6−05
彼の家は想像以上にこじんまりとした、居心地のいい家だった。ただ、こじんまりとしている、というだけで確実にお金はかかっている。調度品は素朴でシンプルではあるが、いいものであると一目でわかるし、其処彼処に丁寧な仕事を見ることができる。これは、こだわりぬいた家なのだろう。
「素敵な家ですね」
「ああ。基本的にキッチンは雪白のサイズに合わせてある。いつでも、来るといい」
「…ヴィクトールが居なくても?」
「さてな?」
ニヤリ、と笑うその顔には悪戯っぽさが出ているけれど、全くの嘘を言っている感覚はない。何か企んでいるのだろう。もしかしたら、この家に私が来るとヴィクトールへと連絡が行くのかな、そういう魔法もあったはずだ。なくてもモンスターアラートの要領でなんとでもなりそうだし。うん、それが正解な気がしてきた。
それにしても、私の高さに調節してあって、ヴィクトールは使いにくくないのだろうか。はっきり言って身長に大分差があるから、使いにくいんじゃないか、と心配になって声をかける。けれど、キッチンは使わないしーーそもそも料理スキルがないことと、昔から貴族の出のため料理自体したことがないことを教えられたーー、調度品は既製品だからいつも通りであること、扉は大きくても問題がないので、大きめに作ってあるから平気だ、と。
確かに小さくまとまっているはずの家だけれど、室内が広々と感じるのは、ドアが大きくて天井が高いからかもしれない。今の所モデルルームみたいに生活感のない部屋だけれど。徐々に物が増えて行くのだろう。その変遷を見るのもちょっと面白いかもしれない。
ソファーに座ったヴィクトールの足の上に座ったまま考える。うん、ずっとこの体勢だからね軽く現実逃避混じってたよね。しかも既製品の椅子ってどうやらせっちゃんからクレイ様くらいのサイズを目安に作られてるのか、太ももより膝の方が高くなるくらいにはヴィクトールには小さい。まあ、そのせいで座っているところが安定せずに彼の厚くてしっかりした胸板に寄りかかることになっているんですけどね。
腰にしっかりと腕が回っているのは、見なくても重さでわかる。反対の手にはブラックコーヒーの入った大きなマグカップを持っている。ちなみに彼が持っていると普通サイズに見えるが、私が持つ場合両手で持たなくてはならないサイズだった、辛い。
「ヴィクトール」
「ん?なんだ?」
声が甘いというのはこれか。居心地が悪くなるくらいに、柔らかな声にあぐ、と悩んでから、無言でこのままいるのは嫌なので、色々聞いてみることにした。
「どうして将軍に?」
「知りたいのか?」
「…?婚約者のことは知りたいと思うのが普通じゃないのです?」
「次期魔王様に話すように楽に話してくれていい。婚約者なんだろう?」
その提案に頷いて、抱きこまれてもなお、上の方にある顔を見上げた。ヴィクトールはそうだな、と考えるようにして話し始めた。
元々、貴族のいいところ出身であること。時には中級魔王を輩出したこともあるくらいの由緒正しきお家で、種属が 巨人にしては魔力の質がいいと言われているらしい。ちなみに、魔力量はせっちゃんには劣るが、低級魔王である女王様よりも多いそうだ。巨人って生命力強そうだもんね。魔力の質、というのは簡単に言えば魔力交換で移す時に流れる魔力のことだ。私には、特性の関係もあって、よくわからないのだけれど。
ヴィクトール曰く、岩と砂のようなものだそうだ。勿論、巨人が岩である。生命力の受け入れ口は基本的に人によって決まっている。器自体が決まっているのだからある意味では当然だろう。流れこむ魔力が砂であれば小さな入り口でも器一杯まで流し込める。けれど、岩だった場合は、無理やり入り口を広げたり、中に入れられたとしても、器自体を変形させるか、中から破壊してしまう。ヴィクトールの魔力交換によって重傷を負ったというのは、無理やり器に岩を入れて器に傷が入った人のことなのだろう、とその話を聞いて把握した。
ある意味四次元ポケットのような、ブラックホールのような私の器であれば、どれだけ岩を入れたところで何の問題もない。あと、岩だから砕く方法を知らないと、砂しか扱ったことのない人には使えない魔力ということにもなる。なるほど、嫁選びにも必死になるわけだ。別に結婚したからといって魔力交換が必須なわけではないけれど、自分の子供に自分の魔力の質を引き継がせる(=種属や特性を引き継がせる)には妊娠最初期の魔力交換が必須だ。閑話休題。
「ヴィクトール大きいもんね」
「まあ、一族の方では結構小さい方だけどな」
「え」
「巨人の平均身長はだいたい3mぐらいだったはずだ」
ヴィクトールは大体目算で2m50cmくらいだ。確かに平均より50cmも小さければ、一族の中では小さいだろう。でも、ヴィクトールでも私からしたら本当に大きいよ?大人と子供だよ?一族の大きい人とか言ったら、多分私幼児くらいのサイズになるんじゃないかな…。
苦笑したヴィクトールは私の頭をポンポン、と撫でてから続けた。巨人はその生命力の強さから軍人になることが多く、彼の一族もそんな家の一つだったため、小さい頃から鍛えていたそうだ。元々家のしきたりでは体の大きなものが家を継ぐということになっていたので、ヴィクトールの弟が次期当主に決まっていたらしい。ので、好き勝手に軍で暴れまわっていたそうだ。
魔力の質が比較的よかったことーーまだマシと表現される程度であって、その証拠に重傷人も出ているーーもあって、魔法を使って、武器を振り回して、あっという間に台頭したらしい。ちなみにそれが大体150歳くらいのときだそうで、若気の至りだなと笑っていた。
ただ、その頃はすでに他の種族との戦争が始まっていて、まだ小競り合い程度であったらしいのだけれど、それから少し立って激化したそうだ。そこで怪我をしたり、仲間を失ったり、王都の守護をさせられたり、と色々しているうちに、前の将軍が亡くなってしまい、その後を継いだ、と。で、指揮全権とか突然与えられて必死に色々やっているうちに他種族が新しい兵器を持ち込んで、一気に押し込まれたところでせっちゃんが現れた、と。そのせいで色々言われたらしい。
お疲れ様、の意味も込めて、手を伸ばしてその頭を撫でた。ら、苦笑された。
将軍の身の上話(軽い)




