3−11
私はしばらく思考の渦に飲み込まれていたのだが、その間全くなんの反応もなかった。だから気がつかなかったという意見は暴論と言われてしまうかもしれない。が、ハッと気がついたときに正面のグラジリオスさんが立ち尽くしていたことに関しては私は悪くないと言いたい。知らずのうちに首を傾げてしまってから、私は何かおかしな発言をしただろうかと考える。
茫然自失としてしまうような、そんな発言があっただろうか。…いや、考え方によっては人でなしな発言はしたか。婚姻関係を結ぶかもしれない相手に向かって、君の好きでいいよ、である。ハーレムの主持ちだからこそ、この発言は本来ダメなやつでは…?君が良ければ、僕のハーレムに入っておいでっていう誘い受けなチーレム主人公となんら変わりないではないか。ハーレム主人公になりたくないとか言ってるのに、それではいけない。いくら覚醒への道がどんどん近くなっていても投げやりになってしまっては意味がないのだ。
首を傾げたまま、グラジリオスさんの目の前に近づいて軽く手を振る。大丈夫ー?見えてるー?ってやつ。ひらひらと動く私の手に意識を取り戻したのか、彼は弾かれたように私を見て、挙動不審な動きをしてから口を噤んで、それから灰色がかった青い目を潤ませた。
「ありがとう、ございます…!」
「別に、私にメリットはあってもデメリットはないですし。むしろグラジリオスさんこそちゃんと考えてます?」
ちなみにメリットの一番高い位置にくるのは婚姻関係もあり、確実にグラジリオスさんが私を守ってくれる、ということだ。確かにせっちゃんからの命令でも動いてくれているが、それはせっちゃんありきの行動だ。せっちゃんが私ではない誰かを守りたいと思ったときに一番使いやすいだろう文武両道の隷兵はこの獣人以外出てくるとは思えない。故に、ただ命令で守られているだけでは護衛対象を変更されてしまうかもしれない。でも、婚姻関係を結んでおけば、私にだってせっちゃんへ意見できる権利を得られる。
魔族はかなり女性が大切にされている種族だし、異種族同士では子供ができないとはいえ、無下にはされないはずだ。しかも、地位のある婚約者を差し置いて最初の旦那様となれば、対外的にも手放さない理由へと変わる。
他にも私が未成年であったとしても、成人と変わりないものとしてーーもちろん、成人するわけではないので、ヴィクトール様とクレイ様との云々はまだ置いておいて問題ないーーある程度の権利が認められるようになるだとか、相手がいるので万が一これから舞踏会的なものに出ることになっても全力で拒否できるだとか、むしろ彼が獣人であるからこそ、そういう誘い自体が減るとか。まあ色々こちらのメリットが多いのだ。もともと貴族には嫌われているから、貴族から距離を置かれるとかなんの関係もないし、むしろ願ったり叶ったりだ。
私の考えなどきっとグラジリオスさんにはお見通しだろう。彼は貴族社会にも精通していると言っていたし、真っ正面から利用するよ?って内容を言ったのは私だけども。それでも彼の決意的なサムシングは変わらないらしい。キラキラと輝くような瞳で、こちらへ視線を向けたまま…、突然膝をついて頭を下げた。
「雪白様、俺の命をあなたのために」
重い、なんという重い発言。だが、騎士っていうのはそういうものだって言ってたし、拒否するのは私の言った発言をひっくり返してしまうようなあってはならない発言だろう。と、いうわけで受け取るしかないわけではあるが、それでもやっぱり命を捧げられれば抵抗はある。物語のお姫様のようにならば必ず生きて私と共にいてくださいとか言えるほど、彼のことを知っているわけでもないし、まだ大切にも思っていない。
そうなると、私の答えられることは一つ。一体何かと言えば、お友達から始めましょうの発展系。
「ありがとう。これからもっとグラジリオスさんのこと、色々教えてくれる?」
「はい」
笑顔が、甘い…だと。獣の顔でもそうとわかる綺麗な笑みは衝撃的であった。幸せそうな顔で笑う理由がわからなくて、本当に彼に後悔はないのだろうと表情からは受け取れるのだが、彼はいいのかと少しばかり不安になる。主人にはポジティブな感情しか向けられないとかいう変な制約があるのではないかという突拍子も無いような考えが浮かんでしまう。
ふと思い立って、お願いしてみることにした。ちょうど手元にあることだし、と、できうる限り可愛らしくにこり、と。
「あの、ステータスって見せてもらえる?私のも見てもらって構わないから」
「かしこまりました」
とろり、と幸福感に満ちた瞳で頷いたグラジリオスさんはすぐに頷いて、ステータスを開いて私へと見せてくれる。ならば、と私も開いて返してから、目に魔力を集中させてじっと見つめた。
基本ステータス
名前 グラジリオス=ガンテック=ルティーネ=ルーオルー=ティガ(隷兵、護衛、獣人、グラジリオスさん)
種族 獣人
種属 虎族
年齢 37
等級 80/100
体力 1M/1M(おおよそ)
魔力 300/300
称号 奴隷・隷兵/獣人の元貴族/文武両道/夢を叶えたもの/雪白の騎士(伴侶)
詳細
殺人 あり、基準には足りていない
暴行 あり、基準には足りていない
淫行 あり、基準を満たしていない
暴食 なし、基準を満たしている
睡眠 良好、基準を満たしている
問題 解決済み
好み 姫
攻略 済
覚醒 武力行使 あと5回
能力行使 あと10回
愛情表現 あと10回 が必要です
覚醒させますか?(必要数に足りていないので失敗する可能性があります)
YES NO
…メガ(おおよそ)ってもうなんか私今度から体力と魔力見るの諦めようかな。とりあえず、せっちゃんは魔王って存在で、魔王って存在はケタ違いだっていうことは把握した。あと初めて攻略済になっている相手を見てしまった。
婚姻関係になったら攻略完了ってか?色々と無茶な気もするが、そういえば乙女ゲーとギャルゲーの違いっていう話を日本にいたときに聞いたなぁ。乙女ゲーは告白がエンディングで、ギャルゲーは告白がスタートって。ギャルゲーはほとんどしたことがなかったから、本当だったのかわからないけれど。私のステータスは乙女ゲー仕様ということでいいだろうか。問題を解決していくっていうのも乙女ゲーっぽい。
そうすると私は女主人公なのか。お助けキャラはナディアとマリアさんだろうか、だったら、むしろ友情エンドでお願いしたい。
さて、現実逃避はこの辺で、称号の確認をしてみようかな。
私たち結婚しました




