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せっちゃんたちの恋愛事情  作者: くい
どうも、じきまおうのちじんです
36/90

2−17

広いホールなのに、どうしてだろう。監獄に閉じ込められているような気分がしてくる。貴族の女性たちが私を敵として認識したが故の事態だとはわかっている。わかっているのだけれど、どうすれば解決できるのかについては皆目見当もつかない。原因である彼らに頼った場合、もっと悲劇になるということだけは確実だ。

まず、視線を彷徨わせてここからの物理的な脱出を考える。ここは奥の方だからこそ、出るには視線の中をくぐり抜けていかなくてはいけない。つまり、視線に近づいていくしかない。他に…テラスに出たとしてもそれは一時的なものでしかなくて、意味のない行動だ。むしろ近づいて来られたらアウトになる袋小路でしかない。物理的な脱出はほぼ不可能。

次に、それ以外の脱出などないだろうから、この事態の収拾を考える。収拾なんてできるのか。全くビジョンが浮かばない。

私のせいじゃないこの状況で、私だけが槍玉に挙がったのは絶対に理不尽だ。だが、今の段階でせっちゃんたちに恨みつらみを連ねるのは、さらに敵を増すだけのこと。ならば私も彼らも義務的にそういう状況である、ということにしておけばいい。

つまり、せっちゃんの元に置いておくと女王様が困る、というような…どんな状況だそれ。自分で言っていて理解が及ばない。むしろ、私一応神の一族らしいから、それを知らしめる方向で行った方が私の身の安全的にいいのでは?

そうなったら、神様にお祈りした方がいいよね、だって、こんな場所でステータスオープンはさすがに嫌だわ。年齢とかもバレるのわかったから余計。

ーー神様、どうすればいいですか!

私の困惑も混じった祈りに神様が答えてくれる。と、同時に私の魔力をグワッと思い切り持っていき、以前の(いかづち)と同じものが、何故か典医様含む4人に降り注いだ。

え、それでいいの。と思っていれば、前の時のように私の魔力が回復する。さすが神様アフターフォローもバッチリ。

ありがとうございます、と心の中で告げれば、気にするな、と嬉しそうな声が聞こえた。うん、すごく甘やかされているのはわかるから、今回みたいにどうにもならない時にだけ頼むようにしておこう。

ちらり、と視線を彼らに向けると、彼らはそれぞれ驚愕したような顔で私を見ている。うん、申し訳ない、どうにかして欲しいと神様にお願いしたのは事実だ。


「また、神に祈ったのか?」

「どうすればいいかわからなかったから…こうなるとは思わなかった、ごめん」

「私たちの魔力をギリギリまで削り、全てお前に還元するとは。主神も無茶をする」

「え、そんなに私のところに来てるの」


減ると確かに疲労を感じるけれど、増えても何も感じないのは問題かもしれない。が今は彼らが動けないままなのは困るだろうし、ちょうどいいものはないだろうか、視線を動かす。近くのミニクロワッサンーー中心にクロワッサンがあるのに、どうしてミニクロワッサンも用意されているのだろうかーーを手にとって、ふわりと魔力を纏わせた。

何だろう、魔力回復とかでいいのかな。適当に回復さえさせとけば、そのうち動けるようになるだろう。もしくは魔力回復量上昇?その辺でいいかな。


「せっちゃん?」

「流石にこのまま見捨てるのは人としてどうかと思うから」


本当は魔力交換が楽でいいのだけれど、人前でするものじゃないし、私に被害しかないからちょっと…。眉を下げて首を傾げて見つめると、せっちゃんが口を開く。あ、寄越せと。

仕方ないので口元に運ぶと、素直に口に入れた。目を細めて笑う顔が妙に優しいのが何とも言えない気分になる。他の3人にも一応分けたほうがいいのだろうか。

ご迷惑をおかけしました、と言いながらミニクロワッサンを渡そうとしたのだが、口を開けられて俗に言うあーんをさせられる必要はどこにあるのか。まあ、ヴィクトール様とクレインス様は百歩譲って婚約者(候補)だからいいとして、どうして典医様にまであーん、としなくてはならないのか。と、言うわけで、私がいたしますわ、と名乗り出てくれたお嬢様に典医様についてはお任せした。


「では、私と踊ってくれますか?」

「え、この空気で?」

「ええ、この空気でです」

「…喜んで」


死んだ目で頷いて、その手を取る。平然と微笑むクレインス様に引っ張られるように、止まっていたホールの空気も戻る。優雅な曲が流れ始めて、腕を引かれるがまま中央へ。婚約者ですから、と言う免罪符(いいわけ)で、クレインス様とは3曲踊らされて辛かった。体力的な意味でも視線的な意味でも。

やっと終わったと思ったら、今度はヴィクトール様が待っていたと知った時の私の絶望といったらなかったよね。組んだら足つかねーよ、ふざけんな。

何とか終わらせて、飲み物を飲んだら、そのまま今度はせっちゃんに連れ去られて、疲れきったところでそのまま退出することになって、心底訳がわからない。


「おかえりなさい」

「ナディア…疲れた、わけわかんなかった」

「本日はゆっくりとお休みください」


にこりと笑うナディアの顔に、こくん、と頷いて、促されるままお風呂場へ向かう。今度はリラックス用のマッサージだけをされて、気持ちいいけど、これ多分疲れたの認識が若干違う気がする。肉体的じゃなくて精神的なんだ、とは思ったのだけれど、あまりに気持ちのいいマッサージだったせいか、ついうとうとと眠りについてしまった。



「目が覚めましたか」

「ん、」


ぼんやりと目を開くが、何を見ることもできない。何かがすぐ前にいるのだろうか。ただ、別にそれほどの危機感を覚えないので、敵ではないらしい。ちゅ、とおでこにキスされているような気がするが、そんな特殊な人間私の知り合いにはいないはずだ。


「今日はお疲れ様でした。また明日、お話ししましょうね」

「…った」


わかった、と答えたつもりだが、眠気に負けてほとんど声が出なかった。けれど、嬉しそうな声が帰ってきたことから、多分聞こえていたのだろう。そっと頭を撫でられる感覚があって、そのまま意識を闇に沈めた。

夜会はあっさりと

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