0−02
本日あともう1話投稿いたします
その日は、私に姪っ子か甥っ子が生まれた日だった。
性別は来てからの内緒、なんて1回目も同じことをしたのに、義姉さんも兄さんもお茶目だ。一人目はもう3歳になっているのに、あの夫婦は変わらない。私はいいのかって?オタクとして友達がいて仕事があって充実した日々を過ごしているし、兄さんたちの子供がいるおかげで、自分が子供を育てたいという感情も薄らいでいるような気がする。
そう思って、病院に到着したときだった。ふわりと持ち上げられるような感覚があって、白い空間に入れられていた。何故かたくさんのお年寄りと一緒に。
理解ができないでいたのだけれど、おじいちゃんとおばあちゃんたちはお迎えはこんなにぎゅうぎゅうなんだねぇと言い合っていたから、私はどうやら死んでしまったらしいと把握した。
でも、私以外の99人の素敵なマダムとジェントルマンーーそう言ってもおかしくないくらいに本当に素敵な人たちだったーーは私のことに気がついてからは、お迎えじゃないのかもしれないねぇなんて言ってくれて。
でもしばらくしたら、近くにいたおじいさん・みつ爺が、光りはじめて穏やかな顔のままヒュルリと消えた。
残ったのは、ブリリアンカットを施された赤い宝石…理解ができない私の脳内は、宝石のカットは宝石それぞれに合ったものがあるのになんて無粋なんだ、なんて思っていたけれど。
次々と光っていく彼らに怖くなる。
なのに、隣にいるうめばあちゃんは、せっちゃんは大丈夫よ、なんて顔に刻まれた笑い皺をもっと深くして私の手をぎゅっと握ってくれた。
でもその手の感覚もすぐに薄れてしまって、ごろり、と私の手の中には桃色の少し大きめの宝石が残っているだけになってしまう。
ひとりにしないで、と手を伸ばす。大丈夫よ、と微笑む。光って宝石になる。
置いていかないで、と涙が溢れる。一緒にいるぞ、と声がする。顔を上げても光と宝石しかない。
透き通るような感覚も、光る感覚もない、散らばる宝石を唖然と見つめながら、手を伸ばす。
ガラリ、と突然、扉が開いた。
幼い少女と、学ランを着た幼稚園児くらいの少年がいる。
理解ができないでいれば、少年が何かよくわからない言語を叫んでいて、そのあとに、初老の紳士が幼女を厳しく叱っている様子が繰り広げられた。初老の紳士は、私の元に来て、私の子が迷惑をかけた、申し訳ないと謝罪した。
そして、彼は話し始める。
リカント、という異世界の話を。
魔王のいるその世界には、魔法が溢れており、その魔法の源でもある魔力からモンスターが生まれる。そんなモンスターを倒すために冒険者という存在が生まれた世界。
魔王率いる魔法にあふれている魔族と、多くの王が率いるもっとも数の多い人族、それから、獣王が率いる獣人族、各地に散らばるエルフ族に、火山に血族で集まるドワーフ族など、色々な種族が共存しているそうだ。それぞれの平和を脅かすのはそれぞれの思惑以上に、大量に発生するモンスター。
モンスターのボス、と呼ばれる存在を倒せば、少しは平和になるらしいのだけれど、普通の冒険者では倒せない。だから、そのために勇者がいる。
もう元の世界には帰れないから、リカントで生きるしかないのだと、そう説明された。
魔力についてなんかも説明されたけれど、それ以上に、宝石になってしまった彼らはどうなったのかが知りたくて、それどころじゃなかった。
ちょうど話が終わったあたりで、うめばあちゃんの桃色の宝石が光って、私の胸元に消える。少年が、また声を荒げる。
神様だと名乗った初老の紳士は、そっと私にだけ聞こえるように告げる。
幼い少年ーー元は、私と同じ世界にいた中学生らしいーーは幼い少女ーー神様の一柱で、一番年若いーーの勇者候補だったのだけれど、少女の失敗のせいで、勇者の資格を剥奪されてしまう。その資格を持ち続けるためには、宝石が必要なのだ、と。
宝石は、みつ爺たちの極めた“スキル”というもので、その総数が10以上、合計レベルが50以上であれば、勇者と名乗る資格が得られるために、少年は必死なのだ、と。
彼も、私のように突然死んでしまったのだろうと思うと、大丈夫、と声をかけてくれた彼らのように、私も大丈夫だよと言えるようになりたいと思う。だから、私に入り込んでしまった“スキル”以外は全部少年に渡した。
宝石を奪うように抱きしめた少年は、それから、すぐに神様にもう一度叫ぶ。神様が私にステータスを見せてやるようにいうから、思いついたままに操作する。
ゲーム画面に近いパネルをいじりながら、“スキル”を見せる。ついでに、私も見る。
おばあちゃんの知恵袋(究極):おばあちゃんたちが持つ生活全てにおける知恵を借りられる。地球の知識のみならず、リカントにおけるおばあちゃんの知恵袋も知っている。
美の追求(大):美しさを追求するのに、年齢は関係ない。美しくいたいのなら、美しさを追求すればいい。
健康の追求(大):健康第一。スキルを所持しているだけで、病気・怪我をしにくくなる、また罹ってしまっても治りやすい(注:中二病には作用しない)。
家庭料理(大):ほっこりする家庭料理。どこか懐かしくて、心安らぐ美味しさ。お店での料理は緊張してしまうのが難点。
愛妻弁当(大):愛情込めたお弁当は食べた相手を元気にする。思いを乗せて、行ってらっしゃい。
オタク(大):固有スキル、好きなもの・興味を抱いたものに対しての集中力・記憶力・妄想力が優れている。反面、中二病にかかりやすくなり、治りにくくなる。
悲しかった気持ちが、なんか、どうにもならなくなったよね、主に最後の一つ。
ただ、それでも、うめばあちゃんたちが生きていた軌跡が私と一緒にいてくれるのだとそうわかっただけで満足だったし、小学生くらいにまで大きくなった少年も納得したらしく、リカントへと向かっていく。それを見送って私は目の前の初老の紳士に目を向けた。
勇者様はここでフェードアウト




