6−01
暗い。夜期が始まってだいたい一週間が経った。目が覚めても、カーテンを開けても、天蓋を開けても、暗闇しかない。魔力を使ってライトをつけると、深夜一人でパソコンをしていたことを思い出すような明るさにはなる。けれど、なんだか、倦怠感は体を包むし、外が暗いとわかっているから、違和感がある。夜期には暫く慣れなそうだ。きっと終わる頃には慣れるのだろうけれど、大体半年。かなり長い。
せっちゃんが毎日ずっと一緒にいるのが当然のようなことを言っていたけれど、グラジリオスを筆頭とした婚約者たちの反発によりそれは無くなった。いや、それでもやっぱり基本一緒にいるのはせっちゃんなのだけど、夜期は恋人たちの季節でもある。だからこそ、ローテーションになった。うん、私の精神の安寧は守られなかったよ…。ていうか、彼ら自ら乗り込んでくるとか色々どうかと思いますけどね。
権力者だからこそのローテーションだとは思うけど、絶対私にとっては救いじゃない。寧ろ、精神的負担でしかない。唯一の救いはきっかり均等に割っているわけじゃないことだろうか。まあそれに近い感じで割られてはいるのだけれど。どうして私に詳細が伝えられないのかな!それが問題だと思うの。なんでいつも当事者置いてけぼりなの。
「雪白様…」
「別にー。私のスケジュールが私関係ないところで組まれてて不満に思っただけですぅ」
ゴロン、とソファーに横になって、ナディアに答える。ナディアは眉を下げて、なんとも言えない顔をした。いや確かに私の目の前でスケジュール決められてたけどね?せっちゃんに弄られ倒していた時にヴィクトール様がやってきて、それから、グラジリオスがやってきて。ハーレルさんとフィラード様も、そして通信魔法とやらでクレイ様も混ざって6人で私のスケジュールを決めていた。
私が口を出す好きなど一瞬たりともなかったのは、同じ部屋で空気に徹していたナディアならわかっていると思う。っていうか、わかってくれなかったら嫌だわ。殺意は流石に抱かないけれど、かなり(私が)不貞腐れること請け合いだ。ナディアに何とかしろとは流石に言えない(権力的な問題もある)ので、大変ですね、と慰めてくれるだけでいい。
あと問題といえば、決められたスケジュールが細かく私に通知されないことが特に問題だと思うの。合計20日間、っていう区切りのせいかも知れないけれど、なんか一日時間単位で区切られてる日があるんだけど、これ何の日。マリアさんに聞いたらああ…っていうなんともいえない反応しか返ってこなかったから怖いんだよね。クリスマスみたいなものかな?そうであって欲しいと思うけれど…いっそのこと元旦みたいなものでもいい。ただ、元旦のような日だった場合はマリアさんがうなだれた理由がわからないから、とつい遠い目になる。
「雪白様、今日は何をされますか?」
今までの話なんてなかったと言いたげにぶった切ったナディアはにこり、と微笑んだ。うわぁ、美人。ずるいな美人って。思いながらも、少し悩んでから、決めた。
「カレンダー作ろう。この夜期のスケジュール入れて」
ついでに日記…というか、あった内容も軽く書いておけるようにしておこう。絶対わけわからなくなると思うんだ、私が。誰と何の話ししたのかとかだけでもいいから纏めておきたい。ハーレムの主とかやれる甲斐性ないのになんでこんなことしなきゃいけないの?誰かハーレムの主欲しい人いない?あげるよ?性悪とロリコンと貧乳教と人形趣味とチョロインとオネエももれなく付いてくるキャンペーン。ぜひセットで引き取っていただきたい。
「かしこまりました、どう言った形にしますか?」
「そうだなぁ…」
壁に貼りだそうかな。形式を考えていると、私が小学生の夏休みの度に母親が作ってくれていた簡易スケジュールカレンダーを思い出す。大判のカレンダーの裏を使って手作り感が溢れていたな。…ああ、思い出すと、やっぱりまだ辛い。けれど具体的な家族についてなんて、思い出したら崩れるような気がしていたのに、案外そうでもないのかもしれない。きっと、彼女たちは、悲しんでくれただろう。私がいなくなったことを、泣いただろう。
大丈夫だよ、とは、まだ言えないけれど。きっと心配をかけないくらいに幸せになるから。思い出した時に後悔じゃなくて、希望になるくらいには前向きに。小さな決意を胸に押し込めて、ナディアに笑う。
「この部屋の壁に貼りつけよう!それで、疲れてる時とかは気遣ってもらって予定を調整してもらおうかな」
その第一歩には、私も強くならなくては。肉体的に、ではなく、精神的に。強さなんて曖昧で、はっきり言ってよくわからないけれど、せめて、過去を振り返った時に後悔ではなく良い思い出だと笑い飛ばせるように。ただ悲しくて泣くだけでは芸がないから、誰かを想って涙が流せるように。この世界で、生きていくのだと、生きているのだと、胸を張って宣言できるくらいになりたい。
私の発言に、ナディアは虚をつかれたような顔をしてから、コクリと頷いた。少々お待ちくださいと退出した彼女はすぐに特殊な紙を持ってくる。それを壁に貼りつけて、私を振り返って笑った。手招きもされたので素直に近寄ると、魔力で文字が書ける紙だと教えてくれる。
紙自体は少し厚めの、青みがかった白だ。人差し指に魔力を集めて、イメージに沿って紙の上に指を滑らせる。つっと引いた線は、まるで線引きを使ったようにまっすぐで、隣からナディアが、失敗した時はもう一度上からなぞれば消えますよと微笑んだ。
ありがとう、と返して、スケジュール表を作る。今日の日付から書いていこうと均等にラインを引いてから、日付を記入した。それから予定を書いておく欄と、それから、勉強内容を記入できる場所。一緒に過ごした相手の記入欄の下には何をしたのかも書けるようにもしておく、最後に大きくとった備考欄はその日の感想とか書いておけばいいかな。楽しかったとか、よくわからなかったとか、もうやめてほしいとか。
どうせ、彼らは勝手に部屋に入ってくるのだから、それくらいの反撃許されてもいいんじゃないかと思うのだ。
前向きと言うより深夜ハイ




