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はてさて、時が経つのはあっという間で、私がせっちゃんにお世話になり始めてから、もう1ヶ月が経った。
その間にしていたことといえば、お弁当作りとお勉強だ。お弁当はジオールさんたちと厨房で、食材によっての差があるのか、という研究を始めている。ちなみに、一番乗り気なのはマリアさんで、レリィナさんとは軽口を叩ける間柄になった。お勉強の方はせっちゃんが丁寧に教えてくれて、たまに金髪イケメンのカストさんーーカスティーリャと呼ぼうとして何度か噛んだら、彼が仕方ないなぁと呆れた顔で愛称呼びを許してくれたーーとハーレルさんが横から口を出してくる。たまにナディアからマナー?とか上に立つ者の心得的な知識を勉強する時間もある。上に立つものとしてメイドは呼び捨てにするようにと言われたのもこの時だ。
それから、建設現場に行って、せっちゃんにつきっきりで魔法の練習をさせてもらったこともある。魔力の使い方、というのを教えてくれたのだが、あれはもう二度と経験したくない。いろんな意味で恥ずかしすぎて、何回か逃げ出したけど、その度狼状態のせっちゃんに追いかけられて泣く羽目になったから余計嫌だ。本能的に食べられるかと思った。
後ろから抱きしめられるとか、ぴったり重なるように指まで絡められるとか、触れてるところから魔力が流れ込んでるとぞわぞわするとか、場合によってはこれは深夜帯のやつだって気がつく状態に陥るとか、三十路の枯れた女つかまえて何やってんのって話ですよ。絶対魔力って催淫効果ある。っていうか、魔力=生命力だから、あながち間違いでもないと思うし。あと、砦建設してる魔族たちがまじかよって目で見てたり、こそこそ離れて行ったりしたから、普通じゃないんだなって流石に気がついたよね。
でも、さ…せっちゃんにそれいうじゃん?そしたら、友達同士なら普通のことだって言い切られた。もちろん調べた、ら、実際同性の友達同士なら永遠の友情を誓う、という意味で魔力を交換するのは昔からの儀式の一種として残っているのだ。私たちでいえば、桃園の誓いとか義兄弟の契りとか言えるくらいの結構な重さの。怖くて異性については調べてない。けど、例外として子供に対しては上手に魔力が制御できない場合があるから、家族がそうすることもあるらしい。
とりあえず、私が友達で、魔力が制御できない子供だから、ということで納得しておくことにした。深く掘り下げるのは、ちょっとばかり抵抗がある。
「せっちゃん、今日は大規模魔法をやってみよう」
「え、」
「私とせっちゃんなら、なかなかのものができるはずだ」
「でも、せっちゃん建築に関わっちゃいけないんじゃ…?」
「城自体はせっちゃんのおかげであと内装だけだから違う。城の周りの結界だ」
確かに障壁魔法はまだそこまで練習していない。そう思って、一応近くにいるマリアさんに視線だけで問いかける。大丈夫、というかむしろ結界自体はせっちゃんがかけなくてはいけない、といった趣旨の返事を聞いてなるほど、と納得してから、せっちゃんに頷いて返した。
嬉しそうに頷いたせっちゃんは私の手を引いて、砦へと出発する。とはいえ、せっちゃんが移動魔法を使ってくれるのであっという間に到着するのだけれど。
なかなかに大きなーー基本は西洋っぽいのだが、ところどころ日本の戦国時代っぽいーーお城を見上げていると、ふわりと足元がしっかりとした感触を返してくれなくなる。せっちゃんが、移動魔法の応用で空に浮かび上がったのだ。私の腰を片手でぎゅっと抱き寄せて、反対の手でお城の周りを指差した。
「あの辺りにはせっちゃんの言っていた堀を作って、城下町は…砦側だ。その周りを塀で囲んでさらに堀…だったか?」
「じゃあ、外の塀のあたりまでをいっぺんに結界の中に入れればいい?」
「ああ。塀には入り口はいらないからな、塀に沿って作ればいい」
「入り口ない…あ!移動魔法か」
「ああ。どうせ魔族しか出入りしないのなら、街の中に魔法陣を作っておいた方が便利だろう?無論城の中にも作るが」
魔法陣を使っての移動魔法は、行き先が決まっているためただ魔力を込めればいい。その込める魔力の量をほとんどの魔族は持っていて、他の種族が持っていないくらいの量に調整するため、無意味に妨害用の結界をその魔法陣の周りに貼る…という面倒なことをするというのは確か半月前の勉強で習った。
子供で魔力が足りない場合は、魔法のかかっている服や装飾品などを魔力がわりに使って使用できる…というのもその時に習った内容だっただろうか。
「ああ、塀には門の幻覚障壁を一箇所…そうだな、街中の移転魔法陣予定地から一番遠い…あそこに作ろう…できれば塀自体にも強化もかけておこうか」
「消費魔力はどうするのです?」
「せっちゃんがかけてくれれば大分魔力消費が抑えられる。そうすれば、城下に住む民と騎士達に頼むこともできるだろう。必要なら私がいる」
どうせ作ったこの城は私が住むことになるのだろうからな。
冷めきった目で、王都の方を見たせっちゃんは、すぐに表情を柔らかいものに戻して、私の頭をそっと撫でた。ゆっくりと高度を下げて、地面に足をつけたら、向かい合って両手を合わせる。ぴったりと合わせると、私の指先が、せっちゃんの第一関節と第二関節の間…の下の方にくる。大きな手だ、とそう思う。
「始めるぞ」
「ん、」
軽く頷くとジワリと掌が暖かくなる。目を閉じて集中する。ジワリと、私の掌からも暖かな魔力がせっちゃんの方へと流れていく。入れ替わった魔力が循環して、循環して。回って、巡って、行き渡って、自分のものなのか、それともせっちゃんのものなのか、区別ができなくなるほどに全部を混ぜる。混ざった魔力が、私とせっちゃんの間に揺蕩う。ゆらり、ゆらり、強すぎる力は何もないのに風を起こす。
その風に促されるように、ゆっくりと目を開けると、金色が歪んでいる。強い魔力の塊が向こう側を見通すことを許さないからだ。せっちゃんが、力の塊に命令を下す。守れ、と。私はただ、バリアをイメージして、そして、塀に見える門を想像する。しかし、その塀はどんな攻撃でも崩れないほどに強化されている。塀の中には笑顔が溢れている。そんな状態を空想する。
私とせっちゃんの意思が伝わりきった力は、一拍後虹をまとって、噴水のように宙へ上がり、花火が広がるように一瞬でその場を塗り替えた。お城の方から悲鳴のような歓声が聞こえる。成功したらしい。
かくん、と腰が抜けた私を軽々と抱き寄せて、よく頑張ったな、とせっちゃんは私の頭をそっと撫でた。
お手伝い




