5−05
私とグラジリオスのやり取りを見ながらも、考察を始めたヴィクトール様とせっちゃん。マリアさんもその話に参加している。ナディアがもう一度お茶を淹れてくれる。こちらを気にしていない様子に思考を巡らせ始めた。
グラジリオスは私を変わらず姫様と言って、従うようなそぶりを見せている。けれど、先ほどの行動から考えると、どこか今までとは異なる行動を感じて、困惑が抜けきらない。グラジリオスを信じていないのか、と責められても仕方のない思考だろう。グラジリオスの手を取って、俯いてそのモフモフの手だけを見つめる。
この手が獣人のものでなければ、目が私たちと同じ狼の目だったら、私は今でも安心していたのだろうか。そう思うけれど、多分、そうはならない。彼が獣人であって、そして奴隷であったから、私のーーと、いうより私の意思を認めて、優先させてくれるせっちゃんのーー命令が絶対であったから、私の意思に沿わないことはしないでいてくれる唯一安心できると相手でもあったのだ。
せっちゃんは確かに優先はしてくれるけれど、せっちゃんは本当の意味で保護者でもあるから、どちらかと言えば私自身が、その意に沿わないことはしたくないと思っている。
「雪白様?」
呼び方は以前のまま、私に敬称をつけているけれど、そこに込められる感情が同じとは限らない。顔があげられないまま、握った手のモフモフを堪能する。されるがままのグラジリオスは、私と一緒にいると言った。つまり、関係は今までのままでいいということだろうか。それでも、彼が奴隷であったことを前提に色々考えていたからこそ、こうなってしまうとどうすればいいのか。
確かに以前は奴隷はいなかった。だから、正式に奴隷として扱えていたわけではなかったのだろうけれど、それでも。私の甘えか、傲慢か、とは思うけれど。きゅと唇を引き結んで、両手で、大きな大きな手を握る。顔を上げて、困惑を超えて、心配そうな顔をしている。
「雪白様、何が不安なのですか」
グラジリオスは跪いて、まっすぐと私を見つめてくる。その顔は、どこまでも一途で。私は確かに彼と過ごした日々は楽しかったのだ、けれど、何がダメなのだろう。わがままを言えなくなる?でも、以前からグラジリオスのよく出る感情を伺いながら言っていたつもりだ。そのまま変えずにいればいい。
けれど、グラジリオスがどう反応するのか、想像がつかない。不安、というよりも、恐怖、だろうか。こわい。手を握っていた片手を外してグラジリオスの頬にあてる。
「雪白様?」
「…変わらない?」
「え…?」
不思議そうな声に、かなり情けないだろう顔を向ける。グラジリオスはどこか悲痛な顔つきになって、今度はさっきと逆に彼の手を持っていた私の手を両手で包み込んだ。片手でもすっぽり包まれてしまうようなサイズの差なのに、両手を使われると本当にすっかり見えなくなる。
こちらをじっと見るグラジリオスは、静かに口を開いた。
「俺は、変わりません。ステータスを見て自覚したのは、さっきが初めてです。けれど、己の身体の変化には流石にモンスターを初めて倒した時に気がつきました」
「…うん」
「もし、俺が雪白様の願いに反して次期魔王に逆らうつもりであれば、もっと頻繁にあなたに会いに行っています。俺は、あなたの騎士ですから。本来は、誰にもあなたに会うことを咎められることはないのです」
…そうか、嫁だもんな私。せっちゃんが見回りを優先させていたから、マリアさんたちが王城へ行っている間会うことがなかったわけで。すぐにあの爬虫類っぽいモンスターを倒したのなら。それくらいの彼の言葉を信じられるくらいには、グラジリオスと同じ時間を過ごしている。
ギュと目をつぶって、少し考えた。変わらないでいてくれると、宣言してくれた。それは信じるに値するし、そうするべきだ。うん、私はまだ未成年なわけだし、グラジリオスだって無茶はしないだろう。
安心させられるように笑うと、目を細めて安心したような表情。少しだけ体を動かして、掴まれていた両手を離してもらう。座っていた椅子から体を軽く浮かして、白い毛並みを頬に当てたままの手でなで付ける。ちょこんとついている耳に、ありがとう、と囁いて、離れ際目元に軽く唇を押し当てた。
この行動ができたのは、獣の頭だからこそ、だろう。これがもし、日本でよくあったほぼ人間と変わらず耳と尻尾と手足のみ獣、とかのタイプであったら絶対に無理だった。ホッとして、もう一度椅子に座りなおして、ナディアが淹れてくれていた紅茶を口に運ぶ。会議室が静まり返っていることにようやく気がついた。
「…お話、終わったの?」
「この状況でそれを聞くのか」
「ん?」
首を傾げて、呆れたようなヴィクトール様を見る。ああ、もしかして、さっきグラジリオスが“モンスターを初めて倒した時に気がついた”とか言ってたから、詳しく聞きたい、とか?
ナディアが額を抑えているのが見えた。え、ちょ、何。違うの?
「雪白様…」
なんとも残念な子を見る目で見られる。それから、どうして、その発言が聞かれていたと理解しているのに、自覚がないのか、とやんわりと聞かれた。自覚?と、思ってからハッと気がついた。絶対、さっきの目尻にキスしたことだ。サァッと血の気が引く感覚がある。あっこれヤバイやつや。
気がついた私がわかったのだろう、ナディアがゆっくり頷いた。そういうことだよ、と。そりゃそうだよね、一応婚約者というものなんだもんね、でもグラジリオスは旦那様だから。
そう思いながら、言い訳と証明のために自分のステータス詳細を開く。
詳細
殺人 なし、基準を満たしている
暴行 あり、基準を満たしている
淫行 なし、基準を満たしている
暴食 なし、基準を満たしている
睡眠 良好、基準を満たしている
問題 自覚がない
好み 年上
攻略 セヴィア (魔族) ???
ヴィクトール(魔族) 婚約者
クレインス (魔族) 婚約者
フィラード (魔族) 婚約者
グラジリオス(獣人) 伴侶
ハーレル (魔族) 恋人
覚醒
覚醒させますか?
今すぐ あとで
「?!」
待って、なんで?なんでパソコンのアップデートみたいなイエスorはいみたいな、覚醒待ったなし状態になっているのだろうか。くらっと眩暈がする。
関係性不明なせっちゃんが近づいてきて首を傾げた。そういえば覚醒について聞く暇がなくて聞いていなかったから、いっそここで聞いてしまおう。
「せっちゃん…覚醒って知ってる?」
奴隷解放による弊害もゼロじゃない




