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あっこれ拘束だった。私が逃げないように捕まえておくための動きだった!やっぱり色気のかけらもなかった!なんて一人で慌てる。私が慌てれば慌てるだけ、せっちゃんの疑わしげな視線が強さを増す。せっちゃんには視線を物理攻撃にするスキルでもあるのだろうか、痛みを感じる気がする。あ、精神的ダメージか、物理じゃないな。
「えーっと…ハーレルさんの傷を治した…?」
「ほお…それにしてはハーレルの魔力が一気に回復した気がするが」
「わっ、かるの…?」
ちょっと焦った反応をしてしまった。まずった、と体を固めてしまってから、これはダメな反応だったと後悔する。もっと平然としておけばよかったのに。これでは完全に悪いことをしていたと白状しているようなものではないか。私の思考がダダ漏れになっているのかもしれない、恐る恐る見上げたせっちゃんの顔は非常ににこやかだった。今なら怒らないから正直に言いなさいと言われているような気さえする。そんなお母さんとか先生みたいな反応されても…。
「配下の魔族であればわかる、そういうスキルがある」
「へえ、そうなんだ」
「…で?」
にっこり。似合わない爽やかな顔に、恐怖が煽られる。これは絶対にまずいことになっている。素直に謝らないといけないやつだ。
「回復魔法だけだと、魔力が回復しないと思ったから。ハーレルさん死んじゃったらやだもん。ごめんなさい」
とってつけたような謝罪だったが、許してくれるだろうか。ちらりと伺うようにその顔を見る。どことなく硬い顔ではあるが、それでも怒りに満ちている顔ではない。多分今なら怒らないから、が本当に怒らないでいてくれる感じのようだ。
いや、確かに怒られても、また同じことになったら同じ行動するだろうし、悪いことをした認識はないし、ハーレルさんじゃなくてもせっちゃんでもカストさんでもマリアさんでも同じことするだろうから。あと今振り返っても完全にテンパってたから、冷静な対応とか求められてもね。
せっちゃんが色っぽくため息を吐いて、髪をかきあげる。おおお、すごいイケメンだ。いや元々イケメンなんだけど、なんていうのだろうか、イケメンの真価が発揮されていた気がする。恋愛感情が枯れきってる私でさえちょっとドキッとするようなイケメン具合だった。イケメンっていい過ぎてゲシュタルト崩壊してきた。
せっちゃんは黙り込んでから、私の頭をゆっくり撫でた。それから、先ほどの呆れた様子や少し怒った顔をあっさりとなくして、優しく微笑みを浮かべている。先ほどのにこやかな顔とは違う自然なものに見えた。
「せっちゃんが魔力不足になるとは思えないが、気をつけてくれ。それから、ありがとう」
ハーレルを助けてくれて。そう続けたせっちゃんに、コクリと頷いておく。なんだか、お礼を言われると非を認めなかったことが突然悪いことに思えるから不思議だ。それでも私の行動は変わらないけれど、なんとなく手を伸ばしてぎゅうと服を掴む。慰めて欲しいわけではないけれど…許しを請いたい気分ではある。そんな私に気がついているのか、先ほどよりも強めに頭が撫でられた。
甘やかされてるなぁ、となんともくすぐったい気分になるが、甘やかしてもらうだけの価値がある…というのは語弊があるかもしれないけれど、そう行動してもらえるだけの何かが私にあると思うと嬉しい気持ちになる。さらにその気持ちを裏切らないでいたいと自分を戒めることもできる。
「モンスターはもう大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。とはいえ…少し様子がおかしかったな」
「モンスターの?」
私の疑問に頷いて答えて、せっちゃんは厳しい顔つきになる。モンスターがおかしいとはどういうことなのだろうか、と首を傾げていたのだが、他の人たちにはわかっているらしい。ハーレルさんとカストさんは実際に見ているからこそ理解しているのだろう、神妙な顔で頷いているし、マリアさんとフィラード様、グラジリオスまでも納得したように頷いていた。
何か前兆のようなものがあったのかもしれない。モンスターアラートさえ初めて知った私には知りようのないことだろうけれど、なんとなく寂しい気持ちになる。けれど、そんなことを表に出す必要もないので、彼らの様子を見る。
フィラード様が、眉をよせて唇を噛んだ。
「人間が、モンスターの兵器化に手を出したと聞くけれど…それだね?」
「だろうな。ハーレルとカスティーリャ、護衛としてマリアは王都へ向かえ。今回のことをダリアに報告しろ」
「それほどまでですか…?」
マリアさんの言葉に、せっちゃんは重々しく頷く。せっちゃんが報告に行かない、ということは、万一モンスターが現れたらその対処をせっちゃんがする、ということなのだろうか。それくらいの強さがあった、ということなのだと思うのだけれど…私はせっちゃんの強さがおかしいということだけは理解していて、ハーレルさんとカストさんがどれくらい強いのかはわからない。ハーレルさんとカストさんを足してもせっちゃんに勝てないの?
しかもその二人がかりでも今回のモンスターには残念ながら勝てなかった、ということ?しかもそのモンスターは人間が行ったモンスターの兵器化で生まれたもので、決して自然のものではなくて…多分その兵器化に手を出した理由は魔族を倒すため?
「せっちゃん、頼みがあるのだが…」
「なに?」
「お弁当の効果を防御方面に変更と、それ以外の時間はフィラードと共に医務室にいて欲しい」
「ん、わかった。ナディアは?」
「ナディアは後方の守りだ。グラジリオスは私と共に見回りに入ってもらう」
つまり、私はお弁当作りでみんなを守って、あとは医務室でフィラード様に守ってもらえと。多分お願いすれば回復役としても使ってもらえるだろうし、というか私自身怪我人見たら普通に手を出しそうだ。それをわかっているらしいせっちゃんは、無理はしないようにとだけ言ってくれた。
正直なところ、ここを帰る場所と認識してしまったので、ここに関わっている人が怪我をしてたら、ハーレルさんほどではないけれど多分テンパる。顔見知りだとよりいっそう心配になるんだろうなぁ、とはわかっている。
ごめんね、と苦笑したら、気にするなとせっちゃんが笑ってくれた。
クリスマスイブなのに恋愛のれの字も見あたらない




