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歩いて行ける距離だというせっちゃんーーセヴィアのキラキラした目に負けたーーに案内してもらって、砦に到着した。
木で出来た柵…というよりも防壁に近いのだろうか、高いそれを抜けると、木と石で出来た砦がある。ツノがあったり、羽が生えていたり、様々な人がいるが、全員目が肉食獣の目だったので、やはりこの目が魔族の特徴なのだろう。
と、いうことは、私の目もこうなっているはずだ。色は黒のままなのだろうか?髪は染めていた明るめの茶色のままのようだが、如何せん結構なショートヘアなので、鏡がないとよくわからない。
「せっちゃん、こっちだ」
次期魔王は私を呼び寄せ、豪華な扉をゆっくりと押し開く。せっちゃんの部屋だろうか、と覗き込む。天蓋付きのベッドに猫足の家具、毛足の長いカーペットはそのまま上に座っても気持ちよさそうだ。せっちゃんの部屋にしては白と桃色で非常に女の子らしいこととキラキラと可愛らしい化粧品の乗ったドレッサーのある部屋なことが問題だろうか。
「ここを使うといい」
「え、」
「来る途中でハーレルに用意させた、どうだろうか?」
え、どうって何、気に入ったかってこと?雪白なのにゆきちゃんと呼ばれずに、せっちゃんとか呼ばれてた私に?いや、可愛いのは嫌いじゃないけれど…似合う似合わないの問題があるから。
とはいえ、わざわざ用意してくれたというし、ちょっとだけ話を聞いてからにしよう。
「あの…この広さって、普通です?もう少し狭い部屋があったら…」
「主神の寵愛を受けている相手を下手な部屋に泊まらせるわけないじゃん?」
心底不思議そうに金髪のイケメンーーカスティーリャというらしいが、国名ではなかっただろうか?ーーがいう。なるほどそういうものなのか、と無理やり自分を納得させて、せっちゃんに笑う。
「とっても可愛くて素敵な部屋だと思います。本当に、使ってもいいのですか?」
「ああ、化粧品なども全部ハーレルが新品を買ってきたらしい」
「わざわざ…ありがとうございます。ハーレルさんにも、お伝えください」
うむ、と満足そうに頷いたせっちゃんはハーレルを呼ぼう、と指を鳴らした。…そんなんで来るの?なんて思っていれば、現れたのは、高い位置のポニーテールを揺らす美人。…胸元の開いたセクシーな服を着ているが、どうやら男性のようで、固そうな胸筋がチラチラとチラリズムで視線を誘う。
ただ、ニコニコと美人な顔に似合わず人懐こい笑みを浮かべている。身長については、結構大きい気がするが、足元に履いているヒールのせいかもしれない。
大きな身を少しかがめて、彼は片手を差し出した。
「初めまして、アタシがハーレルよ」
「雪白です。素敵なお部屋を用意してくださってありがとうございます」
丁寧に頭を下げてから、その手を取る。大きな掌は私の手をすっぽりと覆い隠したのと、感じる力強さからきっと男性だろうとは判断できる。
性別:ハーレルさん、扱いでいいか、と自分の中で納得してにこりと笑顔をむけた。
「あの、化粧品についてとかお伺いしてもいいですか?」
「もちろん!嬉しいわぁ」
そんな話できる人いなかったもの、と可愛らしく微笑むその顔にへらりと笑う。ごめん、私女子力低い。
ハーレルさんが私の手を引っ張って部屋の中に入る。すぐに置いてある物を場所と使い方を含めて説明してくれた。
どうやら魔法のある世界だからか、電力の代わりに魔力を使うらしい。有り余り気味な私は有り余った部分を勝手に放出しているので、触るだけでも勝手にどうにかしてくれるそうだ。だが、魔法を使った後など、放出していないときは意識を集中して魔力を流し込む必要があるので注意するようにと言われた。
他にも化粧品やケア用品…この辺りは美の追求スキルが働いたのか、ハーレルさんと話が弾んだ。やばい、私の女子力上昇してる…!すごい!
服については、後で一緒に買いに行きましょう、とルンルンと語尾が跳ねる感じで言われたので、こくりと頷く。
美の追求スキルで外見もプラスされてるってあったから、きっと服を見るのも楽しいのだと信じている。ドレッサーの鏡はまだ見ていないので、もうしばらく見ないでおこうと思う。
ハーレルさんと約束をしている間に、せっちゃんと金髪イケメンにもう一人、片眼鏡をかけた執事然としたこれまたイケメンが混ざっていた。
…が、よくよく見ると胸元に膨らみがある。
金髪イケメンよりも背の高い女性、なのだろうか?不思議に思いながらもその人をじっと見てみる。
にこりともしないまま、キビキビとした動きで近づいて来た。私の手をすっととって、まっすぐに確かめるような視線を受ける。
「ステータスを見ても?」
「あ、はい」
あの大雑把さでもいいのだろうか、と目をそらしながらもステータスを開く。じっとステータスに視線を落とす彼女の様子を伺う。
先ほどの声はソプラノに近いアルトだったので、多分女性だろうと判断しているのだが、彼女も性別:執事さんでいいだろうか。
「これは…また」
しみじみとつぶやくようにしてから、穏やかな顔を私へと向けた。
「素晴らしい」
「え、なになに、マリア、僕たちにも教えてよ」
金髪イケメンが彼女の肩に触る。さっとそれを払い落として、マリアさんは不機嫌そうに、触らないでいただけますか、と眉をひそめた。が、すぐに表情を穏やかなものへと戻して、私をみる。
「お頼みしたいことがあるのですが…よろしいですか?」
タダで何もせずお世話になるのも心苦しいところだし、私にできることなら、と頷く。
スキルを見ていたことを考えると、美とか健康系だろうか?それとも料理系かもしれない。
嬉しそうに一度頷いたマリアさんは、では!と私にお弁当作りと『いつでも美味しく』による時間・空間停止を求め、ついでと言わんばかりに『知恵袋』で天気予報もしてくれまいか、と真剣な顔になる。
どうやらこの砦は、先ほどいた森に城を立てるための一時的な滞在場所とされているらしい。
作業の際にお弁当があれば、わざわざここへは戻ってこなくていいし、天気がわかれば予定も立てやすい。
なんて思っていたのだが、一緒に私のステータスを覗き込んでいた金髪イケメンとハーレルさんが、『中二病』持ってるなんて、と悲鳴混じりに怯えていたのが気になった。
…黒歴史でもあるのかな?
中二病と黒歴史




