5−10
翌日、昨日よりも暗さを増した空の向こうから、またモンスターが来ているようだった。グラジリオスもせっちゃんも、そしてヴィクトール様もモンスターを狩るために外出している。ヴィクトール様の部下と隷兵たちはどちらかというとモンスターを狩るよりも治安維持?人々を守る方に力を尽くしてくれているようだ。
人数はそう多くないけれど、みんな鍛えられており、中には数人女性もいた。話しかけたかったけれど、忙しそうなので声をかける事は憚られて、遠くから見つめるだけだ。まるで憧れの先輩を影から見つめる女子高校生のようだが…いつかタイミングがあるだろう。なければ縁がなかったと諦めることにしよう。
ヴィクトール様の部下で鍛えられていてもやはり、せっちゃんやグラジリオスには勝てないらしい。その二人とともにモンスターを狩ることになっているヴィクトール様すごいんだなぁ…なんて思ったのだけれど、どうやらヴィクトール様もハーレムの主Ⅱの効果で今まで以上に強くなっている、とのことだ。
ありがとな!とキラッキラした顔で言われたけど、その顔似合わないからやめたほうがいいよ、とはいえなかった。マフィアのドンがキラッキラしてるんだよ?ある種の恐怖だわ。ヴィクトール様の部下がさっと距離を置いてたの、私見てたからね。喜んでもらえたならいいけれど。
フィラード様が不満そうな顔でせっちゃんたちに怪我はしないように、と告げて、私の隣に陣取った。彼は魔力があがったのが嬉しかったらしくこれでさらに治療ができると喜んでいた。ちなみにそのお礼としてもらったロココ調のドレスについてはノーコメントでいさせてほしい。言っておくが、着てはいない。
その翌日、さらに暗くなった空にそろそろ本格的に夜期ですね、と起こしてくれたナディアが言っていた。夜期には何かあるのだろうか、と問い掛けてみれば、ええ、と肯定するような反応が返ってくる。その説明もしないとですね、と微笑んだナディアに準備を手伝ってもらいながら朝の準備を終えた。今日もどうやらせっちゃんたちは外へ行っているらしい。
連日モンスターが出てくるのだが、どうしてそれほどまでにモンスターが現れているのだろうか。たしかに、人工的に作られているモンスターかもしれないが、無尽蔵であるはずもないのだ。連日モンスターを何体も倒しているのに、それほどまでに数多く作られている、ということなのか。詳細がわかっていないからこそ、推測が悪い方向へと向かってしまう。
まあ、そんな私の考えを払拭するようにあいかわらず、せっちゃんとグラジリオスとヴィクトール様で楽しく一狩りしているらしい。ストレス発散でもしてるんじゃないかと思うほど嬉々として楽しそうに出かけている。
モンスターは倒すと消えてしまうため詳細を調べることがいまだにできていないようだけれど、多分、単純にそれぞれがオーバーキルしてるんじゃないかと思う。昨日ちょっと訓練をしているところを見せてもらったのだけれど、圧倒的にあの3人抜きん出てた。ハーレルさんがうずうずしてたので、もしかしたらハーレルさんも戦闘民族説あるけれど、その辺は気がつかなかったふりをさせてほしい。
「雪白様?」
「あ、なんでもない」
不思議そうに私の顔を覗き込んできたナディアに、首を振って大丈夫だと伝える。そうですか、と納得してくれたらしいナディアだが、これから夜期での注意を話してくれるらしい。それは意識飛んでたらまずい、と姿勢を正してナディアを見る。
「では、夜期の基本的な注意事項ですが」
「うん」
「雪白様は外に出ないで下さい」
「えっ」
「雪白様は外に出ないで下さい」
「二回言ったね…外ってどこを示しての外?」
「部屋の外、という意味です」
出られないめちゃくちゃ範囲広かった。衝撃を受けているのだが、なぜだろう、ナディアは真面目な顔から表情を崩さない。一層の事深刻な表情になって私に視線を向けた。そこまで私の信用はならないのだろうか。なんて思うのだが、その表情としては心配の度合いが強い。
「もちろん、一人で出て欲しくないというだけで、私やマリア様がいる時は構いませんが、それ以外の場合は部屋に入れることもおやめ下さい」
「え、なに、夜期って何?!」
「ああ、いえ、グラジリオスなら色々な意味でセーフですけれど、それ以外は…婚約者である方達もまだ離れておいたほうがいいでしょう」
「え、なに、そういう期間なの?」
グラジリオスがオッケーで婚約者がNGということは、結婚していればいいということなのだろう。けれど、夜期って比較的どころか長かったと思うのだけれど。その期間ずっと?結構長いよ?と思ったのだけれど、実際この夕期が徐々に暗くなっていったように、夜期も徐々に暗くなっていくところから最終的に朝期に向けて明るくなって行くらしい。黎明の時期が一番暗いらしいけれど、夜明け前は一番暗いというのは共通しているのか、としみじみと感じた。
「夜期はこの世界共通で繁殖期とも言われます。ですから、同性か伴侶以外はと一緒にいないほうがいいかと」
「へえ…繁殖期なんだ」
「しみじみと仰っておりますが、ちゃんと理解してますか?」
疑うような表情に視線をそらす。経験もしていないのにわからないよね、とは私の言い訳なのだけれど。唇を尖らせるようにして不満をアピールする。ナディアが困った顔をしていて、困らせているのはわかる。だが、不機嫌を落ち着かせたいだけなのだ、なんというか、スイッチ入っちゃう時ってあるよね。
すみません、と謝るようなナディアに不機嫌じゃないよ、と答えるのだけれど、どうしても不機嫌そうな響きになる。ナディアの顔がこわばっていくのだが、別にそこまで不機嫌な顔を表に出しているつもりはないのだ。伝わらないから意味がないけど。むすっとしていると本当に不機嫌な顔に見えるから困る。っていうかナディアはちゃんとした説明だけをしているだけであって、別に悪いことはしていないのだけれど。
ここは、どうするべきだろうか。グッと黙り込んで、考える。私がたまり込んだことでより一層の不機嫌感が出てしまうのが怖い。ナディアがオロオロとしている。ああ、もう。でももう一度、言葉にして不機嫌じゃないよ、といったところで信じてもらえないのだ。わかっている。じゃあ教えてよ、っていうのも当て付けみたいで困る。
救いのようにノックが響いて、マリア様が顔を出した。
「…どうかされたのですか?」
すれ違い(同性)




