5−01
マリアさんとカストさんとハーレルさんが帰ってきた。と、同時にヴィクトール様も砦にやってくる。3人を迎えるためにせっちゃんのところで待っていたら、突然ヴィクトール様が現れたびっくりを、誰か理解してほしい。
突然目の前にぬっと壁が現れたような感覚だ。ついせっちゃんの手を掴んでしまったのだが、せっちゃんは微笑ましそうな顔で私を見ていた。なんだその、子供が初めての生き物に出会ってビビっているのが微笑ましいというような視線、なんて思っていたが、不満そうなヴィクトール様が私に顔を寄せてきた。
相変わらず渋い顔立ちだ。が、その顔に険しい表情が浮かんでいると完全に怖い人だ。せっちゃんがヤのつく自由業な若頭的なイケメンだとすれば、ヴィクトール様はイタリアンなマのつく自由業のドン的な美形と表現できるだろう。なんで強面多いのかな、嫌いじゃないけど。ありありと不機嫌だと訴えてくる顔に小さく苦笑する。
驚いてしまったことへの謝罪をして、ヴィクトール様の手を取る。少しばかり不機嫌そうなままではあるが、それでも射殺すような視線ではなくなった。そのことにホッとして笑いかければ、微妙に笑ってくれる。なんとか機嫌は持ち直したかな。
とはいえ、なぜ突然ヴィクトール様が現れたのだろう。首を傾げていると、彼の後ろにマリアさんたちが見えた。疑問を一時的に頭の隅っこに追いやって、マリアさんたちの方へと足を動かす。そして、私が嬉しかった時のことを思い出して、全力の笑顔で告げた。
「お帰りなさい!マリアさん、ハーレルさん、カストさん!」
「雪白さん…!」
感無量といった様子で、ぎゅう、とマリアさんが私を抱きしめる。え、こんなキャラじゃないと思ってたんだけど。マリアさんが壊れた?ギチギチと音が鳴りそうなほどに抱きしめられているけれど、いい香りについうっとりする。彼女の背中に手を伸ばして抱きしめ返すと、やはり女性らしく身長が高くても私の腕がぐるりと回る。
マリアさんがこんな性格をしていたとは知らなかったけれど、嬉しいから気にしないでおこう。高い位置にある顔を見上げて、へにゃりと笑いかける。マリアさんも優しい顔で笑ってくれた。ただ、ちょっと気になるのがお母さん的な表情であることだろうか。そこは友達を見る顔が良かった…いや、わがままは言うまい。
「何か困ったことはありませんでしたか?」
「んー?多分、なかった!」
「多分」
みんなよくしてくれたから、と笑っていたら、ぐい、と後ろから引っ張られる。視線を向けると、ニコニコと綺麗な笑顔で笑っているハーレルさんがいた。
「ハーレルさん、もう平気?」
「雪白ちゃんがしっかり治してくれたから大丈夫よ」
ふふふ、と妖艶に笑うハーレルさんにドキドキするけれど、このドキドキは明らかに美人な同性を目撃した時のドキドキだ。色っぽいよハーレルさん!クレイ様は綺麗だけど、不可侵な綺麗さでどちらかと言うと禁欲的なシスタータイプだけど、ハーレルさんは翻弄されたくなるような色気のある綺麗さで遊女タイプなんだと思うんだ!
治っていることを証明するためか、少しだけ体を離して、ひらり、と服をめくって見せてくれる。あの時は本当に血と傷口にしか目がいっていなかったし、ハーレルさんが死んでしまうのではないか、と言う意識で一杯だった。から、気がついていなかった。
想像以上にしっかりと鍛えられている肉体には、しっかりと筋肉がついていることを表すラインが入っている。ガリガリ、と言うわけではないが、見た目から分かるようにガチムキと言うわけでもない。言うなれば細マッチョというやつだ。
滑らかな肌は、すっかり治せたらしい。けれど、うっすらと、跡が見えた。これは、と眉を寄せると、ハーレルさんが大丈夫よ、と笑う。
「本当ならこの辺一帯が傷跡になってたんだから、気にしないの」
ね?と優しく笑うハーレルさんの言葉には素直に頷けない。唇を噛んで、目線を下げる。傷を全部綺麗にできるか、なんて考えていなかったけれど、治すときに気がついていれば変わったのではないか。後悔は先に立たずとはいうけれど、取り返すことのできないものに対しては、本当に重たく心にのしかかる。
呆れたようなハーレルさんのため息が聞こえて、顔を上げる。ハーレルさんが、ニヤリ、と笑う。
「じゃあ、アタシがこの傷跡が原因で結婚できなかったら責任取ってくれる?」
「もちろん。ハーレルさんに苦労はさせないから」
その時は私のお嫁さんになって。私は本気だと伝えるようにハーレルさんの手を握って、まっすぐと顔を見つめる。整った顔はぽかん、とした表情から、じわりじわりと朱色へと染まっていく。顔を逸らしたのはハーレルさんが先だった。
「お嫁さん、とか…そこは、お婿さん、じゃぁ、ない?」
絞り出したような必死な声は、それでもいつもの調子を装うことを目指していた。いやでも責任を取るっていうのは基本的に相手に償う的な意味だと考えれば、嫁でしょう?と適当な持論を心の中だけで展開させつつ、にこりと微笑む。
ハーレルさんがこちらを見ていないのは知っているけれど、それでも、まっすぐに見つめて続けた。す、と息を吸ったらハーレルさんの肩がふるりと震えた。女子力が高すぎて辛い。
「ハーレルさんが女性であるというつもりはないし、頼り甲斐がないわけでもない。けれど、私が責任を取るのだから、私にはハーレルさんの一生を背負う責務がある。魔族で女性が大切にされているように、私がハーレルさんを大切にしたいから、そういっただけ」
「…本当に、雪白ちゃんって卑怯よね」
耳まで真っ赤にして、俯いたハーレルさんがかわいい。ついに私から手を離して両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。けれど、嫌がっているようではないから、きっと照れているだけだろう。耳まで赤いし。
しゃがんでくれたことで私よりも低い位置に来た頭にそっと手を置いた。いつかされたようにゆっくりと撫でる。サラサラの髪の毛が指をすり抜ける。髪が動いて、ふわりと甘いけれど、女性的ではない不思議な香りが広がった。香りにまで気を使っているとは流石だなぁ、と感心しながらしばらく続けていた。
「せっちゃん、」
不機嫌そうな声が響いて、せっちゃんが眉を寄せている。硬い表情をしながら、すっとハーレルさんの隣に座る。なるほど、と思いながら、反対の手でせっちゃんの青く光る黒い髪を撫でた。
逆プロポーズ(成功事例)




