6−02
今日のスケジュールは…視線をスケジュールカレンダーへと向けると、今日はどうやらヴィクトール様との日らしい。むしろ今日と明日の二日間がヴィクトール様の日だ。とはいえ、外泊は認められていないので、私はこの部屋に帰ってくることになるし、ヴィクトール様はこの砦内の客室に一泊する手はずになっている。未成年の外泊は保護者の許可が重要だからね。ちなみに、私の保護者はせっちゃんが基本だけれど、今回はマリアさんとナディアだ。
支度をするときにヴィクトール様ならば、とナディアにお願いしていっそのことシンプルなワンピースへと着替える。化粧だけは可愛くしてもらって、ノックを待つ。ノックとともに開かれる扉に、笑って出迎える。入ってきたヴィクトール様はいつもの軍服とは異なり、7分丈のオフホワイトのワイシャツにダークレッドのベストというカジュアル?な装いだ。折り返されている袖から覗くたくましい腕がとても性的だと思います。体格がいいせいか、第二ボタンまで開けられていて、鎖骨がちらりと見える。とてもエロい。スラックスと革靴はオーダーメイドもしくはいいところの商品なのだとわかる品だ。もしかしたらそのどちらも当てはまるのかもしれない。モノクロ写真で撮影しておしゃれな雑誌の表紙にしたいくらいの完成度だ。
「おはよう、雪白」
「おはようございます、ヴィクトール様」
笑ってその顔をまっすぐに見る。濡れたような暗めの青い瞳が、驚いたように瞬いてから、すぐに細められる。大きな手で何も手を加えていない髪を丁寧に撫でられて、そのままの流れで軽々と抱き上げられた。一気にその整った顔と距離が近づく。甘く細められた瞳が、悪戯に輝いた。にぃ、と大きな口が弧を描く。
「それで、この服装ってことは、俺の好きにしていいってことか?」
「ん。いつものロリィタはハーレルさんが選んだやつだから」
今日と明日は、一日ヴィクトール様だけの婚約者でしょう?首を傾げて笑ってみせる。全員がいるところで誰か一人…特にせっちゃん以外を贔屓するのは難しい。だからこそ、二人きりの時にはただ一人のために、という考えの元この夜期を過ごす予定だ。そりゃぁ、たとえ特殊性壁が根本にあったとしても、優しく、大切にされているのは事実だし、イケメンたちにそんな風にしてもらえるのはきっと今だけだ。これから云百年とともに生きる相手なのだから、良好な関係を作っておきたいと思うのも仕方ない。と、自分に対して言い訳をしておく。
彼らのことを恋愛的にみんな好きだ、とは言えない。だけれど、きっと彼らが別の女性と歩いていたら嫉妬してしまうだろうと言うくらいには、彼らのことが好きだ。婚約者なのだから、と言う独占欲を抱いてしまっていると言ってもいい。まあ、年齢差的な問題であっさり見抜かれてしまっているような気もするけれど。
喜色を浮かべたヴィクトール様はナディアを一瞥する。ナディアが一礼して退出した。できるメイドだ。ヴィクトール様は私を見つめて、なら、買い物に行こうか、と目を細める。はい!と元気よく頷いてから、あ、と気がつく。そっと体をヴィクトール様へと寄せて、耳元で囁く。
「あの、今日の服装も、とっても似合ってて、格好いいです」
「…あ、あ。ありがとう」
一瞬動きを止めたけれど、いつも通りの声の調子で返事があった。恥ずかしくて顔が赤くなっているのが鏡を見ずともわかるので、大きな肩に頭を押し付けるようにして、黙り込む。私を抱えている反対の腕が、背中側へと回って、後頭部を抑えられた。よしよし、と丁寧な動きで撫でられているが、どちらかと言うと顔を起こせないように押しつけられている気もする。
暖かいなぁ、とその体温に体を委ねていると、ヴィクトール様の首が動く。私の耳に触れるくらい近くに整った厚めの唇から吐息がかかる。ビクッと肩を揺らしたが、頭は予想以上にしっかりとした手で抑えられていて、何も変わらなかった。いつもよりも低くて、優しく擦れた声。これはピロートークで披露したら、一瞬でどんな女の人でも落ちる声だ、と戦慄する。
「俺の婚約者は、本当に、かわいいな…食べてしまいたいくらいだ」
反射的に食べるなんて!と返したかった、私の声が出たのなら。あまりの破壊力に、喉が張り付いたように声が出ない。言われた内容が衝撃的すぎて心臓がバクバクしてる。逃げてしまえればいいのに。そうは思うけれど、かわいいと認められたことが嬉しくて、幸せな気持ちは隠せない。だから、腕を持ち上げて、鍛えられて太い首に両腕を回した。
雰囲気に飲まれて、自分が自分じゃないような気がする。そう考えると声が出なくてよかったのかもしれない。下手に声が出てたら、嫌じゃない、なんて言っていたかもしれないから。一度強くぎゅうと抱きしめられて、ヴィクトール様はこの城下には行ったか?と聞く。私は首を左右に振って答えた。そうか、と嬉しそうな声で、返事があったと思ったら、ぐるり、と視界の回る感覚。額を押しつけているせいで、ヴィクトール様しか見えていないけれど、感覚だから、だろうか、すぐにわかった。
ヴィクトール様に連れてこられたのは、みんなで作った砦近くの城の城下。城の中はまだ細かい部分が終わっていないけれど、城下はもう完全に機能している。この城下の塀が砦のものよりも頑丈だから、と言う理由ももちろんある。もしかしたら王都のものよりも優れているかもしれない、とせっちゃんが楽しそうに笑っていた。
顔を上げると、夜の暗さのなかに幻想的な光が浮いている。夜の灯と呼ばれるもので、ぼんやりと宙を漂う光の玉だ、サイズ的にはハンドボールくらいのサイズだろう。夜の暗さと月と星の光、夜の灯があって、お店の窓やドアから漏れ出る明かり。綺麗にグラデーションがかっていて、その光景に見とれる。綺麗、と思わず呟いていた。
迷いなく歩き始めたヴィクトール様は一つの店に近づいた。外観からして可愛らしいその店に躊躇なく突き進んだヴィクトール様は、待ち構えていたらしい店員に感極まったように声をかけられた。
「まあまあまあ!その方が貴方の婚約者なのね!いらっしゃいませ!」
その瞬間、このキャラはなかなか濃いぞと気がついた私は、そろそろ魔族に慣れてきたのだと思う。
この章は比較的恋愛要素が入ってきます




