6−11
目が覚めた時、相変わらず体の下にせっちゃんがいた。頭をずっと撫でているのか、丁寧に髪を梳かれている感覚がある。反対の手は腰に回っている。そのまま落ちないようにだろうか。もぞり、といい場所を探して動こうとすると、起きたのか、とせっちゃんが告げる。
その言葉に、小さく、ん、と返す。が、まだ疲労が残っているので、ベッドにおりたいのだけれど、ダメだろうか。人の上で寝ると疲れるんだね…そんなことしたことないから分からなかった。うつ伏せで寝てるのもあるのかな。
邪魔とか、暑いとか、伝えたところでどうにかしてくれるとも思えない。どうしたものだろうかなぁ、と考える。このままこの体制でいても私の疲れは癒えないし、多分体力もさほど回復しないだろう。けれど、下手な手を打つと完全に死ぬ。今度こそ死ぬ。なんでこんなタイミングでデッドオアアライブを経験しにゃぁならんのか。モンスターとか他の種族とかよりも先に保護者に殺されかけるって、完全に可哀想な子だよ?
もぞり、と動いてから、そうか、と思いついた。
「…せっちゃん、」
「なんだ?」
「せっちゃんの上で寝るより、腕枕の方がいい」
ギュってされるのは困ると思いながら、言葉を選んで告げた。どうだろうか、としばらく様子を伺っていたのだが、なぜだろうか、せっちゃんが全く動かない。全く動かないというか、なんとなく震えているような気さえする。なに、気持ち悪い、っていうか怖い。
けれど、せっちゃんはそのまま私を体の上から下ろして、ごろり、と転がした。当然のごとく、私の頭の下にはたくましい腕がある。やばい、これ絶対肩凝るやつ。気にしすぎて眠れないやつだよ、とは思うものの、先ほどよりはマシだ。人を敷き布団にするくらいなら、人を枕にしておいた方が、圧倒的にマシだと思う。一層の事掛け布団?圧迫されるあの感覚は嫌いじゃない。圧迫フェチって言うのだろうか。今の体力が著しく低い状態でしようとは思わないけど。
「どうだ?」
「ん、おやすみ」
「…おやすみ」
なんとも言い難い感じの返事があったが、まだ回復しきっていないのだから諦めてほしい。瞳を閉じて居心地のいい場所を探すように小さく動く。仰向けよりも横向きの方がまだいいような気がするのだが、せっちゃんに背中を向けたら、頭の下の腕が動いてごろりと仰向けにされた。ならば、と少し離れてせっちゃん側を見て寝ようとしたが、微妙に角度をつけられて、ずりり、とせっちゃん側へと動かされずを得なくなり…。ああもう!
眠いのに眠れないのは心の底からイラっとする原因だ。眉を思いっきり寄せて、せっちゃんを見る。こちらを見ていたせっちゃんがどうした?と笑って見てくるので非常に険しい顔をして返す。途端に困惑したような顔をした。
「おやすみ」
「せっちゃん、」
何か言いたげな顔をしているが、私としても一言申したい気持ちはある。それ以上に眠いので、いいから放っておいてほしい。小さく聞こえてくるせっちゃんの言葉を意識して聞くことすらせず、私は眠りの世界へと旅立った。
一日ならず何日でもグダグダと眠っていられそうだ、と思いながらゆっくりと目を開く。…おかしいだろ。なんで肌色が目に入るのかな。無言になって、もう一度目を伏せる。気のせいだ。そう思って体の向きを変えようとしたが、自然に動きを抑えられて、全くどうにもならなかった。嘘だろ。完全に抱き締められてるのだけれど、それに気がついた瞬間殺される?と体が震えた。
けれど、殺すつもりはないのか、別に力は込められなかった。私が寝ている時とは別の動きをしたせいで、起きたとバレたらしい。くつくつと笑ったせっちゃんがつい、と私の顔を持ち上げて、視線を合わせた。どうして服を脱いでいるのか、とは思うのだが、なんだかすごく嬉しそうな顔をしているせっちゃんに嫌な予感しかしない。
「首痛い」
「すまない」
「…手痺れてないの?」
「大丈夫だ」
嬉しそうに笑うが、半裸だ。なんども言うが、半裸だ。なんでこうもストレスフルな環境に私を追い込んでいくのかな?!結構つらいんですけど。鍛え抜かれた感じの肉体を突然晒されても反応に困るし、恋愛耐性?って言うのかはわからないけれど、恋愛に対しての免疫のない人間にとっては本当に凶器にもなり得るから。ヴィクトールとフィラード様と時間空けてるからまだマシだけれど。
夜期恐ろしい。あと何が恐ろしいかって、まだ夜期半分も過ぎてないことだよね、なんなら3分の1くらいしか経ってない。クレイ様とか後半にまとまってるから余計に恐ろしい。夜期になって私はまだ会ってないけれど、どうやら、婚約者同士での牽制混じりの情報交換は行われているらしい。このあいだのフィラード様もヴィクトールとのことを知っていた訳だし、ほぼほぼ確実だ。
私が何を言いたいかって言えばそれはつまり、今私が婚約者たちに許してきたことが、クレイ様との後半に偏った逢瀬の時間で、全部回収される恐れがあると言うことだ。一人ずつじわじわとであれば、感覚が麻痺しているからこそ、慣らされていくのだ。けれど、同じ相手が怒涛のラッシュを与えてくれば、小娘はひとたまりもない。
ころっといく程度ならいいけれど、あんなイケメンにずっと愛の言葉でも囁かれてみろ、勘違い女の出来上がりだ。いく先は破滅かな?現実逃避したい。と、放っておいたせっちゃんが構ってほしそうにこちらを見ていた。
「どうして上着脱いでるの?」
「せっちゃんが服を嫌がるように離れるから」
「え」
「起こさないように脱いで戻ったら幸せそうに寝ていたぞ」
それ絶対、ベッドで自由に寝られて幸せだったやつ。そう思いながらそっか、と返してせっちゃんの思い込み的な何かを訂正するべきか悩んだ。訂正したところで聞きそうにないしなぁ。まあ、一緒に寝るのなんて今日ぐらいだろうし、別にいいか。他の人たちも…理解してくれるよね?まさか今回のことを逆手にとって行動してこないよね、それなら許しちゃいけないんだけど。
可愛らしく内緒ね?とかできたらいいのだろうけれど、そんな技術私にはないし、あったとしてもハーレム人員に数えられているだけの婚約者でも恋人でも、ましてや伴侶でもない(はず)の相手に何してるんだって話に…いや、そもそもが成り立ってなかった。忘れよう。
「せっちゃんが近くに居てくれたから安心してたのかもしれないね」
「そうか」
適当に絞り出した私の言葉に、せっちゃんはそれはそれは嬉しそうに笑った。
命がけの添い寝




