っかる形で言えば引き留められるかも……

このままじゃあ俺もって三人バラバラになるのが一番怖いパターン。何としても回避せねば。

「僕は主にも報告しなければならないので。ですが、そう仰るのであれば一緒に行きますか?」

え……?主?そう言えば以前とある名家に置かせてもらってるって言ってたな。一体どんな人なんだろう。ちょっと気になる。

「では、これから行きましょう」


――――――――


街の中を散策しつつ歩くこと20分。街の中心から少しずつ歩いて遠ざかっていく。辺りは屋敷が乱立し、住宅街といった様子だ。この辺りはお金持ちや名家の人間が家を持つ区域なのだという。

その中でも少し大きい屋敷の前で桐無君は止まった。門の錠前に指を入れると門の鍵が開き、彼は門を押し開ける。開けてすぐ目の前には綺麗な庭と一人の美人なメイドさんが立っていた。

「お仕事を終えて戻りました。愛吏さん」

切無君がメイドさんに挨拶すると、メイドさんも薄く微笑んで、

「長い任務ご苦労だったな。お帰り」

労いの言葉も柔らかいものだった。そしてすぐに私たちの方に向き直り、丁寧にあいさつしてくれる。

「話はお聞きいたしております。レーバル様と藤嶋様ですね。お部屋にご案内いたしますのでこちらへどうぞ」

私たちは着替えに向かった切無君と別れ、客間に案内される。丁寧に淹れられたお茶と綺麗なお茶請けを出してもらったけど、なんだか勿体なくて手が付けられない。

「申し訳ありません。お待たせいたしました」

切無君が着替えを済ませて戻ってくる。キッチリと黒いスーツを身に纏い、白い手袋を装着し、すっと伸びた背筋がより端正に見せる。どう見ても立派な執事である。

…………なんで執事…………

いや、執事なの?

「僕は本来、この屋敷に勤める見習い執事であり、お嬢様のボディーガードです」

見たことない綺麗な営業スマイルを全力で見せてくれる。ネットの顔はあくまで趣味なんだな。

「そして愛吏さんは僕の上司で、メイド長兼屋敷の防衛長です」

そう聞くとメイドさんの可愛らしい笑顔がなんだか凄みを帯びてきたような気がしてくる。こんな調子でいくと次に何が出てくるのやら。

ノックの音が響く。その音にメイドさんはゆっくりドアを開く。そこには綺麗な黒髪をした女の子が立っていた。机を挟んで私たちの向かいに立つと一礼し、

「初めまして。夜月(よづき)詩音(うたね)と申します」

その瞳は透き通るような碧色(あおいろ)だった。

キャラクター解説 其の五

愛吏

夜月家のメイド長であり、同時に夜月家の防衛長

どれくらい強いかって?そりゃあもうべらぼうに

“十人のLevelⅦ”の一人で、序列は6位。27歳

最近の悩みは主人である詩音の両親に気を遣われること

『屋敷を綺麗にする』『主人も守る』

両方やらなくっちゃあならないってのが彼女のつらいところである

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