閑話06
いつもありがとうございます。
雪白さんは、諦めた顔をして主人に体を預けた。距離を置こうとしているときもあるにも関わらず、こういうとき、彼女はひどく無警戒で主人へと自分自身を委ねる。完全に信頼しているのだと伝えるように脱力して完全に肉体を任せている。逆らう気は無いと証明するように、されるがまま、なんの不安もなさそうな顔をする。
それがより一層主人の執着を強めるだけなのに、全く学習していない。そう思う気持ちもある、けれど。雪白さんはまだ16歳で保護を必要とする年齢だ。本来に比べて肉体は成長しているが、本来なら周りをメイドに囲まれて、外も見られないくらいの年齢のはず。必ずしも保護者がいて然るべき年齢なのだ。魔族は子供を大切にするからこそ、16歳の少女が一人で森を彷徨うことなんてあり得ない。
父親と母親が討伐隊に出会ってしまって、孤児になってしまう子供も一定数は居る。母上は低級魔王と言われる階級だからこそ、その子供達も多い。今私たちの住んで居るこの砦も元々敵の砦であったのだ、と言えばどれほど攻め込まれたのかというのは簡単に想像できるだろう。
元々敵の砦であったからこそ、ここの塀は完全に囲まれていないし、其処彼処に魔族の使わない設備があったりする。まあ、雪白さんはこの砦内ですら自由に歩けないし、案内すらほとんどしてもらえていないから知らないだろうけれど。例として上げるのならば隠し通路とか。そんな通路で逃げる暇あるなら移動魔法使えばいいのに、と魔族なら思うだろう。私もなんの通路だろうかと悩んだ後、必要ないと判断し、カスティーリャとともに埋め立てた。百年単位で必要になったことはないから、これからも使わないだろう。
話を戻すが、そんな敵連合軍を一人で押し返したのが、当時成人してまもない主人だった。最初は母上が取り込もうとしたり、私と結婚させて繋ぎとめようとしたが、それがどう作用したか、と言えば、あの二人の仲の悪さだと考えてもらえればいい。もうあそこの溝は埋まらないだろう。
「マリアさん、マリアさん!」
「どうっ…主人、雪白さんを離していただいても?」
思考に沈んでいたら、目の前で雪白さんが助けを求めていた。完全に抱きすくめられて、そのまま絡め取られている。主人は別に触手とかそういう類のものは持っていないし、そうなることもできない。が、そう表現することしかできないレベルでくっついている。呼吸さえし辛そうなくらいにギッチギチだ。ギブ、と漏れ出た声でその腕を叩いて居る雪白さんが哀れすぎる。
だが、抱きしめている側はは楽しそうに笑っているだけで、決して彼女を解放する気はないようだ。そのせいでより一層雪白さんが苦しそうにうぐ、と呻いているのだけれど。それをわかった上で、止めないのだから、その性格は推して測るべし、というべきか…。雪白さんは悟ったような目をして、私を見つめていた。気がつくのが遅くなってしまって誠に申し訳なく…と目線を逸らして声に出さずに謝罪する。
と、ノックの音が鳴り響く。どうしたのか、と視線を向けると、返事前に扉が開いたため、相手はわかった。将軍だ。自分の部屋のように入ってきて、二人を視界に入れた瞬間動きを止めた。婚約者が婚約者でもない別の男に絡みつかれている図とはなかなかの衝撃映像だろう。主人の思考回路ではきっと問題ではないのだろうけれど、世間一般でいえば大問題だ。ちなみに、反抗しない雪白さんはある種洗脳されている状態なので、もう諦めたほうがいい。
「セヴィア様、雪白を離してください。俺の婚約者です」
口調だけは改めた将軍。抗議の意味も込めているのだろう。けれど。主人はただ笑うだけだ。抱きすくめた雪白様を膝の上に乗せて、後ろから手を回している。ガッチリと抱きしめるような形であるが、その右手は雪白さんの顔の左半分覆っている。親指で、手のサイズと対比してしまうと小さな雪白さんの唇を強調するように撫で上げて、嗤う。
死んだような目をしている雪白さんには多分抵抗する力さえ残っていないのだろう、お労しい。一層の事哀れだ。ハーレムの主とは本当に望まない人にとっては地獄のような称号らしい。昔の知り合いで絶対にハーレムの主が欲しいと言っていた女性がいたが、彼女は一体どうなっただろうか。きっとどうにもなっていないのだろうけれど。
そう思って入ればノックがもう一度。どうぞ、と覇気のない雪白さんの声が返す。入ってきたのは彼女の伴侶である獣人だった。3人の様子を見てから顔をしかめたがすぐに、その顔を穏やかなものへと変えた。真っ直ぐに雪白さんを見つめている。何度か瞬いた彼女は、首をそらして主人を見つめた。
「せっちゃん、グラジリオスが夜期について話したいって」
「…奴隷が?」
「もう奴隷じゃないし、私の、騎士様だし?」
語尾を上げて告げる彼女は旦那様、というのを戸惑ったようだ。恥ずかしそうに目を伏せるから、主人と将軍の表情が険しくなる。学習しない人だなぁ、とは思うが、きっと彼女としてはそれで逃げられると思っているからこその行動なのだろう。
「…話は聞こう」
戦闘技能と言われる威圧を平然と使いながら、問いかける。それに対し優越感の滲んだ微笑みで返したグラジリオスはそのままの表情で答える。
「夜期のうち20日を私にください。その20日間さえいただければ、残りの160日、私は他の婚約者の方々の邪魔はしません」
もちろん、雪白様が求めてくださるのであれば、話は別ですが。そう微笑んだグラジリオスに、セヴィア様は目を細めて探るような態度をとる。が、その思考を止めたのは、開かれたままのドアからの声だった。
「あ、それアタシも乗ってるわ、あとクレインスも」
「僕もお願いしてるよ」
にこり、笑みを深めるグラジリオスは、間違いなく貴族だった。主人もそれを把握したのか、ふっと笑って、将軍を見上げる。将軍は、なるほどな、と笑って、肯定する。
「ならば、全員がそれぞれ20日間。計120日、ということで構わないな?」
「せっちゃん含まれるんだ…」
「不満か?」
「別に。せっちゃん最初期からハーレム人員に数えられてるし、今更変わらないよ」
疲れたように言い切った雪白さんに視線が集中したが、心ここに在らずといった様子の彼女は私たちの視線に答えることはなかった。
やっとハーレムっぽい展開




