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曖昧どころか、程度が統一されてすらいないステータスに小さくため息をついた。アイテム欄を見るが、当然何も持っていない。装備に至っては、武具・防具は装備できない、と表示されて終わりだ。まじかよ。
とはいえ、ここでずっと立ち尽くしているわけにもいかない。
スキルに突っ込みたいことは色々あるが、これがこの世界の基準の可能性だってあるのだ。そう言うものなのだと受け入れてしまった方がいい。
よくわからないけれど、神様が残っていた寿命を使って、ラッキーにしてくれたようだから適当に歩いてもなんとかなるのだと信じよう。
「とはいえ、どうしようか」
どちらが森の奥へと進むのかさえわからない。
音としては無音というわけではないが、どこからも同じような音しか聞こえてこないので進むべき方向も見当がつかない状態だ。
…向いている方に進もう。
緑溢れる森を歩く経験なんてほとんどなかったけれど、体力が全快状態だからだろうか、それとも、森とはいえ整備されたように広い道だからだろうか、疲れそうにない。調子に乗って歩き回ってしまいそうだ。
キョロキョロと違いも見分けられない木をただ眺めながら、歩く。何を考えるのもうまくいかない気がして、頭も心も空っぽにして。
「〜〜〜〜ぇ!待てって!!」
ドップラー効果で、しかし、想像以上の速さで近づいてきた声とともに、近くの茂みから大きすぎるサイズの狼的な何かが飛び出してきた。
ギョッとして動きを止める。青みがかった黒い狼的なそれは、体高が私よりも大きい。だいたい2m弱くらいだろうか。
体長で言ったら5mとか行くんじゃないだろうか、知らないけど。
グルル、と今にも唸りだしそうな大きな口と、鮮やかな金の目、そして極め付けに額らしきところからはバランスの悪い複数のツノ。
あ、これ、死んだ?
と思ったのは一瞬で、目の前の大きな狼は淡い光に包まれたかと思えば、体高ほどの成人男性に変わった。服を着ているかまず確認した私は悪くない。
額から生えているバランスの悪いツノはそのまま縮小されているようで、向かい合って左側…彼からすれば右側に3つ。中央よりに生えているものが一番長くーー男性の顔と同じくらいでーー手前に反るようにしてツノの先は後ろの方にある。隣のーーツノ的には真ん中のーーツノは、同様に全体的に反っているのだが、同時にねじれてもいた。そして最後のツノは、ゆったりとねじれながら他の2本とは異なり側頭部を守るように後ろへと。
重くないのだろうかと思ってしまうほどに特徴的なそのツノから視線を逸らし、男性へと目を向ける。
目の色は先ほどと同じ鮮やかな金…赤みが強いのだろうか、深い色に思える。髪の色は青みがかった黒。そして、ワイルドさと冷たさを感じるようなイケメン。体型はなかなかにガッシリしているようで、ゆったりとした服の上からでも鍛えられているのが見てとれる。
私がじっと見ているのに対するように、彼もこちらをじっと見つめていた。目を合わせると、その瞳が先ほどの狼のままだとわかる。もしかしたら、彼の種族の特徴がああいう瞳、なのかもしれない。
「やっと追いついた!…って何してんの?」
今度はキラキラと輝く金髪のイケメンである。目の色がかなり明るい水色で…狼のような瞳なのを見て、やっぱり種族的な特徴かもしれない、と思う。獣人だろうか、それとも魔族だろうか。もしかしたら、人間かもしれない。
勇者になった少年の目はそのままであったから、彼とは別の種族なのは確実だ。
金髪のイケメンを見ていたら、視界の中で狼なイケメンが動く。私に近づいてきたかと思えば、少しだけ笑って告げた。
「セヴィア・レ・グリッター…次期魔王だ」
「…え」
「何でのんきに自己紹介?!」
金髪のイケメンが叫ぶ。かわいそうに振り回されるタイプなのか。見た目ちょっと王子系腹黒キャラっぽいのに。
あと次期魔王様は天然系なのだろうか。首を傾げていれば、目の前の次期魔王様が、もう一度同じセリフを繰り返した。
「…雪白。あだ名はせっちゃん」
苗字が先か、名前が先か、わからなければ名乗らなければいいのだ。
ちなみに、“せっちゃん”は、ただただ私が雪白なんていう女の子的な名前が似合わない暴力的な少女だった頃、「雪とか可愛こぶるなよ、お前はどっちかって言ったら雪だろ」なんていう心無い友人(男)の一言によって生まれたあだ名だ。私自身、まあ確かに、なんて思ってしまったから一瞬にして浸透したのだけど。
私の返答に満足したのか、一度頷いた彼は、パチリとゆっくり瞬きをしてーーフサフサで長い睫毛だと気がついて羨ましく思ったーーから、自分を指差した。
「なら、私もせっちゃん、なのだろうか」
「…可能性は、あるんじゃないでしょうか」
なんとも答えにくかったが、とりあえず頷いておく。セヴィアの方が名前なのであれば、間違っていないだろうし。せっちゃんって顔じゃないけど。…せっちゃんって顔じゃないけど。
私の心の内など知らないのだろう、次期魔王は、私を見つめて告げる。
「せっちゃん。どうしてこんなところに?ここは、私の城を作るための敷地なのだが」
似合わない。この顔で、せっちゃん発言が限りなく似合わない。
あと、私不法侵入していたらしい。とりあえず、まず最初に謝ってから、先ほど起こったことを説明してから、どう進めば敷地から出られるのか聞いた。
ら、金髪のイケメンがちょっと待ってよお二人さん、と割って入ってくる。私と次期魔王の間に入るようにして、私に向かってキラキラ輝く笑顔を向けた。苦労性のところを見てしまったためなんとも言えない気分になる。
首を傾げて、ただ見つめていれば、何度か瞬いてから、その笑顔をやめた。くるりと次期魔王を振り返る。そして、もう一度私を見る。
「僕の方がイケメンなのに!」
「まさかの」
ナルシスト、とは声に出さなかった。
確かに、魔王様の方は迫力のあるイケメンだから、王子様系とか儚げ少年とかが好きなタイプには受けないだろう。やのつく自由業の若頭系だ。しかもツノがあるから余計怖い。子供に泣かれるイケメンに違いない。
金髪のイケメンは気を取り直したように、彼にどうするつもり?と問いかけた。
ふ、と冷めきった瞳で、さっきとまるで別人のような次期魔王は、口元を歪めるだけの笑みを返す。まるでそんなこともわからないのか、と言いたげだ。が、その表情はすぐにかき消され、威圧感も何もない暖かさも感じられる表情で彼は私を見る。
「私の砦に一緒に帰ろう、せっちゃん。帰る場所がないのだろう?」
「…よろしくお願いします」
これからどうするか悩んでいたところにこれだ。神様の幸運が効いているのかもしれない。ありがたいことだ。
と、金髪のイケメンを押しのけた次期魔王は子供のように目を輝かせて、私に告げた。
「だから、私のこともせっちゃんと呼んでくれ」
あ、こいつ天然とかじゃなくてただの自由人だ。
魔王といったらツノ




