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ガラスの向こう側にいる一人ずつ残った各種族をじっと見つめてから、満足する。他の種族とは一体どういうものなのか、知ることができた。それに、違う種族ははっきりと自分と違うのだ、と把握できるとわかったのも嬉しい誤算だった。これで、もし城近くの森でうろついていて、討伐しにきた他の存在に出会っても逃げられるし、関わらずにいられることができるだろう。
他に理解しておくことはあるだろうか、とせっちゃんへと視線で問いかけるが、不思議そうに首をかしげるだけで何もしてこない。なるほど、しばらく好きに見ていていいのか。そう思うが、やはり見ている分には獣人が興味深い。人間は以前の私と同じだから、見るものもない。今となってこの世界の人間に思うことは、魔法も満足に使えないのは大変だろうというそれだけだ。エルフは確かに美しいが、映画やアニメで見ていたようなエルフから想像を超えないレベルだ。ドワーフは本当に人間が小さくなったくらいで、体格的にも鍛えられたものは確かに感じられるが、それが種族的な特徴だろうと考えると、やはり興味を引かれるレベルではない。
最後の獣人は、獣の頭とその動物の特徴ーーこれは、個体差があるらしいーーが、尾や翼、手などに現れるらしい。今残っている虎の獣人は白い虎の頭に青い目、尻尾は長くゆるりと揺れていた。手は獣そのもので、鋭い爪に肉球がある。しなやかな四肢はどちらかといえば獣に近いもので、服で隠れた下は毛皮に覆われているのだろうと想像に難くない。もふもふ、してるのだろうか。いくら奴隷とはいえ犬猫のような扱いをしてはいけないとは理解している。だが、本当にもふもふしていそうだし、気持ち良さそうなのだ。
うう、と無意識のうちに唸る。直接話をしてみたい。むしろ、触ってみたい。そうは思うものの、それは人としていかがかと思う心もあり、唸るしかできない。
「どうした?」
「んー、獣人って興味深いなぁって思って、もふもふなの?」
「毛並みを自慢する獣人は一定数いるそうだ」
「そうかぁ…もふもふかぁ」
自慢するタイプの女の子あたりの獣人と知り合いたい。そうすればもふもふさせてもらえるのかもしれないなぁ、仲良くなったら顔ももふもふとかさせてくれる?いやでも魔族にいい感情を抱いてはいないのか。そうすると、仲良くなるのは難しいよなぁ。
でも奴隷として買った場合、どうしても手放したくないと思えば、すごく甘やかして大切にすれば、国すらも裏切る自分に忠実な存在を作り出すこともできるのではないだろうか。私が奴隷だったらという観点で想像しているので、そううまくはいかないかもしれないが、ちょろい私には反抗し続けることはできなそうだ。誰に噛みつこうと己を守ってくれる存在、なんて、女の子としては憧れる騎士様のイメージ像の一つだと思う。
「話してみるか?」
「…いいの?いいなら、少し話してみたい」
せっちゃんに答えるとせっちゃんは、支配人に声をかけて、獣人だけを残してくれた。近寄ってきた獣人は大きくて、ヴィクトール様とクレインス様の間くらいの身長だった。ポカン、と見上げていれば、そのまま不純物の向こう側に片膝をつく。あまりにも様になった動きに不思議に思うが、以前騎士様だったとしてもその視線に侮蔑も反抗もないのが不思議だ。近くで見ると、確かに獣の頭ではあるのだが、覆面プロレスラーがモチーフのマスクを被っているような、獣そのものとは少しばかり違うイメージの顔立ちだ。それでも整っているイケメンだと思うのだから、獣人の中でもきっとイケメンなのだろう。
せっちゃんが、近づいていいぞ、と私に許可をくれるので、ガラスギリギリまで近寄った。膝立ちしているはずなのに私とほぼ同じくらいの位置に顔があるので、やはりヴィクトール様に近い身長があるのかもしれない。青い目になんの感情も浮かんでいないのが不思議で、首を傾げる。プラスがないのは仕方ないと思うが、ネガティブな視線すら感じないのはどうしてだろうか。ネガティブすぎるから封じられてしまっている、ということもあるのかもしれない。せっちゃんにあとで確認しよう。
ぺとり、と手をガラスにつける。この弱々しい手を見て、彼は何かを思うのだろうか。柔らかな顔のまま首を傾げたまま相手の動きを確認する。無表情がどこか困惑したような空気になってから、おずおずと手が挙げられて、私の手の向こうに合わせるように当てられた。おお、大きい…!多分今私の目はキラッキラしてると思う。そう自覚できるくらいに浮かれて、青い目にありがとうの意味を込めて笑いかける。
せっちゃんに報告しようと手を離して、振り返った瞬間だ。眉を寄せて想像以上に近くにいたせっちゃんが、不満そうにしている。これは初期の頃によく見ていた顔だ。寂しがりや、と称していいのかわからないし、スイッチが未だにわからないが、ほおっておくわけにもいかないだろう。
「どうしたの、せっちゃん?」
「欲しいのか?」
「ん?必要ないよ。私にはせっちゃんがついててくれるんでしょう?」
「…ああ」
マリアさんたちもいるし、というのは不機嫌になられると困るので省略する。嬉しそうに笑ったせっちゃんが、私の手を取ろうと手を伸ばした瞬間、真後ろから小さく風を感じた。へ、と振り返るとガラスがすっかりと切り裂かれていて、太くてたくましい腕が伸びてくる。透明でわからなかったが、結構分厚いガラスだったのに気がついた。
「わ、あ」
「せっちゃん」
ふわり、移動魔法が発動させられて、私はせっちゃんに抱きしめられている。落ち着いてガラスの方を振り返ると、虎の獣人さんが魔族の、多分職員さんに取り押さえられている。私に向けられる視線に恐怖は感じないのだけれど、一体何があったのだろうか。
「せっちゃん、離して?」
「だめだ」
「…じゃあこのままでいいよ」
私を傷つけるような意志は最初から最後まで感じなかったのだけれど、一体どうしたのだろうか、とその顔を見つめる。強い視線で見上げてくる彼は、想像以上に若々しい声を、せっちゃんに向けて荒げた。
「彼女を離せ!」
事件はいつも突然に




