2−13
結婚を諦めて早十数年。まさか婚約者が二人もできるとは思わなかった。ついでに、ハーレムの中にはなぜかせっちゃんも含まれているけどね!
待って…これ、知人から、婚約者扱いになると何か変わるとかないよね?と思ってそっと自分のステータスを確認したら、ヴィクトール様とクレインス様の欄を見たら知人から婚約者(候補)になってたので、思わずヒィと情けない悲鳴をあげた。
他にダメージを受けるようなことは何かあるのだろうかと彼らを見れば、円満な関係を築きたいとかで、王都にいる間にはともに出かけようとか、仕事場に良ければ顔を出してくださいとか、舞踏会?でともに踊りましょうとか、誘われた。断る理由もなかったので、空いた時間にお願いしますと微笑んでおいた。
これから未来に、紆余曲折があった末、何故か私が彼らのスケジュールを私が管理するようになるとは思いもしなかったし、もし知っていたらここでお願いしますなんて答えは絶対にしなかった。
「称号って詳細はどうやってわかるのでしょうか?ハーレムの主がこれ以上ひどくならないように知っておきたいのですけれど」
「つまり、俺たち以外に旦那はいらねぇと。嬉しいことだ」
「そうなるかどうかはわかりかねますし、確約もできません」
真面目くさって私が返せば、わかってるとヴィクトール様は肩をすくめて見せた。ああ、アメリカンジョーク的な何かだったのか。生憎私はアメリカンジョークは苦手だ。あと社交辞令も苦手だ、日本人的な本音と建前は使い分けるくらいはなんとかできる。この世界で通じるのかわからないけど。
「称号の詳細は一応本にまとめられていますから、よろしければ後でお貸しします」
「お願いします。ありがとうございます、クレインス様」
頭を下げて、気を抜いた瞬間、勢いよく襲ってきた睡魔に驚く。全身を生温いような倦怠感に包まれて、指の一本一本までが重たくて動かせない。沈み込むような感覚に必死に抗うが、それでも全身の感覚は鈍くなっていく。意識しないでいるとまぶたが閉じてしまう。
今この時を超えられれば、しばらくは耐え凌げる、と経験上わかっている。だが、この状況で耐え凌ぐために数分目を瞑っていることなんてできるはずもなく、必死に堪えてはいたのだが、ふつり、と意識が途切れた。
「ん…?」
「目が覚めたか」
響くせっちゃんの声に、首をかしげる。一体何があったのだったか。
「疲労だそうだ、一応薬も出ているぞ」
「…ああ、ごめん、せっちゃん。今日は色々ありすぎて、」
「正確にいうと既に昨日だがな」
へ?と徐々に覚醒し始めた頭で何度か瞬いて状況を確認する。茜色の空が一日中変わらないせいで、意味がなかった。
手を動かそうとしたが動かない。疲れすぎでうたた寝をしてしまったとき独特の、体が動かない、という症状だと思っていたのだが、違うらしい。じわりじわりと体温が伝わってくることから考えると、これはどうやらせっちゃんに抱きしめられている状態だということか。足まで動けないように絡められている気がする。
そして、ソファーにいたはずの私はベッドに横になっているが、視界の隅に映る部屋は見たことがない。多分昨日の部屋の扉の向こうだろう。ベタにせっちゃんの服を私が掴んだまま離さなかったとかだった本気で申し訳ない。が、本当に驚くほど一切の記憶がない。
見上げた金色の目が蜂蜜のようにとろりと柔らかい。すっかり馴染んでいた体温が離れて、ひんやりとする。動いた手は、私の頰を撫でて、そのまま髪を撫で、梳いた。されるがままになっているが、少しばかりぎこちない撫で方でも、ゆっくりと繰り返されると、まぶたが重くなってくる。
ああ、せっちゃんに感謝もしていないのに。
そう思うが、既にもやのかかった頭が何かを判断できることもなく、促されるままに眠りについた。
「雪白様、今日は夜会ですよ、準備いたしましょう?」
ナディアの声に、ゆっくりと目を開く。すっきりとした目覚めだった。
促されるままに起き上がると、お風呂に案内された。いつも通り一人で入ろうとしたのだが、今日はダメだとナディアに怒られる。ナディアが服を着たまま入ってきて、私は一応タオルで隠してもいいと許可はもらったけれど、何をするのだろう。
マッサージだった。というよりもエステに近いだろうか、気持ちいいものが大半だったが、痛いのもあった。何度か呻いたのだがナディアはニコニコと笑って続けるものだから、ちょっとナディアが怖くなった時間だった。それにしてもナディアはすごく優秀だ、絶対に私についていていい相手ではない。
お風呂から出てもマッサージは続いていたのだが、多分、彼女も美の追求を持っているはずだ。魔法も時々便利に使いながらも、技能で私は磨き上げられた。元々持っている美の追求も刺激されたことで働いたのか、苦しいコルセットを絞めて、ハーレルさんが選んでくれた綺麗なドレスを着て、髪を結い上げて飾り付けて、化粧を施した頃には私はすっかりお姫様になっていた。
素の私の顔は確かにあるが、何だろうか。元々の顔を一回イラストにして、それを元に今度は似た芸能人に役を頼んで、さらにそれをイラスト化してから具現化した感じと言えばいいだろうか。確かに自分なのだが、別人。この技術は昔レイヤーをしていた頃に欲しかった。
「では、お迎えが来るまでは待ちましょうか」
「…迎え?」
「ええ、エスコート役です」
ナディアの言葉が終わると同時に響いたノック。響いたのはせっちゃんの声だった。
どうぞ、と答えると、ゆっくりと扉が開く。キラキラと光るイケメンがそこにはいた。物理的に光っているわけではない。ケルト神話に出て来るディルムッド・オディナだって別に光っていたわけではないだろう、そういうことだ。
軍服のようにかっちりとした詰襟の服は中二心を的確について来る。色が白というのも乙だ。彼の深い色の髪と、輝く金色の目がよく目立つ。しっかりとした肉体と、ワイルド系の顔立ちであることも伴って、騎士様と言われてもしっくり来る。彼はまっすぐに私の前までやってきて、すっと手を差し出した。
「さあ、行こう、せっちゃん」
「ん、ありがとう、せっちゃん」
次は舞踏会()




