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昨日2話投稿しちゃいました、うっかりうっかり
お茶を飲んで一息ついたところで、マリアさんが、よろしいですか?とただのイケメンにしか見えない表情と動きで言ってきた。男装執事喫茶とか、需要しかない。
そんな考えは置いておいて、これは先ほどのお弁当と天気予報の話だろう。構いませんと答えようとしたのだが、せっちゃんからの声で止められる。
「待て、マリア」
「はい」
「私が見える範囲でやれ」
「…かしこまりました」
別にせっちゃんの前でやる必要ないよね…?危ないこととかないし…え、まさかここの食材って暴れたりするの?私、生粋のネガティブだから、少しのことが気にかかっちゃうんだけど…なんて。
不安そうな顔のままマリアさんを見るが、危ないことなどありません、と冷静沈着に切り捨てられて、はあ、とだけ返事をした。じゃあどうして、せっちゃんの視界内でいる必要があるのだろう?
まあ、長いものに巻かれて、決定に逆らわずしばらく平穏無事に過ごしていたい。その間にこの世界…というよりも魔族の常識に慣れておきたいのだ。前の世界と全く同じだとは思えないし。せっちゃんはそれを危惧していたのだろうか?
「では、移動しましょう」
1階の食堂のさらに奥に調理場があるらしい。…私のスキルだと調理場での料理って微妙な気がするんだけども。私がそう思っているのが伝わったのか、魔法的な何かで読み取ったのか、はたまた私がわかりやすいのか。
私のことを身長的な問題で見下ろしたマリアさんが、大丈夫です、と告げた。
「非戦闘系スキルは基本的に誤差が少ないのです。多少緊張しても、味が落ちることはありません…それに、あなたの場合は、この砦をあなた自身の家、もしくはこの砦のものたちを家族だと思い込むだけでいいのですから」
「と、なると…スキルが役に立ちそうですね」
「ええ、期待しています」
マリアさんの声は聞いていて心地よい。いい声の持ち主だなぁ、と思いながら、背中に熱い視線を感じる。厨房には入れない、ということで、食堂からせっちゃんが異様なほどに見つめてきているのだ。若干妬ましさの入った粘着質な感じもしているので、本当に今まで友達がいなかったのだな、と呆れる気持ちすら抱く。ちょっとかわいそうにすら思うよね、次期魔王でもぼっちは辛いな。
せっちゃんからの視線はマリアさんも感じているらしく、徐々に眉間のシワが深く刻まれていく。次期魔王で主人としても妄信的な忠誠ではないのかもしれない。だんだんと怖い顔になっていくので、せっちゃんには自重してほしい。
「ジオール、彼女は出水雪白。君の希望している愛妻弁当スキルの持ち主だ」
「マジか」
やってきたのは、紅い髪に真っ黒のコック帽とコック服を身につけたこれまた長身の成人男性だ。目はやはり肉食獣のものだし、ついでに言うなら、鬼のツノが生えてる。見た感じでは骨が隆起したタイプのツノのようで、額から一本天を衝くようにまっすぐと伸びていた。三白眼で恐ろしそうなのだが、目の色が桃色なのでちょっと可愛らしく思える。
ジオールと呼ばれた彼は私をまじまじと見つめて、それから、いくつか質問してもいいか?と見た目から想像ができないほどに柔らかな声で告げた。こくり、頷くことで答える。
「愛妻弁当スキルについて教えてくれないか?」
「あ、はい。どうぞ?」
パッとステータスを開いて、ジオールさんに向けた。ら、なんだか驚かれたが、ステータスって見せちゃいけないの?でも見せてくれってことじゃないの?マリアさん自体私に見せろって言ってきたよね?
不思議だ、と思っていれば、少しだけ顔を青ざめさせたジオールさんがそれでも興奮気味に、最高位はやっぱりすごいな!と目を輝かせた。
「このスキルで手伝ってくれるのか…楽しみだ」
明日の料理も、昼食も。とにこりと笑って私の頭を撫でる。…言っておくが、私は日本ではさほど小さいわけではなかった。のだが、この世界では結構小さい分類に分けられている。と言うか完全に小柄だ。魔族が大きいのかもしれない。2m近いせっちゃんも、それと同じかそれ以上あるジオールさんも、多分180くらいあるマリアさんも。
子供扱いは嫌いじゃないから別にいいんだけど…実年齢は誤解されていそうなきがする。あ、そう言えば寿命とかも違うのだろうか。後で調べてみよう、文字も読めるのかわかんないよね、そう言えば。うーん、やっぱりしばらくは大人しくしておかないと何するかわかったものじゃないな、私が。
それからの時間はジオールさんと二人で厨房内を歩き回って色々な器具を教えてもらった。マリアさんが私の特異性を伝えていたから、ジオールさんは色々説明してくれる。
「基本は魔法でどうにかなるんですね」
最終的に私が抱いた感想はこれだ。魔法って本当に万能だ。この世界では魔法を色で例えることが多いらしく、色が薄いのは魔法がほとんどかかっていないものらしい。もちろん、色を変える魔法もあるので一概には言うことはできないらしいのだけれど。
例を上げて言うのなら、ジオールさんの着ている真っ黒なコック服。あれには清潔を保つ魔法が何種類もかかっているだけでなく、料理スキルの上昇もできる補助魔法なんかもかかっているらしい。すごいすごい、とはしゃいでいたら、そうかそうか、とジオールさんが私をさらに小さい子扱いし始めた。いいのかこれ。そのうち幼児扱いになるんじゃないか。
鍋とかも持たせてもらったが、軽量魔法?とやらがかかっていて、軽い、あと、油を敷かなくても張り付かない。向こうの世界でのなんちゃらコーティングってやつの最上級って感じ。包丁も同様にトマトーーこの世界の食べ物も向こうと変わらず暴れることはないようだーーだって潰さず切れる!なんて通販ができそうなレベルだった。ただ刃物は危ないから気をつけろよ、ってジオールさんの過保護度が増しているのを感じたのもこの辺だ。さすがに知ってる。
どこもこんな風なのだろうか?そうしたらきっと私は、向こうで住んでいた時よりもはるかに文化的な生活ができるのかもしれない。
ちょっとこれからが楽しみになって、自分が一体どんな魔法が使えるのか、と口元が緩やかに弧を描いた。
せっちゃん(女)は常識知らず




