5−11
空気に違和感を感じたのだろう。マリアさんが首を傾げた。なんといえばいいだろうか、と思いながら少し考える。下手にいうと怒ってるみたいになるなー、と危機感を覚えながら。ここで、なんでもないよ、はなかったことにしようとしているみたいだし。素直にいうべきだろうか。でも不機嫌そうな感じにならないように、と考えると。
「今、私が子供扱いされたーって拗ねてたところです」
「そうでしたか」
マリアさんが苦笑して、ナディアの背中をぽん、と軽く叩いた。マリアさんに私の意志が伝わったのか、多分さっきまでいなかったからこの私の言葉が素直に冗談だと伝わったのだろう。ナディアもそこでやっとホッとした顔をしてくれた。おお、良かった。私もほっとして、思考を落ち着かせる。大丈夫だろう。小さく笑って、じゃあ、と話を促す。
「マリアさんから私に夜期の注意事項はありますか?」
「雪白さんは部屋の外に出ない方がいいかと…」
同じこと言われた。しょぼん、としてから、さっきも言われたと少しだけ不満げにする。自分から振っておいて何だけど、同じこと注意されるとテンション下がるよね。拗ねた顔のまま、はぁい、と返事をして、ついでにと言わんばわかりに、同姓と伴侶以外とは一緒にいないようにするから大丈夫だよ、と返した。
マリアさんが、そうしてくださいませ、と苦笑気味に微笑むのを見て、ああ、本当に私は子供だなぁとなんとも情けないような気持ちになる。けれど、してしまったものはしょうがないので、すっかり諦めようと思う。いや若干の黒歴史みたいな状態にはなっているけど、ほら、現在進行形で中二病を患ってる私にとって黒歴史なんて可愛いものだというか。別に今の言動は歴史じゃないから黒くないよ、過去になった瞬間に黒歴史は黒歴史になるのだ。すごく哲学っぽい言い方で言い訳を心の中でしてから、二人に視線を戻す。
それからさらに追加で説明された内容を反復する。繁殖期とも言われる夜期の注意事項。
まず、夜期は基本的に人間以外の種族にとって発情期的な感じらしい。ちなみに魔族、エルフ、ドワーフ、獣人の順で発情期は短いそうだけれども、蜜月だったりするとまた変わってくるらしい。発情期じゃないと子供はできないため、子供の欲しい夫婦なんかは夜期に家に籠るそうだ。ちなみに人間は決まった発情期がないため、いつでも繁殖することもあり、人数が多いそうだ。子供の話で続けると、獣人は一度に3人以上が生まれる特徴がある。ドワーフも子沢山らしいが、獣人に比べて発情期が短いため、人口的にはドワーフの方が獣人よりも少ない。エルフは発情期が短く、さらに生まれる子供も基本が一人だから人数が増えない。魔族の場合は発情期が比較的短いのもあるが、どちらかというと高い魔力に耐えきれずそもそも受精が少ないらしい。故に子供も生まれない、と。で、生まれてもなかなか育てるのが大変だ、と。閑話休題。
次に、時々発情期の影響が強く出る魔族がいるとのこと。魔力の有無なんかではないらしく、ある程度条件を満たしているとランダムで起こるそうだ。ちょうどそういう年齢である、とか、決まった相手がいる、とか。そういうものらしい。その条件を研究している魔族もいるそうだ。魔族にも研究者っているんですね、と返したら、カスティーリャは基本は研究者ですよ、とマリアさんが笑った。ただ、たまに条件から外れる相手がいるらしいのだが、そういった相手が手を出しやすいのがハーレムの主持ち。基本が一夫一妻のため、下手な相手に手を出せないが、ハーレムの主持ちであれば、そのハーレムに割り込むことができるし、夫婦仲を裂くとかそういう色々な問題が起きにくい。ので、顔も知られていて、ハーレムの主持ちだと知られている私は、未成年であっても狙われることになる、と。
最後に、夜期は暗く、基本的には休息を中心に過ごすべきだとされている。繁殖期でもあるが休息機でもあるそうだ。また、モンスター云々のこともあるので、危険だから部屋から出ないように、ということだった。
順序立って懇々と説明されたら、はいと答えるしかない。なんとも心配されているなぁ、とは思うが、やはり実感がない。一度も経験していないのが問題なのだとは思うけれど、こればっかりはなんともできない。
「そういえば、それならヴィクトール様やフィラード様、せっちゃんにも会わないほうがいい?」
「…本来はそうなんですが」
「うん」
「それを彼らが許すとは思えません」
マリアさんの頭が痛い、という動きに同情を禁じ得ない。苦労性のプリンセスとかむしろ主人公な気がする。はあ、とため息をついたマリアさんに同意するようにナディアが頷く。ナディアもそう思っているらしい。顔がなんとなく引きつっている気がする。
「どうにかすることはできるんでしょうか?」
「雪白様が拒否するのが一番ではありますが…それは、無理でしょうし」
「うん…言い包められそうですね」
私が答えれば二人はしみじみと頷いた。うん、自分で言ったことだけどダメージくらったわ。口のうまいせっちゃんが悪いと思う。いやせっちゃんだけじゃないな、むしろせっちゃんは押してくるだけで、口が上手いのはどちらかというとフィラード様だし、何気ない言い方とかではヴィクトール様も侮れない。気がついたら一緒にいるとか約束してる可能性もある。確かに近くにナディアか、マリアさんがいないと防げなそう。グラジリオスは獣人であるし、伴侶でもあるから問題ない。
「それならば、定期的に会う日にちを作り、その日だけ会うようにしたほうがいいでしょう」
「いつも夕ご飯せっちゃんと食べてるけど…それは?」
私の質問にマリアさんがうわぁ、と頭を抱えてそんな顔をした。なに、どうしたの?と思っていると、額を抑えてそういえばそうでしたね、と頭の痛いことのようにいう。あれ?一緒にご飯食べるのってダメだったっけ?二人きりになるのはアウトって言われてたけど。まあ人前で魔力交換した私に死角はないよね。嫌な意味だけど。
「それは…多分そのまま継続されるでしょう」
「やはり基本的にはお部屋から出られないほうが良いかと…」
ナディアも頭が痛いと言いたげな顔で言う。その顔をされてるのは私ではないと思いたい。
そんなやり取りのあった日の終の時間にせっちゃんが部屋にやってきて、夜期についてだが、と話し始めるとは思わなかった。
夜期(恋愛要素)




