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「せっちゃん、次だ」
声がかけられて、そちらを見れば、上品な動きで手招きをする次期魔王せっちゃん。何が何が嬉しいのか、ほら、早くと子供のように跳ねている。
ワイルド系のイケメンが可愛らしく見えるのを、微笑ましいと取るべきか、ギャップと取るべきか。…このまま放ってしばらく様子を見ていてもいいのだが、マリアさんに、では砦の案内がすべて終わりましたらお声がけください、と言われたので仕方なしに動く。
砦の中は理解しておかないと問題だろうから、と心の中で誰にでもなく言い訳をした。腕を引かれるがままに歩くが、どうやらマリアさんもハーレルさんも、金髪イケメンもついてこないようで、その場で止まっている。軽く頭を下げて、次期魔王様についていく。
砦はどうやら地上3階地下1階建で、地下は食料庫と倉庫になっていた。倉庫番や食糧庫番の人たちがいるから、何か必要なものがあれば彼らに話せばいいらしい。
一様に獣の瞳をしている彼らが、ニコニコと私に好意的に接してくれるのは、多分私が魔族だからなのだろう。神様から聞いた話だと、魔族と人族は対立しているらしいから、私が人のままであったなら、この高待遇はない。
その辺は神様が調整してくれたのだろうから、万が一人間のままだったら人間の近くに配置してくれたのだと信じている。
一つ疑問なのは、私の部屋と案内されたのが3階だったのだが、どうして行ったり来たりするような説明になったのか。3階に行ったなら上から順に案内してくれればいいのに、と心の中でぼやきながら1階を案内してもらう。
1階は基本的に広間のようになっており、あと医療室や食堂、武器庫なんかがあった。あと小さめの会議室っぽいところも。
「せっちゃんはどんな食事を好むんだ?」
「比較的子供味覚ですかね」
食堂での会話だったが、本当にそろそろせっちゃん呼びやめて欲しい。ひっくいイケメンな声でせっちゃんとか呼ばれてるとなんかむず痒いような違和感があって辛い。しかもその声が楽しそうに弾んでるとよりこう…ね?
チラリ、と次期魔王を見れば、こちらにまっすぐと視線を向けている。無表情っぽいのだが、目が雄弁に語っている。聞いて欲しい、と。
「…せっちゃんは、どうですか?」
「私か?私は甘いものが好きだ」
「いいですねぇ、甘いものは私も好きですよ」
「そうか!」
うわぁ嬉しそう。周りの人は甘いもの苦手なんだろうか?それなら初めてのお仲間でテンションが抑えきれない可能性もある。
わかるわー、好きなものが分かち合える人と会えると異常に興奮するよね。そう思うと、少しぐらいせっちゃんと甘いもの同盟を組むのはアリだ。
「2階は執務室や資料室、それぞれの研究室のようなものがある。見てもつまらないから、上に行こう」
「え、あ…覚えておかなくてもいいんですか?」
「必要なら、私が案内する」
至極あっさりと言い切って、私の手首を掴んでもう一度3階へと戻る。身長も高いが、股下も長い次期魔王は一歩がかなり大きい。小走りになりながらもついていけば、私の部屋として案内された部屋の隣。
豪華絢爛な扉を押し開くと、そこにはゴシック調だが、落ち着いた空間が広がっていた。椅子なんかのサイズが一回りずつ私の部屋のものより大きい気がする。
「ここが私の部屋だ」
「…せっちゃんの」
これはきっとドヤ顔に分類されるに違いない表情で、彼は私を座り心地の良さそうなソファーに案内してくれた。と、マリアさんがどこからともなく紅茶を持ってきてくれる。
一緒に持っているのはクッキーで、ふわりと甘い香りが漂った。その香りでお腹が空いているのを自覚する。
机の上に置かれた皿とティーカップにマリアさんへ感謝を告げた。ふ、と目の前の次期魔王が硬い表情でこちらを見つめている。
「どうしましたか?」
「せっちゃん」
続きを促すために軽く首をかしげた。彼は何度か深呼吸をしてから、真剣な目で私を見る。
「友達に、なってもらえないだろうか」
権力ゆえに友達がいないパターンだったらしい。と、いうことは、私の存在にあんなにウキウキしていたのは、友達ができるかもしれないという期待感からか。嬉しそうなのも、楽しそうなのも、同じせっちゃんという友達ができることが彼の精神を高揚させていたと考えれば理解できる。初対面の私にあれほどの好待遇を与えたのも、きっとその感情からだ。
なるほど、確かにそれは理にかなっているかもしれない。
どうせ私は性別:出水と認識されていることが多いから、男女ともに友人はいた。男女間に友情は生まれない?そうかもしれない。だが、男と出水の間には友情は成立するのだ。
ここまでの行動で彼に対して悪感情を抱いてはいないし、甘い物好きと言う共有点もあるのならば…。
「とりあえず、せっちゃん同盟で様子を見ましょう」
友達もいいとは思うのだが、残念ながら、周りの人たちの反応があまりよろしくない場合もある。
と言うか、彼に手を掴まれて歩き回っていた砦の中で、基本的には好意的に受け入れられたのだが、たまに警戒に近い感覚を感じたのだ。表立っていないからこそ、下手なことはするべきではない。
友達はちょっと心配、ならば不思議な感じで友達っぽい関係を作っておけばいいのだ。友達でもない。だからと言って上司と部下や、他人でもない。そんなくらいの距離で問題がなければ、きっと警戒も解けるだろう。
「せっちゃん、同盟…!」
目がキラッキラしてる。少女漫画なんて目じゃないくらいに眩しい。眩しすぎるので、目をそらして、紅茶を手に取る。
ゆっくりと紅茶を口に運ぶ。正直紅茶の違いが感じられるような上品さは私にはない。が、美味しいことには間違いはない。
美味しいです、ありがとうございます、とマリアさんを見上げれば、彼女は満足そうに頷いた。
私の動きを真似するように紅茶に手を伸ばしたせっちゃんは、私と違い優雅に上品に口元へお茶を運ぶ。そして、マリアさんへの反応はもっと知識の詰まったーー具体的にいえば、産地の話や淹れ方の話だーーをして、伺うようにこちらを見た。
何を返せばいいのかわからないので、笑って誤魔化す。少しだけ残念そうな色を浮かべた瞳に、何を返すべきだったのか、と考えてから…わからないと諦めた。そして、あ、と気がつく。
「これから、お世話になります、せっちゃん」
「任せてくれ、せっちゃん」
次期魔王




