6−03
どうやら、この店舗はチェーン店らしい。王都でも同じような店舗を見た気がする。足を踏み入れたかどうかは…ちょっとわからない。せっちゃんとハーレルさんに連れて行かれた買い物の記憶は如何してかあまりよく思い出せない。自己防衛機能とかじゃないって信じてる。
私とヴィクトール様を熱烈なマシンガントークで迎えてくれた店員さんは、店員さんなんてものじゃなく、デザイナー兼社長だったと知って気が遠くなった。あと、ヴィクトール様の知り合いらしい。マジかよ。いやでもあれか、今までの少女に服を貢いできたのであれば、知り合ってもおかしくはないのか。ちょっとムッとしたことは秘密だ。どうした?と私の反応に敏感なヴィクトール様に問われたけれど、素直に言うのは私にはハードルが高すぎて、口を噤む。
「ないしょ」
「…残念だな」
言いながらも、なんとなく分かっているのか、笑っているような気がする。頰を撫で上げるように触られて、擽ったさから身を捩った。ヴィクトール様が私を落とすことはないと分かっているから、結構動くこともできる。そんな私達を見て、社長さんーールナティスさんと名乗ってくれた女性で、年齢は曰くヴィクトール様より歳下らしいーーが、コロコロと楽しそうに笑う。
「貴方がそんなに甘くなっているのを初めて見たわ」
「そうか?」
「ええ、他の子たちは跳ねっ返りな子が多かったでしょう?こんなに大人しくて素直な子初めてよ」
言いながら、私の採寸を進めるルナティスさん。抱き上げられているのだけれど、大丈夫なのだろうか?と不思議に思っていたのが伝わったのか、ウィンク付きで、大丈夫よ、と言われた。めちゃくちゃ素敵です。でも、私が大人しくて素直って言うところには頷けない。
「雪白、色は何色がいい?」
「んー…ヴィクトール様の隣にいておかしく無い色ならいいと思います」
「あらぁ…じゃあこの辺りなんてどうかしらね?」
何種類かの布地を差し出してくれる。ルナティスさんの手の中には、深紅?クリムゾンレッドと言ったほうがいいのかな、そんな赤い布と、ネイビー系の布、暗めのグリーンの布地もある。濃いブラウンなんかは汎用性もたかそうだ。少し悩んで、ふ、と指差した。
「…ヴィクトール様と同じ色」
「あらあら、よかったわね、貴方と同じ色がいいんですって」
効果音をつけるなら、にやにやだろう。ヴィクトール様は無言で、片手で顔を覆った。なんかすみません。こいつマジかよって言うドン引きじゃなければまだいいのか、な?わからないから、こちらに意識を寄せてもらって、だめ?と首を傾げて見上げる。ヴィクトール様がため息をついたのと同時にルナティスさんが堰を切ったように笑い始めた。百戦錬磨の将軍様も形無しだね!とあっさりと笑うルナティスさんはとても美人だ。生き生きとしていて、素敵。
じゃあ、デザインはこっちで決めますね、と一礼した彼女が踵を返したのと同時に、店員さんが紅茶を持って、一角にあるテーブルと椅子へと誘導してくれた。可愛らしい家具だ。ヴィクトール様とミスマッチすぎてむしろ絵になるレベル。絵になると言うよりは写真におさめておきたい。何だろうこの感覚…子供用の公園の遊具でハリウッド俳優がポーズ決めてる感覚に近い。そんな状況に出会ったことないけれど。そうか、未知との遭遇ってことかもしれない。
ヴィクトール様はそんな自分を違わずに自覚しているのか、眉を寄せて、私を見返す。けれど、すぐにその顔は笑みに変わった。
「何かしたいことはあるか?」
「特には…ない、です」
「そうか」
嬉しそうな声で帰ってきて、不思議に思う。何も考えてなかったから申し訳ない気分でいたのだけれど、気にしなくていいのだろうか。表情も嬉しそうだ。つられるようにへラリと笑う。出された紅茶に手をつけた。けれどやっぱりナディアの淹れた紅茶とは違う。美味しくないわけじゃない。けれど、ナディアの淹れる紅茶が私の好みすぎるのが問題なのだ。
どうぞ、と差し出されたのはバスケットに入ったチョコレート。目で追うと店員さんが優しく笑っている。ありがとうございます、と一つ手に取る。包み紙を開いて、口に運んだ。香りが広がって、しつこすぎない甘さがじわり、と溶ける。美味しい。つい口元に手を置いて笑み崩れた。大切に食べてから、チョコレートをくれた店員さんに笑いかける。
「とっても美味しいです、ありがとうございます!」
「…もう一つ、如何ですか?」
「!…いいんですか?」
「ええ、幾つでもどうぞ」
ドキドキしながら、一つ手に取る。あ、と思ってもう一つ。店員さんを見上げて、二ついただきます、と告げる。店員さんはキョトンとしてから、どうぞ、と笑う。一つの包み紙を丁寧に開いて摘む。ヴィクトール様の口元へとそっと差し出した。
予想だにしなかった動きなのか、目の前の美丈夫はカチリと固まっている。はしたないけれど、軽く腰を上げて、テーブルに反対の手をついて身を乗り出した。非常に色気を漂わせているその厚めの下唇にふにっとチョコレートを押し当てる。
「美味しいんです」
ヴィクトール様がチョコレートを食べられることは、一緒にパンを食べた時にチョコチップパンを食べていたことを確認済みだ。ちなみに最後の一個のそのパンを譲ったのは私だ。是非、褒めて欲しい、美味しそうだったんだよあのパンも。一口くれたから美味しかった、と表現した方が適切か。
私の勢いに押されたのか、ヴィクトール様がゆっくりと唇を開く。薄く開かれた唇に軽く押し込むとそのまま口の中に運ばれていく。パッと手を離したが、持っていた時間が長かったせいだろう、少しばかり溶けていた。勿体無い、とテーブルについていた手でスカートを整えながら座る。人差し指についたチョコレートをペロリと舐め取ってから、もう一つのチョコレートの包みをとって、自分の口へと転がした。
少しビターだけれど、ホッとする甘さが広がって、つい笑顔になる。心ここに在らずな状態に見えるヴィクトール様に美味しいですね、と話しかけた。ぎこちなくそうだな、と返ってきたのに満足して、店員さんがくれたお手拭きで手を拭いた私は辺りを見回して可愛い洋服たちに意識を飛ばした。
ルナティスさん(攻略難易度:マストダイ)




