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せっちゃんたちの恋愛事情  作者: くい
ゆるしてください、もじょなんです
82/90

6−06

「んー、じゃあ、どうして年下が好きなの?」


流石に率直にどうしてロリコンなのか、とは聞けなかった。ヴィクトールはなんとも言い難い微妙な顔をしてから、そうだな、と呟いた。


「比較的若いうちから人の上に立つことになって、巨人(ギガース)特有の体格もなかったから、威厳を出すためにある程度顔を老けさせたら、年増しか近寄ってこなかったのと、その大半が政敵だったり、うちの権力目当てにハニートラップを仕掛けてきていたということに加えて、適当にあしらっていたら面倒なことが起きて、精神的に参ってた時に出会ったからだろうなぁ」

「…出会った?」

「ハニートラップを仕掛けてきた少女だ。まさか、俺を庇って目の前で死なれるとは思わなかったが、その行動によって純粋な愛情を信じられた唯一の相手だったから、そういう感覚が残っているんだろう」

「ごめんなさい」

「もう気にしてない。別に俺に向けられた愛情を信じられたというだけで、俺自身は恋愛とかしてる余裕は一切なかったしな」


しみじみ、と告げるヴィクトールに嘘は見えない。本当のことを言っているのだろうとは思うけれど、それでも、なんだか申し訳ない気持ちになる。もう一度ごめんなさい、と告げて、額を擦り付けた。気にするな、と苦笑まじりに私の頭を撫でる手は優しい。背中からぐるっと腕が回って、グッと引き寄せられる。額に唇が寄せたまま、本当に気にしなくていい、と囁いた。


「雪白、」


優しく声がかけられる。ちらり、と目線だけで確認すると、強面の顔が嘘のように柔らかく笑っていて、ぎゅっと心臓が掴まれたような心地になった。だからこそ、今目を合わせちゃいけないとわかる。無理矢理に俯いて無言で誤魔化そう。

と、思ってもそりゃ、人生経験の豊富さで負けるよね。バレてしかるべきだった。何だろうか、見ているこっちが恥ずかしくなる顔。喉が張り付いたように声が出なくなる。背中を支えている手は全くと言っていいほどに動かない。それどころか、寸分の隙間も開けないように引き寄せられている。ピッタリとくっついているせいで心拍さえ伝わってくる。トットッと心音が響いてくる。少し早いのは私か、それとも彼か。

反対の手は私の頬に添えられて上へと誘導する。まっすぐにこちらを見つめる瞳にちらりと炎がちらつく。ああ。まずい。

目が離せないで、ただ視線を合わせる。絡め取られるような感覚に、焦燥感が心を圧迫する。思考が凍りつく。

見えていた明かりの魔石が隠された。ふわり、と羽が降りてくるような優しさに一瞬で身体中の血液が沸騰したような感覚になる。


「雪白、逃げるなよ」


何も言えず、ただ黙り込む。バクバクと心臓の音が壊れそうなほどに全身に響き渡っている。身じろぎさえできないのに逃げるなとは一体。はくはくと酸素を求める金魚のような私を可愛くてたまらないという顔をして見るヴィクトール。一体何があってこうなったのか。こんなに甘く対応されるいわれはないはずだ。混乱が極まっていく。

逃げる気はない、と首を左右に振る。けれど、否定の意味で取られてしまったらしい。悲しそうな顔をして、私を見つめるヴィクトールは一気に距離を縮めて、もう一度、私に影を落とした。

無骨な指が私の輪郭をなぞって、顎のあたりで止まる。目を閉じる隙さえなかったせいで、間近に紺に近い青い瞳を見た。少し離れてくれるが、今にもまた触れることができてしまいそうなくらいの隙間だけ。それに怯えて、口を開くことすらできない。ただ、射抜かれたような感覚に、動きを必死に止める。ああ、ああ。


「もう、逃がしてやれないけどな」


くつり。喉を鳴らすようにして、わらう。瞳も愉悦に細められて、狩人のものに変わっていく。甘さは、確かにあるけれど、それ以上に火のついた、と表現できるだろう顔だ。にい、と釣り上げられた口角を感じる。きっと、厚めの唇の隙間から白い歯がのぞいているのだろう。奪われる。とそう思った。


「っあ…」

「どうした?」

「逃げない、から。だから、待っ…て、おねがい」


今まで凍りついたように動かなかった体を必死に動かして、弱々しく震えている手で、ヴィクトールの肩を押す。離れるわけもないが、私の意思は認識してくれたらしい。さらにほんの少しだけ、離れてくれた。その事実にホッとして胸をなで下ろすが、瞬間、米神に柔らかく押し付けられた。じわり、と流し込まれる感覚。

びくん、と肩が揺れた。耐えるけれど、耐えきれるわけもなく、はあ、と息を吐く。力の入らないまま、彼の腕に手をのせる。しばらく魔力を流し込んで満足したらしいヴィクトールはいつものように笑って、私を膝の上から下ろした。座っていたソファーに私を座らせて、待っていろと頭を撫でた。

ああ、この子供扱いが嬉しいとは、いや、頭を撫でただけで子供扱いの訳じゃないのだろうけれど、そう思いたい。無言のままの私に彼は笑ってキッチンへと向かう。すでにからになった彼のマグカップと、冷めてしまった私のマグカップを持っている。あ、と思って追いかけようと立ち上がったが、その瞬間、ガクン、と膝から転んだ。魔力交換の副作用で腰が抜けてしまっていたらしい。目の前の机にガン、と思いきり頭を打ち付けて、転ぶ。

痛い。

ぶつけたところを抑えていると、音で気がついたらしいヴィクトールが慌てた駆け寄ってきた。重さをチリとも感じさせない動きで私を掬い上げるように抱いて、不安そうな顔でまっすぐ私を見る。大丈夫か、とぶつけたところを優しく摩ってくれる。痛みがなくなるような感覚にホッとしながら、混乱と痛みを混ぜて涙がぼろっと溢れた。目を見開いて動きを止めたヴィクトールに愚図りながら、その手を掴む。ゆっくり動かすようにして、撫で続けろと要求すれば、戸惑った顔ながらもそれを続けてくれる。


「痛かったな、大丈夫か?」

「…へいきじゃない」


だからもうしばらく撫でていてほしい。言葉にはしなかったけれど、伝わったらしい。よしよしと子供(わたし)を抱き上げて撫で続ける将軍(ヴィクトール)というのは側から見たらとても面白い図なのだろうなぁ、と遠い目をする。

しばらくその家でゆっくりしてから、ヴィクトールは私を砦に連れて帰ってくれた。

作中最大の甘さがこちらです、ご了承ください

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