1ー10
血相を変えて飛び込んできたマリアさんに3人でキョトンと首をかしげる。動作が似通ってしまったことに関しては何も言い訳はしない、ただの偶然だ。
だが、マリアさんにとっては些細なことだったのか、どこへ行かれていたのですか!と声を荒げる。普段の声より数段高い、女性らしい声だった。しばらくその顔を眺めていると、せっちゃんが城下へ行ってきた、と無表情に告げる。ハーレルさんがそんなに慌ててどうしたの?と問いかける。
バッとモノクルが飛びそうな勢いで、マリアさんが私を見た。
「雪白さん!あのお弁当にどんな効果を付与したのですか?!」
興奮、だろうか。思い切り肩を掴まれてびっくりして、かつあまりの剣幕に怯えて軽く後ずさる。なんならヒッて声も漏れた。
せっちゃんが静かに、落ち着け、マリアと彼女に声をかけてくれた。ハーレルさんが、大丈夫?と私の顔を覗き込んだ、綺麗な顔に見惚れる余裕もなく、コクリと頷く。マリアさんの言っていたことを思い出す。
ええと、確かどんな効果を付与したか…だったよね?
「正式に、考えてつけたわけではないのです」
「え?」
「ジオールさんに疲労回復、と言われたんですけど、それよりも魔法を使うならいっぱい使えて…怪我をしなくて、ものもいっぱい運べて、疲れにくくなって、って作業の効率が上がったら役に立てるかなって…思いました」
怒られるのだろうか?とビクビクと肩を震わせる。どうやら外見年齢に精神が引き摺られているらしく、結構な頻度で子供っぽい言動を取ってしまうのはちょっとどうにかしたいところだ。マリアさんはパチリ、と一度瞬いた。
そして、にっこりと満面の笑みを浮かべて、私の両手を取る。
「まさか、最上級の作業効率上昇をすべてに付与してくださったとは」
「雪白ちゃん、すごいのねぇ…」
二人の言葉に首を傾げる。とりあえず、役に立ったということでいいのだろうか?なんて思っていれば、せっちゃんがそういえば魔法の説明はしていなかったな、と思い出したように告げた。触りはなんとなく聞いたし、魔族が魔法のプロということは聞いたが、それ以外は聞いていない…と思う。私の記憶にないから聞いていないってことにしてもいいんじゃないかな、と判断してせっちゃんに頷く。
なら、明日の勉強は魔法についてだ。そう真面目くさった顔で告げるせっちゃんに今日みたいにお話しする感じだといいのだけれど、と思考を飛ばしたくなる。けれど、マリアさんの興奮は冷めなくて、ついには私の両手を握って、感激の涙を流すまでに至っていた。放っておくのはミスだったと今更ながらに気がつく。
こんな美形さんーー顔立ち自体は綺麗なのだが、どことなく男らしいので、美人というより美形なのだーーを泣かせた、なんて心臓が破裂してしまいそうなほどに恐ろしい。チキンハートには辛すぎる事態だ、人に泣かれることからして苦手だというのに。
「あ、あの、泣かないでください」
細められた瞳からポロリ、と大粒の涙が零れ落ちるのを見て、慌てて掴まれている手を引き抜いて伸ばす。掬い上げるように拭って、彼女の目を見る。本当に美しい。整っているという以外に表現することができないほどに顔立ちが整っているのだ。美形は泣いても目の保養になる…鼻水も垂らさずにただ涙の粒だけを零していた。
ただ、どうにも対応に困ってしまって、助けを求めるようにハーレルさんとせっちゃんを見る。二人は何かを理解しているかのような生暖かい目でマリアさんを見ていて、私の視線に気がつくと、ハーレルさんはにっこりと綺麗な顔にお手本のような笑顔を浮かべて、これまた魅力的な唇の前に白魚のような人差し指を置いた。内緒ね?ってことだろうか…何が?隣のせっちゃんは生暖かい目をしていたのだけど、私と目を合わせると、完全に疑問符が浮かんでいる顔を私に返してきてから、何かを納得したように頷いた。…助けてくれそうにないのだけがわかった。
つまり、このマリアさんの理解不能な現状は私がどうにかするべきなのだろう。そう覚悟して一度深呼吸。私から1秒たりとも目を離していないマリアさんに眉を下げたまま笑う。
「マリアさん、私にわかるように教えてもらえませんか」
「ええ…本当に、ありがとうございます」
理由が聞きたいな。私の心の声は漏れてはいないのだろうけれど、マリアさんにはわかってしまうらしい。ちょっとバツが悪くて、目をそらす。と、同時にマリアさんが話し始めた。
この森に城を建てることは急務であること、それは猶予がない、ということが一番大きいのだけれど、次期魔王であるせっちゃんの実力を見る、という意味も含まれているのだそうで。せっちゃんは為政者として成り立っているのだが、脱走癖というそれを上回る問題点がある。どうやら私を見つけた時も脱走中だったようだ。
誰よりも強いからといって王様がどこにいるかわからない、なんて想像するだけで恐ろしい。王を頂いていなかった元日本人の私がそう思うのだから、王という存在に使えるだろうマリアさんにはそれ以上なのだと思う。気持ちを寄り添わせることはちょっと無理だけど、大変だとはわかる。
そんなせっちゃんに与えられたのが、他種族からの侵攻を防ぐ城の建設。しかも、せっちゃんが手伝ってはいけないという制約と期限と人数制限付きとのことで、実は今も金髪イケメンは現場監督と大規模魔法の指揮をとっているのだとか…大規模魔法ってなんだろうね?閑話休題。
せっちゃんへの忠誠心が高い魔族ばかりらしいのだけれど、このままだとギリギリになるか、連れてきた人たちの何人かは使い潰してしまうことになっていたかもしれない、のだと。マリアさんとハーレルさんは自分に力があれば、と悔しそうだったし、せっちゃんがなんとも言えない顔をしていたから多分事実なんだと思う。
が、私の作業効率上昇の付与魔法によって、彼らの危険がぐんと減っただけではなく、さらに時間短縮までできるため、一気に工事が進むのだ、と嬉しそうにしていた。小さく、私がいれば主人も逃げ出さないでしょうし、と呟いていたの、私は聞いたからね。
何か答えなくては、と口を開こうとしたのだが、むず痒いような居心地の悪さと、言葉にできない違和感を覚えて、首を左右に振るだけにとどめた。ただ、私が言えることはただ一つ。
「なら、また明日も同じように作らせていただけばいいのですか?」
ゲームの料理システムが好きです




