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邪魔、と言うのはやはり、恋愛恋愛的な意味での邪魔だろうか。そんな艶っぽい雰囲気あった?私には残念ながらわからないのだけれど、彼らは何か感じたのかもしれない。当事者がわからないことってよくあるよね。よくわからないなぁと肩をすくめながら、せっちゃんに視線を向けて、後悔した。
無表情のその顔に、さらに視線が絶対零度レベルの冷たさでフィラード様を射抜いていた。その視線が向けられたのは私じゃないのに、体の動きを止めてしまうほどの衝撃を受ける。悲鳴を必死に飲み込んで、ぐっと黙り込んだ。ええと…これはどうしたらいいのだろうか。
せっちゃん、と呼びかけられるほどの勇気は私にはない。迫力のある顔立ちがより一層、私の心臓を縮める。ついでに胃も痛くなってきた気がする。チリチリするから是非ともやめてほしい。
でもこれこのまま何も言わなかったら、確実にいろんな問題が起きるよね、怖いですやめてください。
と、なれば私が話しかけるのは、私同様震えている怪我人たちしかいない。わかる。せっちゃん怖いよね、しかもそんな相手に対して平然とニコニコしてるフィラード様も同じくらい怖いよね。
「フィラード様に“魔眼”について教えてもらってたんですけど、皆さんは知ってます?」
「“魔眼”…?!」
ザワッとした。空気を和ませようとしたのに、なんでだろうか、私からも距離を置かれた気がする。不思議な顔でせっちゃんを見上げた。拍子抜けしたような顔をしたせっちゃんに、先ほどまでの険はない。小さく息をついて、軽く胃のあたりに手を置いた。消化不良起こしそう。
「魔眼の話をしていたのか?」
「うん。フィラード様が目をじっくり見させてくれたの。夜空のお星様みたいにキラキラしてたよ」
本物の星空は見たことないけど。私が続けた言葉に、なぜか怪我人の皆さんが顔面を蒼白にした。なんで?と思ったけど、私の設定知らなかったら、めちゃくちゃ重い過去をさらっと言っちゃった人みたいな状況ですよね、わかります。監禁か軟禁されてた人くらいじゃないだろうか、夜期に全く外に出られなかった人…見ることさえできなかった人、とか、絶対にまずい。完全に窓もない地下とかに幽閉されてる。
そこに気がついたが、もうすでにそれを訂正できるタイミングではない。彼らは悲しげな目で私を見てからそっと視線を逸らしていた。ああああ、これは私にありもしない暗い過去が生えた。設定は生えるものだとよく言っていたが、まさか本当に生えて出てくるとは。
現実逃避をしていれば、目の前にずいっと深い金色が現れた。
「では、私の瞳はなんだろうか?」
せっちゃんがウキウキした様子で私の顔を覗き込んでいた。赤の混じった深い金の瞳は、どこまでも理知的だ。何もかもを見透かしてしまいそうなほどに澄んでいる印象を受ける。白目の部分は透き通って青みを帯びていた。じっと覗き込むと、虹彩がちらり、と見える。複雑な網目模様のような、幾何学的な組み合わせのような。キラキラと輝くその瞳に、私が思うことは。
「んー…命?」
「命…?」
「金色だけど、太陽とか、月とかじゃないし…複雑で、とっても綺麗なものだから」
魔力かな、とも思ったけど、それよりも命そのものかなと思って?疑問符をつけて返せばせっちゃんは嬉しそうに笑う。そうか、とだけ答えたせっちゃんは私に手を差し出した。大きな掌に私の手を乗せる。すっぽりと私の手を覆い隠せてしまうだろうサイズの差だ。長細くて、それでも節だっている男の人らしいけれど綺麗な指。指先まで整っているなんて、せっちゃんは卑怯だなぁ。
ここで私がせっちゃんの人差し指だけ握ったりしたら、子供が迷子にならないように大人の指を握っているような、そんな見た目になりそうだ。言い過ぎかな。私の手は別にそこまでプニプニムチムチもしてないから、小学生低学年と大人くらいの見た目だろうか。せめて中学年から高学年になりたい。
満足げなせっちゃんに腕を引かれてそのまま移動を始める。お?と思わず声を漏らした。今までこんなに強引な感じで私を引っ張ったことはなかったような気がする。移動魔法による強制移転はなかったわけではないけれど、それは結構な近距離での強制だった。
今回はフィラード様に今日のお礼も言ってないし、何より私が着替えていない。ロココ調ドレスのままだ。やめてほしい。これならハーレルさんの買ってくれたロリィタの方が断然いい。正直ゴスロリは結構好きだ。通常のロリィタは可愛い子向けの印象が強すぎて私に似合わないだろうな、と判断してしまうから。一番はゴシックパンクだ。スチームパンクも好きだったな。
慌てて振り返って、フィラード様を見た。医務室からほとんど出たあたりから、怪我人の治療のために準備を始めている様子が見えた。
「フィラード様、今日もありがとうございました!」
「…いえ、構いませんよ。また明日お待ちしていますね、雪白さん」
手を止めて、ヒラリヒラリと手を振ってくれた。手を振り返してから足が縺れないように、せっちゃんを追いかける。そのまま連れて行かれるのは、多分せっちゃんの部屋だろう。
ならば、歩いている間に少し話でもしようじゃないか。せっちゃんから怖い雰囲気も無くなったし、それくらいなら付き合ってくれるだろう。
「せっちゃん、モンスターはどう?」
「コンスタントに送られてきてはいるみたいだ」
今日も1体倒した。そう何事も内容に告げたせっちゃんに怪我はないかと声を荒げた。大丈夫だ、と笑って足を止めながら、私の頭を撫でるせっちゃん。安心させようとしてくれているのだろう。子供扱いのように身も見えるが、やはり体温というのは落ち着くものだ。甘んじて受け入れて、せっちゃんの顔を見た。嘘はないらしい。
移動を再開させたせっちゃんは、それでも少しだけ難しい顔をした。何か問題があるのかもしれない、と眉を寄せて横顔を見る。せっちゃんは私を見つめて、苦笑した。
「心配するな。問題はない」
「うん…怪我しないでね?」
「ああ」
当然だと自信満々に笑うせっちゃんは、多分、本当に問題ないのだろう。けれど、砦の面々はどうだろうか。グラジリオスは、大丈夫だろうか。最近顔を合わせていないので少しばかり心配になる。それから、王都に行ったマリアさんたちも、王都に滞在しているだろうヴィクトール様とクレイ様も…砦にいる魔族よりは安全だとわかっているけれど、それでも、なんとなく気にかかってしまうのだ。
悲劇のヒロイン(笑)




