1ー12
翌日もジオールさんたちと一緒にお弁当を作って、明確に作業効率が目一杯上がるように、と魔法をかけた…つもりだ。結果は金髪イケメンかマリアさんから連絡が来るはずなのだけれど、それまではせっちゃんとお勉強の時間の予定である。ちなみに、私たちのお昼は昨日同様、お勉強の合間にお弁当を食べる。
せっちゃんの部屋で向かい合って座って、二人で話をする。もちろん、基本的に喋るのはせっちゃんであり、私は話を聞くだけだ。メモを取りたいところなのだが、私の扱う文字は当然のごとく日本語のため、あまり使うべきではないという結論になっている。いざという時暗号として使おうとせっちゃんと話をしたのも理由の一端だ。出身の同じ勇者様たちに見られる可能性もあるけれど…その辺はさらなる暗号となるように変更すればいい。
「では、今日は魔法について、だな」
「お願いします」
ぺこり、頭を下げて、テーブルの上に飲み物を用意。今日は本も使うらしく、かなり分厚い…自立する鈍器と言われる類の本が中心に据えられている。せっちゃんがペラリ、とページをめくると古い書物の匂いが広がった。
低い落ち着いた声でせっちゃんが読み始めたのは、一つの物語…神話だった。
世界には、神がいた。ただ一人、それは男の形をしていている。神は全てを作り、秩序をもたらした。何よりも美しく、荘厳な世界を作り出した。
対するように、魔王がいた。ただ一人、それは女の形をしている。魔王は全てを育み、混沌をもたらした。何よりも不思議な、愛おしい世界へと変えた。
神が作り、魔王が育てた世界には、命が生まれた。それぞれ様々な特徴を持ち、それぞれの土地で暮らし始めた。育った命は長い年月をかけて、神の一柱となった。
男の神と女の神がそれぞれ三柱ずつ、それは神に寵愛を受けた、新たな神だった。彼らは神を父と呼び、主神と崇めた。だが、神と魔王に育てられた命は永遠ではない。
主神と魔王は変わらない。だが、子供達は変わってゆく、自分の子供のように神たちを慈しんでいた魔王はついに、耐えきれなくなった。故に、己の代わりとなる魔王を選ぶ。
そうしてその時に気がついた。己が、魔王ではなく、魔神となっていたことに。魔神は、己の寵愛を魔王に与えた。主神が神たちを選ぶのと同じように、そして、そのものが次代の魔神となることを決めた。
それを知った主神も、決めた。己が作った世界を、己の子供に任せて魔神とともにゆくことを。
「つまり…主神と魔王…魔神は夫婦?」
「とも言えるな」
まさかの神話でした。っていうか、魔王って低級魔王とそうじゃない魔王と、あれ?これなんか違くないだろうか。一昨日聞きかじった神話と、矛盾が生じている気がするのだけれど…。
私の困惑を読んだように、せっちゃんが、小さく笑う。すまない、と告げて、彼は別の本を差し出してきた。自立はしないだろうけれど、そこそこ厚い。首を傾げて受け取ると、本来の神話だ、と声が続く。つまり、この厚さの本をがっつりまとめてダイジェストにするとさっきの話になるからこそ、微妙に矛盾が生じてしまうということだろうか。もしくは、子供向けにまとめたせいで、色々伝わっていないということかもしれない。
「その本と一昨日話したのは、本来の神話。そして先ほどのものが、魔族で語られる神話だ」
「…つまり、神話は一つじゃない、と?」
「ああ」
つまり…あれか。プロテスタントとカトリック的な…大元を辿れば一緒だけど別物。この例えがあっているのか、宗教関連についてはほとんど関わってこなかったし、八百万の神様を信じてると日本人らしく生きてきたから、分からないけれど。
なんとも言えない感覚だ。本来の神話があるのならそれを広めればいいのに、どこかではやりプロパガンダとして使われてしまうのだろうか。この考えはあながち的外れではないに違いない。
「神話は、神話だ。神話の魔王、魔神といった方がいいな、彼女は、最初全ての命に魔力を与えた。だが…今わかるように、魔族以外はその力を使いこなせていない。単純に我々魔族以外は魔神を受け入れなかったからだ」
「受け入れ、ない?」
「神が作った完璧な世界を、混沌とさせたからだ…本来の神話では、神の世界を崩壊させたと記されている」
「主神だけを信じて、魔神を否定した…?」
「そういうことだ」
コクリと頷いたせっちゃんに、そうなんだ、と視線を神話へと落とす。だから、きっと魔族の神話は魔神へ柔らかな言葉を使っているのだろう。これも一種の印象操作なのだろうか。そう思うけれど、私も魔族の一員だからか、悪い気はしなかった。
あとを託される魔神が、せっちゃんなのだと思うと、せっちゃんが遠巻きにされてぼっちでいたことも納得がいくような気がする。私は宗教家じゃないから、神聖さとかそういったものは度外視してしまうけど…簡単に言えば、日本神話で未来の日本における誰かの登場が予言されてて、ある時本当にその人が生まれてきちゃった…ってことと一緒で。人に限らず言えば、本当にラグナロクや最後の審判の日がーーもしくはその前触れがーー起きたということだ。
しかも、この世界には本当に神様と関わっている勇者とか次の神様がいたりするから、宗教も基本的にーー派閥や種族によって差はあるとは言えーーひとつだけなのだ。全世界に知られている存在が生まれた、となれば、それは確かにとんでもないことだろう。
せっちゃんは、想像以上に重たいものを背負っている。認識してから、目の前に座っている存在を見ると、今までと違うように見える。青みがかって光る黒い髪は音までも吸収してしまいそうなほどに静かにその存在感を引き立てていて、赤い光が飛んだ金の瞳は力強さと同じくらいの孤独を押し込めているようだ。天を衝くように伸びるツノは雄々しく、しっかりした目鼻立ちはどことなく険しさを併せ持っている。鍛えられていることが明確にわかるその肉体は、普段は髪色と同じローブに包まれているけれど、見掛け倒しではないと私は身を以て知った。
…まずい、関係ないことを思い出して赤面しそうだ。頭を左右に振って、関係ないことを頭から追い出す。
「つまり、魔法は魔神の力?」
「そうだ。そして魔法には6種類ある。攻撃、回復、付加、障壁、移動、生活…これは昨日伝えたそれぞれの神に対応している」
せっちゃんはそう言ってから、一度喉を潤した。
説明回
そういえば先日はポッキー&プリッツの日でしたね




