6−12
とりあえず、せっちゃんと目を合わせないまま、服を着てくれるように頼んで、自分の支度をした。もちろん、せっちゃんとは衝立を挟んで着替えたし、何も一つ、やましいことも、そういう空気もない。
「そういえば、今何時?」
「今か?だいたい、続の13時くらいじゃないか?」
地球の感覚で言えば、だいたい午後の2時くらいになる。ゆっくりお茶でも飲んで一息つく時間だ。だいぶ長い時間寝たなぁ。疲れて…いや、死にかけてたんだもんね、よくそれくらいの睡眠で復活したよね。一応確認しておこうとステータスを確認する。体力部分も日常生活に支障はない、とまで回復して居たから大丈夫だろう。生存の危機から一日経たずにそれほど回復するとは魔力の有無が大きいのだろうか。
「そう言えば、私も聞きたいことがある」
「なぁに?」
「私も、せっちゃんのハーレムに入っているのか?」
動きを止めた。そうか、そう言えばそんな感じのこと言ってから放っておいたもんね。そりゃ気になるか。ハーレム人員なのだと思ってる、というよりも換算されてはいるのだけれど。私がその扱いをしているかどうかという点に至っては沈黙を貫いた方がいいのかな。むしろ保護者としてしか扱ってない。
「入っているか否かということに関していうなら、入ってるよ」
「そうか…それにしては、そう扱われている気がしないんだが」
いや、今までの行動振り返ってくれよ、とは思わないでもない。よくて面白いおもちゃ扱いだからね。戯れに魔力流し込んでみたり、言葉遊びで同盟は同命で伴侶の誓いだから、とか言い始めたり。私を守ってくれるような動きもあるけれど、それ以上に私に敵を作らせるような動きがあることも事実だからね。常識もたまに嘘教えたり、嘘じゃなくても大切なこと教えてくれなかったり。
私、魔力交換云々については本当に許してないからね。あれ先に教えてくれてたら、私ここまでいろんな意味で追い込まれることはなかったと思ってるから。
「だって、せっちゃんは友達なのでしょう?」
「友達、なのか?」
「どちらかといえば、保護者の面が強いけれど、私が成人したら友達でしょう?」
違うの?と逆にこちらから問いかける。せっちゃんは言葉に詰まったように口をつぐんで、眉を寄せる。そういえば、寝るときは小さくなっていたツノが復活している。やっぱり寝るときは邪魔になるからだろうか。うん、もし私にあんなツノがあったら邪魔で仕方ないと思うし。
黙りこくっているせっちゃんが、静かに私に近づいた。首を傾げてみているが、せっちゃんは友達とともに都合のいい子供のような相手が欲しかったのではないのだろうか。単純にいえば、孤独を紛らわせることができる相手であれば誰でもよかったのだと、そう思っている。場合によっては愛玩動物よりも都合のいい相手。それが私だったんじゃないかな。
愛玩動物と違って、意思の疎通はできる。けれど、愛玩動物のように自分がいないと生きていけない。せっちゃんが全てとして判断して全てを委ねる相手。そこに恋愛感情はまるでない。あるのは、ロクでもない組み合わせの感情だけだろう。執着と支配と独占欲と、それから自己満足。それを利用して救われてる私が言えることじゃないんだけどね。
面倒な私は好きじゃないんじゃないかなぁ、と勝手に思っていたのだけれど、違うのだろうか。せっちゃんの反応を見る限り違うんだろうなぁ…。なんだかショックを受けているようなせっちゃんはしばらく黙り込んでうつむいてから、すぐに顔を上げた。にこり、とその顔がその顔が完璧な笑みを浮かべていたことに関して、悪寒が走った私は正常だ。
じりじりと後ずさりする。位置的にまずいな、とどう逃げるかと考えているうちに、ぐいっと近寄ってきたせっちゃんは、まさかの壁ドンを繰り出してきた。うん、乙女な方の壁ドンね、隣のリア充を萎えさせる方じゃない壁ドン。最終的に蝉ドンまで進化した方の壁ドン。ひっ、と悲鳴が上がったことに関しては許してほしい。結構な威圧感辛い。
「友達、と最初に言ったのは私だからそれは仕方ないとは思う。けれど、保護者か」
「私を拾って面倒を見てくれてるから、間違ってない、と」
「せっちゃんのいう保護者は、こんなこともするのか?」
ニヤリ、と意地の悪そうな笑みを浮かべて、体を固めていた私を抱き上げる。持ち上げられた体はするりとその長い腕に絡め取られて、宙に固定される。すぐ近くにある顔には、いつの間にかツノがなくて、私を傷つけないように隠したのだと判断できる。
「雪白」
ぞわり。
初めて明確な意思を込めて呼ばれた名前に肌が粟立つ。せっちゃんの顔をじっと見つめていると、ドロドロとした感情と甘さの混じった瞳が近づく。ふわり、と遠慮がちに触れたのは一瞬。離れたことに安心した瞬間。それが間違いだったと気付かされた。
「んっ、」
そうっと目を細めるせっちゃんは淫靡だと表現できる。まるで別の生き物のように私を蹂躙してくるそれに、どう対処していいのかわからず、好き勝手を許す。息が、呼吸が、うまくできない。思考すら奪われるような感覚に、どうしたらいいのかと自由を許されている手で縋りつく。結局は、せっちゃんに助けを求めることしかできないのだ。
しばらくして満足したらしいせっちゃんが離れたことに安心して、呼吸を整えようとして、もう一度近寄ってきたせっちゃんに判断が遅れた。リップ音をわざと立ててから、今度こそ本当に離れたその色々含んだ笑顔に脱力する。言いたいことは確かにたくさんある。めちゃくちゃある。けれど、この状況を作ったのは、きっと私だ。なんとも言い難い感情に苛まれて、視線を下げる。
「せっちゃん。私はせっちゃんの保護者だろうか?」
上から降ってきた言葉は、真剣だった。それが言いたいのか。結局のところ、私の中の位置付けが気に入らなかったというだけなのだとは思う。けれど。私のちゃんとした答えとして求められているのは、一体なんなのか。保護者としてではないとして、だったらどうなるのが正解なのだろう。
ちゃんとしたハーレム人員に?いや、違う、多分せっちゃんの求める答えとしては。
「ちがう、かな」
答えながらちらりと見上げたその顔は満足そうに微笑んでいた。
保護者枠の裏切り




