閑話 05
出水雪白という存在は、面白い。
例えば、最近の様子のおかしいハーレルとマリア。この二人の様子が目に見えておかしくなったのは、僕も一緒に砦を出て、王城へときた頃だった。二人のおかしくなり方は当然異なっているのだけれど、どちらも原因が彼女にあるというのは面白い。
確かに僕がセヴィア様に連れられて医務室に行った時にすでにハーレルはなんとなくおかしくなっていた。雪白によって怪我を治されただけではなく、魔力も与えられて治療されたのだ、と後から聞いたが、それでどうしてこうなったのか。あの時は確かに僕も疲労と怪我で倒れそうになっていたけれど、視線の先で、ハーレルが彼女に迫っているように見えたのは見間違いじゃぁない。
その手を振り払って僕の方に近寄ってこようとした雪白を、医者の顔を装った婚約者の典医と軽く嫉妬混じりに僕に近づくのを止めさせたハーレル。真隣にいたセヴィア様から不穏な空気を感じて、やめてくれと強く願ったことは覚えている。
願っている間に、雪白の力を感じる。服が綺麗になって、疲労が回復した。おかげでだいぶ体が楽になって、顔を起こしたら雪白を抱きしめるハーレルと、その腕の中で心底不思議そうな顔をしていた彼女が一瞬で、己の隣に移動させられる状況。ついうわぁ、と零したのはいうまでもない。どうやら聞き咎められなかったので安心したのだけれど。
雪白は見ていないから仕方ないけれど、僕とハーレルを嬲った大きな爬虫類型のモンスターをあっさりと一撃を持って闇に葬ったセヴィア様を心配し始めた。純粋に心配そうな顔をしているあたり、本当に面白い。普段はちらりと打算が見えることもあるのに、笑う時と今回のことには全くと言っていいほどに見えない。単純に僕とハーレルの怪我が心配だったからこそ、セヴィア様のことも心配したのだろうけど。
正確にいうのであれば、僕たちをそこまで心配するのは、きっと僕たちがいなくなったらいやだ、という打算がある。けれど、僕たちのためなら命をも投げ出すような覚悟で助けられてしまえば、可愛く見えてしまっても仕方ないことなのだろう。
セヴィア様が全身全霊で可愛がるような相手に懸念する覚悟は僕にはできないなぁ…とセヴィア様に物怖じもせず、素直に甘える雪白に軽い恐怖すら覚えながら様子を見守る。セヴィア様が甘やかしている、という状況も同時に恐怖なのだけれどね。
それにしても、欲をまっすぐに向けられているのに、全く気がつかない風な雪白に感心する。そちら方面に疎いようには見えない。僕自身、女という存在は多くが恋愛に対して、それに付随する感情に関して鋭いように思っていたのだけれど。実際に雪白が鈍いとも思えずにいる。単純に、気がつかないふりをしているような感覚もない。
これでも僕はイケメンだからね、そういう女性は多く見てきた。もしくは、気がついているし、知っているけれど、必要のないものとして認識しているが故に、無視しているのかもしれないと思うほどに、彼女は向けられる欲に対して無頓着だ。その性質がより一層、周りの保護欲だったり、支配欲だったりという欲を刺激しているのだと思うけど…いつ気がつくかな。
ちなみに保護欲こじらせてるのはマリアだ。
今も目の前で落ち着かないようにウロウロしながら、雪白様は大丈夫だろうか、とかナディアは後方支援に回されているから生活も不便だろう、とか彼女のことばかり口にしている。
友人、というよりは僕と同じで妹のような感覚なのだろう。僕だって、雪白を砦の外には放って置けないと思っているし。カスト、なんて愛称を許したのも、そういう理由だ。彼女はその理由に気がついているのかはわからないけれど、カストさん、と犬のように懐いてくる。
「マリア、少しは落ち着いたら?」
「…わかっている、わかっているが。雪白様が誰かの毒牙にかかってしまったら、と思うと…」
砦には今彼女を守れるような存在がいないから、とマリアは続ける。けど、獣人の旦那になった護衛がいて、溺愛しているセヴィア様がいて、マリア自身の親族であるフィラード様も婚約者としていて、一体何が不安なのだろうか。完全に守りきれると思うけど。
雪白は大切にされているからこそ、無体なことはされないだろうし。彼女自身がそういうことを望むこともないだろうから、マリアが心配する必要もないんじゃ?とは思うけど、言ったら怒られるだろうしな。
「毒牙ってひどい言い草だね」
「私が目を光らせていたのに、目の前でハーレルが陥落した場面に立ち会ったのですよ」
「ハーレルの従兄弟のクレインスだって一目で陥落したって言ってなかった?」
「それより症状が重いに決まっているでしょう」
不機嫌そうなマリアは、腕を組んで不満そうに鼻を鳴らす。症状が重い、ねえ。
「クレインスは外見における一目惚れです。でも、ハーレルは中身を知った上での陥落ですよ」
「なるほどねぇ…で?その噂のハーレルはどうしたの?」
「従兄弟と腹を割って話してくると出て行きました」
どうせ、雪白様のことでしょう。そう不機嫌そうに続けたマリアに苦笑する。昔から、気をぬくと表情に全て出てしまう彼女が可愛らしい。とはいえ、ハーレルは此処にしばらく来ない、ということだろうか。それならば。
「マリア」
「…なんですか?」
うろうろし続けるマリアに声をかけて、手を伸ばす。不思議そうに僕の手を取ったマリアをぐっと引き寄せて、膝の上に座らせる。マリアの方が大きいから結構悔しいのだけど、僕はまだこれから成長する予定だからいいのだ。
一瞬で顔を赤くしたマリアが僕に目を向けてから、慌てたように体を起こそうと必死だ。僕の方が力が強いのに、可愛い。
「そのドレスすごくよく似合ってるよ」
「…城にいると王女として振舞わなくてはならないから嫌いです」
「そう?僕はお姫様なマリアも好きだよ?こうやって口説いても仕事中だからって振り払われることもないし」
ニッコリ、整っていると自覚している顔に目を細める。うっと息を詰めて不器用に視線をそらすマリア。普段とは異なって邪魔なモノクルも外してドレスを纏っている彼女にそっと唇を寄せた。
顔を真っ赤にする僕の婚約者は、本当に可愛い。そんな彼女が妹のように気にいる雪白を僕が嫌う道理もないけれど、きっとこれからも話題に欠かないだろうから、本当に雪白は面白い。
実はここがワンセット
マリアさんの口調はお姫様使用




