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せっちゃんたちの恋愛事情  作者: くい
どうも、じきまおうのちじんです
33/90

2−14

いつもお読みいただいてありがとうございます。

せっちゃんと二人、華やかな夜会ーーとは言っても外は茜色の空なのだが、時間的には終の時間だから夜会だーーの会場へと歩いていく。

ナディアとマリアさんはお留守番だと言っていた、やめてほしい。一緒に来てくれないのか、と私にできうる限りに羞恥などかなぐり捨ててあざとく懇願したのだが、招待されていないのでダメだと断られてしまった。どうやっても無理なのかとさらに食い下がったら無理だとせっちゃんに強制的に運ばれ始めたので、二人が今何をしているのか私は知らない。

会場に近づくにつれて、人の数が増えてくる。皆一様に綺麗な衣服を身につけていて、パートナーだろう相手をエスコートしたり、されたりしている。日本にも時折いた公共の場でキスしちゃうようなバカップルも、表情はツンとしているのにさりげなく指までを丁寧にしっかりと絡めあっているカップルも、一見隣同士で仲が良さそうに見えるがその実仲が悪いのだろう夫婦も。年上の親族につれて来てもらっただろう少女が楽しそうに辺りを見回している。

確かに全員使用人は連れて来ていないし、今この場で使用人として働いているのはメイドと執事たちが中心だ。もしかしたら、お客様に対応する場所では、なのかもしれない。きっと裏方を探せば召隷(リテイナー)がいるのだろう。進んで見たいとは思わないけれど、それでも魔族以外の種族には少しばかり興味はある。ただ、自分の安全が確保された状態で見たいとなると、それは確実に奴隷たちしかないわけで。下手に接触して私が奴隷を欲しがっているなんて噂が出たら絶望する。


「もうすぐ着くぞ」

「…おお、すごい」


会場入り口の扉の向こうは華やかな世界だった。光でキラキラとしているだけではなく、魔法を使って仕掛けがされているのだろうか、降り注ぐ光のシャワーが入り口に。足を踏み入れると、温度は適温に保たれていて、多分用意されているビュッフェ形式の料理も全部温度管理されているはずだ。お弁当を作っていた時の癖か、ジオールさんにいつか教えてもらった方法で料理の効果をちらりと確認する。基本的に何も効果はついていなかった。ただの美味しい料理なのだろう。もったいないとも思ってしまうが、夜会の料理というのはそういうものなのかもしれない。

せっちゃんに促されて移動していくと、そこにいたのは美しくドレスを着こなした女王様。二人で挨拶をして…というか、女王様とせっちゃんは一応女王様の方が偉いとされているらしい。二人は暫く会話をしていて、ほとんど理解できない政治の話になってきたのを聞きながら、美味しそうな料理へ思考を飛ばす。

政治の話だと理解するのは簡単だ。だが私には、その話をする前提の知識がない。例えば土地の名前や、貴族たちの名前、暗黙の了解を含んだルール・規則、いくつかの隠語、己のための己だけの情報網に、そこから得られた情報の数々。何一つ持っていない私はただ隣でぼんやりと聞いているしかできないのだ。

思考回路を完全に停止させて、意識までもを宙をさまよわせる…つまりぼーっとしていた。本来そんな隙を見せることは許されないはずだが、私が気がついた時、私の両脇にはヴィクトール様とクレインス様がいた。二人はそれぞれ自分の魅力を完全に理解しているのだろう服装で、それにあった優しげにみえる(・・・)笑顔を浮かべていた。あれ?と気がついた時にはもう遅い。

時間が経てば、他の女性に口説かれたり、粉をかけられたりするのだろうに、暇なのだろうか、と思った私は絶対に悪くないはずなのだ。その心を読んだのか知らないが、ガッチリと両脇に立たれて親子かと思うレベルだ。


「そのドレス、よくお似合いですよ」

「砦のハーレルさ…ま?が選んでくれたのです」


危なくハーレルさんと呼びかけた。必死に修正した軌道に、私を褒めてくれたクレインス様が驚いた顔で何度か瞬いた。


「ハーレルですか。彼は元気ですか?」

「はい!とっても優しくて、よくしてくれます」

「あれは私の従兄弟なのですよ」

「へぁっ!?」


でも言われてみればハーレルさんも確かに美人な顔をしていた。やはり血筋は大きいのだろうか。貴族は綺麗なのはある種当然のことではあるのだが、クレインス様ほどの完全に自然に見せかけた美しさは珍しいのではないかと思う。見せかけた、というのは言葉が悪いだろうか。元々尋常じゃなく美しいのは事実だ。だが、それを魅せる見せ方は調整している。

私がそれに気がついたのは、残念ながら先ほどクレインス様に声をかけた女性をあっさりと切り捨てていた瞬間だったのだが。

ちなみに、ヴィクトール様はそもそも言い寄られていない。チラチラと視線は向けられているが、肝心の本人が私の隣で私へと熱視線(・・・)を送っているからだろう。瞬いている回数が少ないように思えるのだが、その辺は気のせいだと先ほどから自分に言い聞かせている。

せっちゃんに至っては、まだ女王様とお話中だ。一体何をそんなに話すことがあるのだろうか、だんだん皮肉の応酬みたいになってるけど大丈夫かな。絶対に巻き込まれないように近づかないけど。

料理と飲み物が欲しい、と視線を彷徨わせれば、正面にやってきた一人の紳士が、どうぞ、と差し出してくれる。ふわり、と甘いような香りが広がった。

何度か瞬いてその顔をじっと見る。初めて見る顔だ。ヘーゼルのウェーブしている髪を首元で一つに結んでいる。瞳の色は白と黒が反転しているが、その瞳には優しげな色が灯っている。体はクレインス様くらいに大きいのに、威圧感がないのは物腰がさらに柔らかいからだとわかる。顔立ちも甘いマスク、と言えるだろうか。きっと若い頃は、そして今でもかなりの女性を泣かせているに違いない。外見的には、ヴィクトール様と同じくらいの年齢に見える。

とはいえ、ヴィクトール様のお顔は非常にいかついものなので、相応以上に年上に見えているのだけれど。ヴィクトール様本人曰く、魔力から見る寿命を基準に考えると実はまだまだ若いらしい。


「素敵」

「何がだい?」

「ふふ、とても素敵なお顔立ちをされていらっしゃるから。初めまして」


にこり、と目を細めて笑う。目の前の紳士は嬉しそうに破顔して、私にお皿を渡した。


「あなたは、体調不良で寝ていたから初めましてだね。私…いや、僕は典医のフィラード。よろしくね」

「あ、お薬をくれた典医さんですか」

「まあね」


いたずらっぽく笑うその顔は実に魅力的だ。己の魅力を知り尽くしていると言ってもいい。朗らかに体調はどうかな、と問いかけてくる彼に返事をしたのは、私ではなかった。

新キャラ登場

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