2−05
そもそも、どうにかなるものなのか。根本的な問題があるが、目を瞑っておくことにして、対策を考えるべきだ。
将軍こと、ヴィクトール様は特殊なーー最悪、女性を重傷にするようなーー魔力を持っていて、多分受け入れることのできる女性というのを第一の条件としておいていたのだろう。そして、私の想像ではあるが、それ以上に絶対に問題のある好みを持っているはずだ。じゃなきゃ、3人が3人とも俗にいうゲンドウポーズで頭をかかえる必要なんてないのだから。
逆に、そこから逃れる道しるべを探し出すことはできないだろうか。
「魔力を受け入れられる以外の条件は?」
「それも、残念ながら満たしています」
「…特殊、なのですか?」
「ええ」
明らかに重い言い方に嫌な予感しかしないのだが、聞かずにはいられない。深呼吸をして、覚悟を決めた。足掻いたって、彼の特殊な好みは変わらないのだから。
私の意志を感じたのだろうか、ハーレルさんが戸惑うようにしてから、口にした。
「彼、その…極端に年下の子が好きみたいで」
ロリコン…だと?!いや、どちらかといえば、ペドフィリアだろうか。どちらにしても恐ろしい。だったら外見をもっと若い年に固定しておけよ、なんて思いもするのだが、一体なんの理由があって壮年に設定しているのだろうか。外見を戻すことってできないの?
私の混乱を見て取ったのか、3人が痛ましい目で私を見てくる。が、ふと気がついて聞いた。
「でも、私、もう子供ってほどの外見じゃないですよ!」
「雪白様、今までお伝えするのは控えていたのですが…雪白様の見た目は12歳くらいにしか見えないのです。その、ご身長が低めなこともありますし」
ナディアの言葉に雷が落ちたような衝撃を受けた。確かに身長は相対的に見れば低いだろう。けれど!向こうでは、日本では平均身長より大きかったのだ。しかも、普通に身の回りに背の低い人たちが多かったせいもあって、大きい人として頼りにされていたのに。その私が、身長が低くて子供に見える、なんて。外見だって、日本じゃ、年上に見られやすかったんだから。この際、海外に行った時に年下にまで妹扱いされたことは、考えないことにする。
でもよりによって12歳はないよね?外見が若くなってたのは確かだよ?35年付き合ったはずの顔が高校時代くらいの顔になっていたのは事実だから。でも、気持ちが納得しないわけですよ。精神的には大人で、むしろ嫁き遅れだと言われながらもお一人様、別名独身貴族を楽しく満喫していたのに。それが突然小学6年生ーー日本にも小学生モデルとか尋常じゃなく大人っぽい子とかもいたけれど、私のイメージする子供は近所の小学生だーー、もしくは中学1年生!中二病にさえ年齢が足りないなんて。
「そんな」
「顔立ちも表情の動かし方も、無垢な子供と言われても納得できます」
マリアさんに言われた言葉に、ああもう嫌だ、と茜色の空を見やる。平和ボケしてるからか。私が危機感を持たないような存在だったのが悪かったのか。額を抑えて唸ることしかできない。
子供、圧倒的な子供。つまり私が女性扱いしてもらっていたのは、砦の皆さんによる厚意の結果であって、本来なら、完全なる子供扱いしかされていなかったということか。いや、よく考えれば、就労時間とかも短いよね?一応客人だから短いのかと思ってたけど、もしかしたら、そういう理由?
そう考えればせっちゃんの私をオモチャとして遊んでいるのは、悪いお兄さんが、いたいけな、と自分で言うのはちょっと戸惑うけれど、いたいけな少女をからかっていた、ということになるのだろうか。それにしては悪質なからかい方だけど。
「仮令、雪白ちゃんの外見が年相応であったとしても、実年齢が思いっきり離れてることには違いがないのよ」
「うぐっ」
「そういえば、あの将軍の悪い癖として知られているのが…手のかかる少女たちを愛でる傾向にある、と」
「じゃ、じゃあ、従順にしていれば、」
「既に気に入られてるから、そのまま結婚して終わりじゃないかしら?」
ハーレルさんのあっさりした言葉にふらっと視界が揺れる。慌てたようにナディアが支えてくれた。ありがとう、と力なく告げて、はあ、と深いため息をついたところで気がついた。
別に良くない?ってことに。
確かに、せっちゃんにはお世話になっているけれど、このままずっと世話になっているわけにもいかないわけでしょう?確かにオモチャとして気に入られているけど、彼は次期魔王様なのだから、それ相応の身分の女性が現れるわけで、私がいて面倒な修羅場に巻き込まれるのだけはごめんだ。
確かにワイルド系イケメンのせっちゃんにときめくことがないとは言わないが、それを補って余りある面倒くささが存在している。別に、友達なら相手が既婚だろうが変わらないよね。二人で遊ぶだけが友達じゃないわけだし、これが友達っていう定型の関わり方があるわけじゃない。
私とせっちゃんなりの友達の形を見つければいいのでは?相手がいてこその友達なのだから、無意識だろうと意識的だろうと距離を測りながら、関係を築くのが本来の友達ではないだろうか。
目が覚めたように気がついてからは、それが一番いい案に思える。むしろ、これが至上であるとまで考えてしまうあたり単純なのだろうけど、何か問題があるだろうか、いや、ない。
「雪白ちゃん?」
「思ったんですけど、逆に私が将軍様と結婚して問題ってありますか?」
「え?」
「と、突然どうしたんですか!」
「将軍様の外見は好きですし、断る理由もないのでは?」
キョトン、可愛子ぶって首を傾げながら、目の前の3人を見る。顔が真っ青だ。まあ、私が3人の立場ならその顔色になるかもしれないけどさ、ちょっと大げさじゃない?
自分がお世話をしている12歳(に見える16歳の)少女(しかも主人がオモチャとして気に入っている)が、突然やってきた特殊な趣味の壮年(多分私の元々の年齢と同じか少し上に見える)にイタズラをされて、連れ出したと思ったら少女が「結婚してもいいよ?」である。うん、やばい。それは真っ青になるわ、ごめん。
イタズラといえば、私せっちゃんにもイタズラをされてたってことだよね?一般的に見ればそういうことだよね?次期魔王様でもドン引きですわー、とか真顔で言いたいレベル。
でも、その前に目の前の3人に意識を取り戻してもらわないと。
攻略対象は一筋縄では行かないタイプ




